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223 〔首都からの脱出〕

「……ここまで来れば少しはゆっくりできるかな?」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ル、ルチア、大丈夫……?」


 先頭を歩くリーネルン。

 その後ろに息を切らせたルチア。

 それを心配そうに見ているアウル。

 ビルから脱出したリーネルンたちはそのまま駆け足で距離をとっていった。

 普通の、普通以下しか体力の無いルチアを連れて。


「ふ、二人とも……体力、ありすぎ……ですよ」


 なんとか息を整えながら抗議の声を上げるルチア。

 鍛えているリーネルンと転生者のアウル、病弱だったルチアと比べるのは(こく)である。


「うーん、ルチアも鍛えた方がいいのかなぁ」


 アウルがそんなことを言うが――。


「わたしの場合は、コトミさんみたいに、魔法をうまく使えるようになった方がいいと思う」


 ふぅ、っと最後に息を吐き、そう答えるルチア。


「あー、そうだね。風魔法で追い風とか、空を飛ぶとか出来るから、その方がいいかもね」


 アウルはテスヴァリル人であるため、コトミほどではないが、そういった魔法のことにも詳しい。


「とりあえずゆっくりでもいいから移動しちゃおっか。街中に監視カメラがある以上、遅かれ早かれ追い付かれそうだし」


 リーネルンの一声で歩き出す二人。

 日は既に傾き、街は夕日の光とポツポツ灯った街灯の光で照らされている。

 人通りは日中ほどではないが、首都でもあるため観光客含めそれなりの賑わいもある。

 その人の隙間を縫うように歩いていく。


「あ、ワタシ。クロエは無事だった? うん……うん……わかった。それならいつもどおり、スマホの位置情報を元に迎えに来て」


 電話をしていたリーネルンがスマホを仕舞い、アウルたちの方を向く。


「お供のクロエは近くにいるって。もう少ししたら迎えに来れるから、広いところに出てようか」


 そう言って人混みを避けて歩いていくリーネルン。

 アウルたちも遅れずリーネルンに付いて行く。


「ついでにコトミにも連絡だけ入れておくか」


 リーネルンはそうポツリとつぶやくと歩きながらスマホを操作する。

 リーネルンは嫌な胸騒ぎを感じていた。

 コトミが電話に出ないことはいつもどおりであるが、ヘルトレダ国にある傭兵組織で起きた謎の大爆発事故。

 今朝、移動中に舞い込んできたビッグニュースだ。

 爆発の原因は不明なようだが、この傭兵組織はコトミの両親が乗っていた航空機を撃墜したという疑いがかかっている。

 ただの偶然か。いや、コトミであれば――。

 そんな短絡的な行動に出るとはリーネルンも思っていないが、無事を確かめるまでは安心ができない。


「コトミやっと出たっ!!」

 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お、来た来た」


 コトミとの電話を手短に終わらせ、メインストリートを道沿いに歩いていると見慣れた車が横に止まる。

 中を覗き込むと、先ほど別れたメイドのクロエが会釈していた。


「お待たせして申し訳ありません」


 乗り込んだリーネルンにそう声をかけるクロエ。


「んにゃ。こっちこそ巻き込んでゴメンね。首尾はどう?」

「はい。事前にリーネルンお嬢様から伺っていたように、今回の想定ケース――Cに対し動き始めています」


 リーネルンへ説明しながらも三人が乗り込むことを確認し、車を発進させる。


「ん。ありがと。まずは屋敷に戻って、体制を整えてからだね 。まだ大丈夫そう?」

「はい。本局からの要請がありましたが、旦那様不在のいま、指揮命令権はリーネルンお嬢様にあると、突っぱね――納得いただいています」


 それ、絶対納得していないだろうなー、とリーネルンは心の中で思う。

 会話を進めるリーネルンとクロエを横目に、アウルとルチアは首を傾げる。


「あの……リンさん。話が見えないんだけど……」


 街道を走る車に身を揺らせながらアウルが口を開く。


「んーと、そうだね。説明しておこうか。ワタシの推測混じりで、まだハッキリとしていない部分もあるけど」


 そう言ってリーネルンが説明しだす。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 リーネルンがレンツを含む首脳陣の中でコトミのことを問いただされた。

