表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/300

209 本当の告白

「カレン……びっくりしないで聞いてほしいんだけど……」


 真剣な表情で私の話に耳を傾けるカレン。


「実は……十一歳って言っていたけど、違うんだ」

「…………………………はい?」


 たっぷり十秒以上沈黙を保ってから、声を上げるカレン。

 そんな反応を気にも止めず、私は言葉を続ける。


「さっき話した異世界、そこで十八年過ごして、そして転生――この世界に生まれ変わったの。だから実年齢は……」


 それ以上の言葉を口にすることができず下を向く。

 カレンと視線を合わせることが出来ないまま。


「…………………………」


 無言のプレッシャーが辛い。

 実際は数十秒程度なのだろうが、永遠にも思われる時間が私を襲う。


「………………カ……か」

「……え? なんて?」


 目を合わせられないまま、カレンが何かつぶやいている。

 少し身体を寄せ、その声を聞き漏らさないよう聞き耳を立てる。


「姉さんは……」


 うん。


「バカですかっ!?」

「うひゃあ!?」


 急に大声を出され椅子から転げ落ちそうになる。

 み、耳が……。このやりとり、前にもあったような……。


「そんなことで悩んでいたんですか!? そんなことを隠そうとしていたんですか!?」


 普段、感情を大きく表に出さないカレンが涙を流しながら叫んでいる。

 個室にしておいて良かったなぁ、なんて現実逃避的な考えが頭をよぎるが追い出す。


「ワタシが……ワタシがどれだけ、姉さんの心配を……悔しい思いをしていたのか……」


 最初の勢いは削がれ、徐々にしぼんでいくカレンの言葉。


「ワタシが……まだ……まだ、姉さんに、信頼されていない……だから、と思って……う、う……」


 最後の方は嗚咽(おえつ)にかき消え、その言葉がしぼんでいった。


「カ、カレン……ごめんね? 悪気は無くてね? やっぱり恥ずかしくてさ……」


 あわわ、ワタワタ、とカレンに近寄り説明、もとい弁明する。

 カレンはなかなか泣き止まない。

 普段であれば抱き付いてくる状況なのに、それすらもせず静かに泣いている。

 や、ヤバイ……完全にやっちゃったか……。


「ご、ごめんね? これからは隠し事しないからさ……。なんでも話すから、さ。機嫌直してくれないかな……」


 女の子の涙に弱いのは男だけじゃないんだよ……。

 特に、普段元気な子が静かに泣くって……かなり()()ものがあるんだよ……。



 その後、数分間は十分焦らされ、カレンはゆっくりと顔を上げた。

 この数分間ってめちゃくちゃ長いんだからね……。

 誰にともなくそう愚痴をこぼす。


「姉さん」

「ひゃい……」


 顔を上げたカレンは瞳が(あか)く――比喩(ひゆ)でもなんでもなく、魔眼が爛々(らんらん)と力強く輝いていた。

 泣き腫らした目を隠すように輝いている魔眼。

 今までの中で最大級に魔力が込められている気がする。

 あ、これ、あかんやつや。

 今この瞬間だけは膨れっ面も可愛い仕草ではなく、猛獣に睨まれているような、そんな感覚に襲われた。


「力を抜いてください」


 うん。誰が見ても怒っているな。憤怒(ふんぬ)という言葉がぴったりかのように……。

 逆らっちゃいけないんだろうと、本能的に察し身体から力を抜く。

 これからの展開に背筋を凍らせながら……。

 ふと、視界に入ったシロは手を合わせ目をつむっている。くそっ……。


「もっと、もっとですよ」


 立ち上がり、私の眼を覗き込むように瞳を近づけてくるカレン。

 うわぁ、入ってくる……。

 わずかな抵抗も虚しく、私が今まで隠していたこと――もう既にほとんど暴露してしまったが――の中へも入ってきた。

 こじ開けられた心の中にカレンの意識が入ってくる。

 初めての感覚に戸惑いながらも決して不愉快ではなく、逆にカレンの慈しむような感情を心で感じる。


『姉さん……コトミ姉さん』


 心に直接語りかけられるように、名前を呼ばれる。

 丸裸にされた心では嘘や誤魔化しが効かず、正直な思いが――想いがカレンと交差していく。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ふぅ」


 満足したのか、自分の椅子へ座り、身だしなみを整えるカレン。

 私は……疲れた。ひっっっっじょうに疲れた。

 恥ずかしい……。

 何が恥ずかしいのか。言葉では言い表せないぐらい恥ずかしい。

 心を直接覗かれたんだから、そりゃ当然だろう……。


「また隠し事したら、()にいきますからね?」


 お前は私の旦那かなにかか。

 たっぷり十数分堪能したカレンは、そりゃもういい笑顔だった。



 その後、料理が運ばれてきたので、とりあえずお昼ご飯とする。

 案外遅かったのは気をつかってくれたのか……。


「……覗いてみてどうだった?」


 ご飯も中盤、気になってカレンへ聞いてみた。


「もぐもぐ……。――うーん、もう隠していることは無さそうでした」

「…………」


 ど、どこまで視えたんだろうね……。


「あ、でも、視えなかったのもありましたよ。でも、それは姉さんが悪いわけじゃないようなので、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地あり、です」


 なんだ、その犯罪者予備軍のような扱いは……。

 指をクルクル回しながら続けるカレン。


「たぶん、姉さんが無意識下で閉ざしているんでしょうね。何があったかはわかんないんですけど。姉さんが意識していないことは視られませんでした」


 すごいこと言っている気がするんだけど……。

 それって、ホント丸裸にされたんじゃ――。そういえば心なしかカレンの機嫌がいいような……。


「ふふ、ふふふ」


 何を……視たんだろうか。


「でも、姉さんはやっぱり姉さんで、良かった、です」


 えと、それはいったい……?

 ニコニコとしながら食事を進めるカレン。

 私も同じく食事を進めるも、味は良くわかんなかった。



 食後のティータイム。私はげっそり。頑張った。頑張ったんだよ……。

 シロはシロで我関せずという風にご飯食べていたし。

 はぁ。


「カレンさんや。私の個人情報はあまり言い触らさないでくださいね」


 悲願するように、念のため伝えておく。


「なにを言っているんですか。姉さんはワタシだけのものなんですから、誰にも言うわけないじゃないですか」

「…………」


 それはそれで怖いが……まぁ、信じておこう。うん。

 はぁ、小さくないため息をつきつつ、丸く? 収まったことに少しだけ安堵する。


「とりあえず、明日で五日目だからやっと帰れるね」


 長い。長かった。

 いや、平和な五日間であれば良かったんだよ。

 でもね、そうじゃなかったから大変だったんだよ。

 この五日間を思い出し、少しげんなりする。


「帰る……姉さんの家は隣国のロフェメルにあるんですよね。アルセタの街に帰るんですか?」

「いや、とりあえずはリンちゃんの家かな。まだ長期休みの途中だし、いろいろと報告することもあるから」

「…………」


 ん? どうした?


「ずいぶんリンさんと仲がいいようですけど、浮気はいけませんよ?」


 三白眼をこちらへ向け、そんなことをカレンは言う。


「浮気ってなによ、浮気って。まったく」


 あんたは私の旦那かなにかか。

 心を詠んだからか、国のことやリンちゃんのことがわかっちゃったか。

 まぁ、別に隠すことはないし……というよりは何も隠せなくなっちゃったしな……。

 うぅ……私、変なことしていないよね……。


「浮気したら姉さんの恥ずかしい過去を暴露しますからね」


 やめてくれ、ホントに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