210 首都観光
少し遅めのお昼ご飯を食べてから街へと繰り出す。
スマホショップにも行きたいし、明日には帰るからちょっと観光がてらお土産でも買って行こう。
テロがあった街とはいえ、腐っても首都。それなりに賑わっているし、人もそこそこいる。
そこに住んでいる人たちにとって、あまりテロとか関係ないのかな。
ただ、商魂たくましいだけですか、そうですか。
というわけで近くに観光客向けの通りがあるということでやってきた。
幅広い路地の左右に出店が広がり、それが数百メートルにも渡って続いている。
食べ物屋からお土産屋、日用品や観光客向けの品々まで、いろいろなお店が広がっている。
ここで何か買っていくか。
でも荷物かさばるかな、って思ったけど、そういえばシロがいるじゃん。
そう思って早速聞いてみた。
買った荷物収納できないかな、って。
そしたら二つ返事でオッケーもらった。
対価は魔力で……って、そんなものでいいのかな。
いや、人によっては貴重なんだろうけど、私にとっては関係ないしな。
……そりゃ、世界を渡ってまで求めに来るか。
妖精にとっての魔力はご飯みたいなものだし。
うん、もう少しだけ優しくしてあげようかな……。
さっきはカレン優先しちゃったし。
あとでいろいろと話を聞こう。うん。
「姉さん、また考えごとですか?」
「あぁ、うんちょっとね」
隣を歩くカレンに声をかけられ、意識を引き戻す。
大したことではないし、わざわざ言うこともないだろう、そう思って半分言葉を濁した。
「別に今言わなくても、あとで視せてもらうのでいいですよ」
「…………」
私にプライバシーというものはないんかい。
でもまぁ、視せないと機嫌悪くなりそうだしなぁ……。
どこで育て方を間違っちゃったかなぁ。
「あ、姉さん。あれ、おいしそうです」
そんなカレンは腕を絡ませながら、道の先にある店を指差す。
さっきからこんな感じで楽しそうにしている。
まぁ……楽しんでくれれば、それはそれでいいんだけど、完全にデートだよな。女の子同士だけど。
さっきのお昼ご飯の時で何かが吹っ切れたのか、何も臆することなく積極的にアプローチしてくる。
……いいんだけど、私にそんな趣味は無いからね?
誰に対してではないけど、そう言い訳しておく。
「姉さん」
「あー、はいはい、クレープ屋さんね。おじさん、三ついただけますか。このオリジナルで」
ちょうど人の切れ目だったからか、すぐ頼めそうだったので、カレンの返答を聞かずに注文する。
どれにするにしても、カレンは私の選ぶものにするだろうし、シロは気にしないだろうし。
「ましましでお願いします」
横からそんな声が聞こえる。
そんなオプションあるかい。
「はーい」
あるんかい。
心の中だけでため息をつきお金を払う。
隣で腕を組んでいるカレンはご機嫌だ。
反対側のシロは相変わらず無表情というか、無関心というか……。いや、心なしか嬉しそうに待っているな?
……あぁ、確か甘いもの好きだったか。
これからはシロの好きそうなお店にも行こうかな。
そんなことを考え、しばし待っているとちょうど出来上がったようだ。
「お待たせしましたー。当店自慢のマシマシクレープになりますー。お嬢ちゃんたち可愛いから、オマケしておきましたー」
マシマシにさらにオマケって、どんだけクリーム乗ってんのよ。
もはや片手では持ちきれないぐらいのクリームの量に少しげんなりする。
カレンやシロは目を輝かせながら受け取っているし。
まぁ、たまにはいいか……。
受け取ってそのまま食べ歩き。
行儀悪いけど、ここでもこれが普通なのか、周りには同じように食べ歩きをしている人たちがいた。
「さすがましましです。この金額でこのボリューム。満足です」
そりゃ、ようござんした。
「…………」
シロもぱっと見はわからないけど、口元が緩んでいるし、ご機嫌なんだろうな。
私も続けてクレープにかじりつく。
うん、甘さ控えめ、あまりくどくなく食べやすい。
これなら多少の量はいけるかな。さすがにこれ全部はいらないけど……。
……クレープの食べ歩きか。
まだ数日しか経っていないのに、リンちゃんとの食べ歩きが随分前のように感じる。
あの頃とは状況が大きく変わっちゃったけど、また同じように楽しい日々を過ごせるかな。
そう思いながら横目でカレンを見る。
「あぁ、もう、クリーム付いちゃっているよ」
子供らしくほっぺにクリームを付けているカレン。
リンちゃんへやったときと同じように、指ですくい舐めとる。
「……えへへ」
びっくりしたような、照れているような笑顔を向けてくる。
……そうだね、リンちゃんとも、カレンとも、こんな平和な日々を過ごせればいいね。
そんなことを思いながらクレープを食べ続ける。
……が、やっぱり半分ぐらいが限界のようで、これ以上は胃もたれしそうな気がした。
隣を見ると、二人とも完食しているようだった。
「……カレンいる? 食べかけだけど……」
「いいんですかっ?」
お、おう……。
ずいっと、勢いよく手を伸ばすカレン。
そんなに食べ足りなかったのか……。
私的には助かるんだけど。
そう思いながらカレンに手渡す。
「えへへ……姉さんの……」
異様に喜んでいるけど、また追加で頼むか?
明日も食べることは出来るけど……。まぁ、明日は明日で別のものを探せばいいか。
シロも物欲しそうにしているし、あなたたち甘いもの好きだね。
「まったく、災難だったぜ」
「…………」
「危うく死ぬとこだったッスよ」
……? 残りのクレープもカレンが完食し、出店を見て回っているときに聞き覚えのある声が聞こえた。
声の主を探すと、少し離れたところに歩いている三人組の男たちがいた。
オールバックの男に、スキンヘッドの男、そして姿勢の悪い痩せ干せた男。
んー……? どこにでもいるような男たちだけど、どこかで見たことあるような……。
全身黒づくめの服装はこの場に似つかわしくないけど、あまり周りも気にしていないようだった。
んー……どこかで会ったことのあるような……。
「姉さん? どうしました?」
「いや、あー、うん、なんでもない」
ちょっと気になるけど、今の楽しい時間を壊しちゃダメだしね。
あまり気にしないようにしよう。
「……姉さん。隠し事ですか?」
「違う違う、ちょっと気になることあったけど、気のせいのようだし、あまり気にしないで」
なんだよ、隠し事って。
ため息が出そうになるのをなんとかこらえる。
「……まぁ、あとで教えてもらいますから、いいんですけどね」
あとで教えるって、それは任意ですか? 強制ですか?
選択権のない状況にため息をこらえきれず、小さくため息をつく。
「そんなことより姉さん。あっちもおいしそうですよ」
まだ食べんのかい。
ため息をつきながらもカレンへ付いていろいろなお店を回っていく。