 それについてはある程度、想定の範囲内である。

 知らなければそれでよし、もし知っているようであればレンツが漏らしたのだろうと、リーネルンはそう結論づけるための場に参集した。

 そこに引っかかってきたのであるが、まさかのレンツは関与していないという。

 それでは誰か――。


 リーネルンの頭には一人の人物が思い浮かんでいた。

 そう考えればつじつまが合う。

 恐らくレンツはそのことを知っており――いま現在姿をくらましている。

 軟禁されていたリーネルンを解放し、自身への危機感からほとぼりが冷めるまで身を隠そうと。

 ちなみに、ペルシェール家当主のレンツが不在時の代務者は、バーデルではなく――リーネルンである。

 そのため、レンツが行方をくらませている現在、本局は血眼になってリーネルンを捜しているだろう。



「そういうわけあって、現在逃亡者扱いなんだけどねー」


 あっけらかんと笑うリーネルン。

 アウルとルチアも呆れている。


「でも、それならヘイミムに戻るのはよくないんじゃないの? かなり無理矢理突破してきた感じがするし……」


 アウルの疑問はもっともなことだ。


「それは大丈夫じゃないかな。ワタシに感づかれた以上、これ以上の手出しはしてこないと思うよ。向こうさんはそんな手間をかける時間もないしね」


 時間がない――。

 それが何を意味するのか、アウルとルチアにはわからなかった。

 それでも、このまま逃げ続けるわけにも行かないだろうから、いったんは戻らざるをえないか。

 二人はそういう結論にしかいたれなかった。



「お嬢様にお伝えしなければならないことがあります」


 話が一段落したところでクロエが口を開いた。


「ん? なに?」


 運転中のクロエは一瞬、後部座席の横の二人に目をやり――。


「あぁ、話していいよ。この二人は大丈夫」

「そうですか。では――監視を続けていたコトミお嬢様様が昨日、例の傭兵組織に乗り込まれました」


 ――はい?


 リーネルンは声のない声を上げた。


「そのまま一部の建物が崩落。恐らく巻き込まれたものとみて一時行方不明になりましたが、一夜明けた本日、無事お姿の確認ができました」

「ちょ、ちょっと待って。たった一日目を離しただけだよね。それなのに、あの子はいったい何を……」


 珍しくリーネルンが動揺している。

 そんな主をバックミラーに捉えながら、クロエは淡々と報告を続ける。


「コトミお嬢様が傭兵組織を脱出された直後、何者かの攻撃により傭兵組織は壊滅、文字通り更地となりました」

「…………」


 リーネルンは理解が追いつかないでいる。

 意味は……わかる。

 わかるが、傭兵組織が更地になるほどの攻撃って……。

 コトミの仕業なのか。しかし、あの誰にでも優しいコトミが、そんな無差別的に大量虐殺のような真似をするのだろうか。

 リーネルンは何か言葉を発しようとしているが、何も言葉が出ないでいる。

 アウルとルチアも同じように……、いや、アウルだけは苦笑いのような、呆れた表情をしている。

 他の二人よりもわずかではあるが長い付き合いである。

 何か心当たりがあるのだろうか。


「その後、コトミお嬢様はロキシカの街を散策したあとホテルへと戻られております」

「……わかった。とりあえず、無事ということはわかった。また、落ち着いたらいろいろと教えてもらおう」


 リーネルンの口調が淡々としたものとなり、感情を抑えているのが丸わかりである。


「「…………」」


 アウルとルチアの二人は今後の展開に身震いし、口を紡ぐ。

 心の中でコトミに手を合わせながら――。

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