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22 サバイバル

 とりあえず状況を整理しようと、スマホをポチポチ操作しながら電話やメール、地図アプリなどを試す。

 ……が、電波が無いためまったく使えなかった。

 現在地もわからない。唯一わかるのは時間だけか……。

 無いよりはマシなんだろうけど。

 電波を拾えていないから時刻は大きくずれている。

 まぁ、目安にはなるか。


 気を取り直して現状の確認をしよう。

 二人とも怪我はない。荷物も問題ない。

 大事なものはスマホも含め収納に入れているし、特に壊れたりはしていない。

 リンちゃんも大丈夫そうであった。

 銃は崖に飛び出した瞬間、ホルスターにしまっていたとのこと。

 確かに自由落下の時に銃は役に立たないだろうからねぇ。

 でもあの状況でそこまで判断するのって凄すぎじゃないか。何者だよ。


「これからどうしようか。登るのはさすがに無理だから迂回しつつ公園に戻る感じかな?」

「そうね、幸いにも公園の近くだから何時間もかかる距離じゃ無いだろうし。スマホの電波が届かないのが気になるけど。とりあえず移動しようか」


 いまは少し開けた場所にいるが、周囲は茂みに覆われている。

 この中を進まないといけないのは少し気が重くなるが……。

 草刈り用のナイフでも持ってくればよかったな。


「そうだね。歩けるところを探して、行こうか。足元気を付けてね」


 無い物ねだりしても仕方がない。

 とりあえずは公園があるべき場所を目指して進もう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 陽も差さない森の中、茂みをかき分けながら進む。

