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222 〔ビルからの脱出〕

 階段を駆け下りながらリーネルンは口を開く。


「スマホは電源を入れておいてね。逆探知される可能性もあるけど、ペリシェール家が探知できないのもマズいから」


 一階、二階、三階……と階段を駆け下りていく。

 リーネルンはエージェントとして数段まとめてリズム良く(くだ)る。

 アウルは高さに関係なく、身体能力の高さを利用し一気に(くだ)る。

 ルチアは助走をつけ飛び、風魔法の応用で着地の衝撃を緩和させる。


「「…………」」


 コトミと違い、ルチアは力業(ちからわざ)で風を起こしているため、正直ホコリが舞う。当然スカートも。

 それでもリーネルンとアウルの二人は何も言うことなく先導する。

 二十階から駆け下りてちょうど半分に差し掛かる頃――。


「……下からおいでなさってるね」


 リーネルンが階段の下を覗き込むとガチャガチャと武装した集団が上ってきている。


「上からも来たようですよ」


 ルチアが言うように上下で挟まれたらしい。


「と、なると、こっちかなっ」


 勢いよく近くの扉を開けるリーネルン。

 三人が踏み入れたフロアはどこかのオフィスのようにガラス張りの部屋がいくつも並んでいるフロアだった。

 人は誰も居ない。無人のその様子に三人は奇妙な感じを覚える。


「なんだろうね。このフロアは」


 アウルがそう漏らすが、リーネルンもルチアもわからない。

 そのまま駆け足でガラス張りの部屋を横切っていく。

 後ろを振り返ると追っ手が来ているようには見えない。

 撒いたか――?

 リーネルンがそう思った瞬間、アウルに引っ張られ横に急転換させられる。


「危ないっ」


 ――その直後に銃声。

 小銃のような音ではなく、ショットガンのような音であるが。

 周囲を巻き込みながら飛んでいく()()はリーネルンに見覚えがあった。


「捕縛用のゴム弾っ。アウル、ありがと。助かったよ」


 リーネルンとルチアをまとめて抱えたアウルが物陰から前方を覗き込む。


「……三人だね。武器があればいいんだけど」


 いつも持ち歩いていた剣は取り上げられてしまったため、現在のアウルに攻撃手段はない。

 どこかに鉄パイプでも転がっていればいいのだが。

 ジリジリと近寄ってくる武装した連中。

 何か手は無いか。リーネルンがそう考えた時――。


「ストーンカノン」


 ルチアが詠唱と共に机の隙間から魔法を放つ。


「ぐあっ!」「げひっ!」「がっ……」


 解き放った魔法――岩の固まりは見事三人に命中し吹き飛ばす。


「「…………」」

「うし、命中。行きますよ」


 ルチアはおもむろに立ち上がり、倒れた連中のところまで駆け寄る。


「気を失っているようですね。先を急ぎましょう」


 頭部ほどの大きさの岩が、目にも留まらぬ速さで飛んでくるのだ。気も失うであろう。


「「…………」」


 若干呆れるリーネルンとアウル。

 ここにも非常識な魔法使いが一人いたわ。

 どちらともなくそうポツリとつぶやき、ルチアと同じく駆けていく。

 リーネルンはゴム弾が装填されている銃を一挺(いっちょう)拝借(はいしゃく)する。

 弾数は少ないが何も無いよりはマシである。


「――っ、また」


 どこから湧いて出たのか、目の前に現れた武装した連中――。

 銃声が鳴り響くと同時に――。


「ストーンシールド」


 ルチアの静かな詠唱に合わせ、目の前に三人を覆うほどの大きな岩壁が出現する。

 連中からの攻撃はその岩壁に阻まれる。


「からのー、アタック!」


 現れた岩壁はルチアの号令によって前方へ飛んでいった。

 連中を巻き込みながら――。


「うし、行きますよ」

「「…………」」


 もう何も言うまい。そう心で思う二人であった。



「階段だ。下りようか」


 フロアの反対側にあった階段より、再び駆け下りる三人。

 上からも下からも特に追っ手らしい追っ手は見当たらない。

 このまま逃げ切れるか――。

 最下層へ到着しリーネルンはそう思う。

 安堵の息を吐きながら開く扉。

 その先には――。


「……仰々(ぎょうぎょう)しいお出迎えだね 」


 扉を開けると地下駐車場。そこに並んだ大勢の人たち。

 乗用車の止まるスペースには装甲車のようなものまで見える。

 ガチャガチャと――階段の上からも迫ってが来ている。

 ――ちっ。リーネルンは心の中で舌打ちしながらも、目の前に立つ男性の前に一歩踏み出す。


「……リーネルン・ペリシェール、我々に歯向かうのかね?」


 この男性と言葉を交わすのは本日二回目である。

 ここに呼ばれ、コトミの力を寄越せと迫った男たち。

 レンツに背中を押され、リーネルンは覚悟を決めていた。


「コトミもこの二人も、大切な友人は渡さない」

「……レンツにリーネルン嬢、ペリシェール家はこの国を裏切るのか? そんなことをすれば国家反逆罪の罪で死罪だぞ」


 男はそう低い声で言い放つ。


「国のために友人を売ることなんてできない」

「…………」


 リーネルンと男の間に一触即発の空気が流れる。


「……捕らえろ」


 武装した連中が前後から迫り来る。


「くっ……」


 万事休す。リーネルンがそう思ったとき――。


「ライト」

「「「なっ……!!」」」


 薄暗い地下駐車場に突如現れた光源。

 ルチアの一声で咄嗟に目をつむったリーネルンたちはなんとか光線の直撃を避けたが――。


「くっ、くそ、目が……!」


 周囲が薄暗く、瞳孔が開ききっていた首脳たちは強烈な光を受け、一時的に視界不良となった。


「とりあえず、突破しますね。エアバレット」


 風の弾丸となったルチアの魔法は目の前の集団を吹き飛ばし、そのまま装甲車までも吹き飛ばしていった。

 バレットと言いながらも、その弾丸はショットガンのように散乱し、包囲網を突破していく。

 リーネルンとアウルは咄嗟に目をつむったが、無傷というわけにはいかず、目をしばしばさせている。


「リンさん。お姉ちゃん。行くよ」


 ルチアに手を引かれ駆け出す二人。


「うぅ……」


 吹き飛ばされた首脳たちは気を失っているが、死者は出ていないようだった。

 三人は駐車場を駆け抜け地上へと到達する。

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