 木の根っこがいたるところに張り巡らされており、非常に歩きづらい。


「リンちゃん大丈夫?」


 足元を見ながら声をかける。


「これぐらいなら鍛えているから大丈夫よ。それよりもコトミの方が心配なんだけど」


 リンちゃんも同じように足元を見ながら歩いている。


「ん? 私も大丈夫だよ。歩きづらいけどね」


 一旦立ち止まり、スマホを見ると一時間ほど経過していた。

 歩く速度が遅いとはいえ、公園の大きさ的にそろそろ森を抜けてもいい頃合いだけど。

 道に迷ったか、それとも……。

 岩壁に沿うような形で歩き続けているけど、もしこれが当てにならないのだとしたら……。


「しばらくサバイバル生活かぁ」


 再び歩きながらそうつぶやく。


「なに普通に生き残れると思っているのよ。食料はまだしも水が無ければ三日も生きていられないよ」


 洩らした言葉をめざとく聞き付けたリンちゃんからそんなことを言われる。

 水は、まぁ、ねぇ。

 大事だけど私に限っては問題ないし。

 それよりご飯をどうしよう。

 テスヴァリルじゃそれなりに食べられる獣がいたから飢え死にすることは無かったけど。

 さっきのイノシシ降りてこないかな。

 いまの状況だとありがたくいただくんだけど。

 そんなことを思いながら歩き続ける。

 合間に他愛もない話をしながら歩いているから移動はそんなに苦でもない。

 それでもやっぱり疲労は蓄積していくわけで、そろそろどこかで休憩したい。


「おっ」


 そう思っていたところで少し開けた場所にたどり着いた。


「ここでちょっと休憩する?」

「する。疲れた」


 言うが早いが近くの朽ち落ちている木に座るリンちゃん。


「鍛えているからって言っていなかったっけ」

「鍛えているけど、それとこれとは別物よ。疲れるものは疲れるし」


 ま、そりゃそうか。

 私も休憩しよ。

 リンちゃんの隣に腰を下ろす。

 ちょうど、朽ちた木が椅子がわりになっている。


「リンちゃん、チョコレート食べる? 疲れているときは甘いものがいいでしょ」

「いいの? 大事な食料でしょ。いつ助かるかわからないんだから温存しないと」

「まぁ、その時はその時でしょ。イノシシでもいれば良かったんだけどね」


 さっきのイノシシ、やっぱり仕留めておくべきだったか。


「そんなに何度もイノシシに出会いたくないよ。最悪食料にするとしても最後の方でいいね。空腹で倒れそうな時にイノシシ肉を食べる。それで十分よ」

「イノシシ肉美味しそうだけどね。次見つけたら狩ってみるよ」

「美味しそう、ってコトミも食べたこと無いんじゃん。それよりもどうやって狩るのよ」

「それ」


 リンちゃんのちょうど太もも当たりを指差す。


「……(これ)? 確かに、イノシシ程度なら仕留められるけど。まぁ出会ったらどのみち撃つしかないんだからいいけどね。あとは水問題かなぁ。コトミは残りどれくらい?」

「んー、ボトル半分くらいかな」


 ちゃぷちゃぷと遠足用のボトルを振る。


「そっか、ワタシも同じぐらいかな。川でもあればいいんだけどね」


 最悪水はいくらでも出せるけど……。

 ちらっと、リンちゃんの方を見る。

 もし、私が魔法を使えるって知ったらどう反応するかな。

 嫌悪、恐怖……人と違うということはそれだけで奇異の目で見られる。

 最悪、そばに居られなくなってしまうかもしれない。

 どの世界でも異能は受け入れられない存在なのだから。

 この世界にも昔は魔女狩りがあったというし。


 現代では、迷信となってはいるが、本物の魔女が現れた場合、その魔女本人や家族、友人はどうなってしまうのだろうか。

 想像しただけでも背筋が凍える。

 いまは……まだ言えない。

 でも、いつかは必ず言おうと思う。

 だって、大切な友達なのだから。


「待っているからね」


 うっかり考え事に没頭してしまった私に横から声がかけられる。


「っ……、なんのこと?」

「違った? 珍しく真剣な表情していたから、さ」

「私はいつも真剣だよ?」

「え~、そうかな? いつもは『人生イージーモード! こんなの余裕~』って感じで振る舞っているけど」

「リンちゃんは私をなんだと思ってるのよ」


 若干呆れつつ、ボトルの水を飲む。


「え~、あながち間違いないと思うんだけどな。ほら、コトミって年のわりに落ち着いているし、知的だし? 姿は子供、でも中身は大人、的な?」


 あながち間違ってもいない……。

 っていうかほとんどドンピシャじゃないか。

 私ってそんなに分かりやすいのかな……。

 でも、知的の部分だけなんで疑問形なんだよ。泣くぞ?


「そういうリンちゃんの方こそ落ち着いているし、洞察力あるし、銃を扱えるとか身のこなしも普通の子供とは違うでしょ」

「そりゃあ、多少人と違うことぐらいの自覚あるよ。でも、コトミほど常識からかけ離れたことはしていないよ?」

「さらっと人を非常識人にしたね。そんな変なことしているつもりはないんだけど」


 小さくため息をつく。

 リンちゃんって人を非常識にしたがるよね。


「自覚が無いってホント怖いよね。さっきだってあの高さから落ちたら普通死ぬよ? 生きているどころか、ほぼ無傷じゃん。あり得ないって」


 う……。ま、まぁ、この世界じゃ落下イコール死、っていう方程式が常識なんだろうし。

 死ななくても普通は大怪我するか。


「あは、あはは……」


 必殺、笑ってごまかす。

 冷たい汗が背中を流れる。


「はぁ……言いたくないなら別に良いよ。でもいつかは教えてね。知っていればさ、何か協力できることあるかもしれないし」

「…………」


 これは、しらばっくれた方がいいのか……。

 それとも秘密があると言うことは伝えて、協力取り付けた方がいいのか……。

 いや、そもそもなんでバレた?

 普通の人と何も変わらないはずなのに。


「バレるはずか無い~、って思っているようだけど、わかるよ? 普通に。コトミが分かりやすいからってのもあるけど、挙動不審すぎるから。いつかはみんなにバレると思う」


 うそぉ……。


「う……一体どうすれば……」


 ニヤリと邪悪な笑顔でリンちゃんが微笑む。


「ここで白状すれば内緒にしてあげるし、隠し通せるように協力してあげるよ」


 く……。八方塞がりか……。どうすれば……。


「……す、少し時間ちょうだい……」


 結果、先送りにするのが精一杯であった。

 ……はぁ。

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