205 魔眼少女の気持ちと告白
どうしたものか。
走り去って行ったカレンを追いかける気力も無く、とりあえずシロの元へと戻る。
本当は追いかけた方がいいんだろうが、追いかけてなんて声をかければいいのだろうか。
カレンが悔しがっていることはなんとなくわかる。
悲しそうにしていることも。
だけど、その理由がわからない。
わからないのに、追いかけて、なんて声をかけたらいいのか。
「はぁ……」
ため息をつきながらシロの待っているテーブルに座る。
「…………」
シロは変わらない表情で魔力を吸い続けている。
「えぇと、いろいろ聞きたい話はあるんだけど、とりあえず……カレンとどんな話をしたの?」
「んー……。魔力吸収をやめられないかと聞かれたから無理と答えた。魔力吸収をやりたいと言われたから無理と答えた」
「…………」
なんじゃ、そりゃ。
嘘をついているわけでもないから、今の話のどこかにカレンの思うところがあったのだろう。
カレンのことも心配だけど……どうするか。
「カレンの居場所ってわかる?」
妖精族は魔力生命体であるが故に、魔力の扱いには長けている。
魔力の匂いにも敏感なため、さっき会ったカレンであれば場所はわかるだろう。
問われたシロは一瞬目をつむり――。
「あっち」
小さく指を差した。
あっちは――ホテルの方角か。
それならホテルへ向かいながら話をするかな。
一度お風呂にも入りたいし。
そう思い、フードコートをあとにする。
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「えぇと、ところでなんでこの世界に来たんだっけ」
シロと二人、ホテルへ向かって話しながら歩き出す。
「……さっきも言ったけど、魔力をもらいに来た」
言ったね。言ったけどさ。そんな軽く言うことなのかな。
テスヴァリルとこの世界、そんな簡単に行き来できないような気がするんだけど。
でも、なんでこのタイミングなんだろ。
この世界に生まれ変わって十年ちょっと。
もうちょっと早く来てもよかった気がするんだけど。
なにか理由でもあるのかな。
それにしても、魔力のために世界を渡るとか、どれだけ食欲旺盛なんだか。
『つい先ほど入ったニュースです。ロキシカの南側に位置していたベレンデロ傭兵組織、この傭兵組織で大規模な爆発が発生しました』
途中、家電量販店のテレビからそんなニュースが流れてきた。
この世界の情報伝達速度は早い。
つい先ほどのことなのに、もう知られている。
そういえばリンちゃんに連絡したいけどスマホが無くなっちゃったんだよな。
あとでスマホショップに行って新しいの買うか……。
『爆発の原因は調査中。犠牲者の数は増え続ける一方、生存者は今のところ見つかっておりません』
そんなニュースを聞き流し、横に並んで歩くシロへと視線を向ける。
「ところで……テスヴァリルって、今どうなっているの?」
どれだけ時間が経っているのか、私が滞在していた街、ラスティはどうなっているのか。
単純に興味が湧いた。
そもそも私はなんで生まれ変わったんだっけ?
「……テスヴァリル自体は健在している。ここに来る前は森にいたから、街がどうなっているかは知らない」
「そっか」
まぁ、普通妖精は森に住むものだしな。シロがイレギュラーなだけで。
それにしても、私が居なくなっても大丈夫だったのかな。
そんなとりとめない話をしていたらホテルへと着いた。
とりあえずカレンのことをどうにかしなきゃ。
「ちょっとカレンと話をしてくるからどこかで待てる? それと、少しだけ魔力吸うの待って欲しい」
カレンが情緒不安定になったのは、たぶん魔力吸収のことだからな。
「……………………わかった」
めっちゃ間があったな。
まぁ、この子にとって魔力はご飯みたいなものだし、それを止めさせるなんてちょっと酷だったかな。
それでも、今ばかりは待ってて欲しい。
あとで好きなだけ――限度はあるけど、好きなだけ吸わせてあげるから。
そう思いながら部屋の扉へ手をかける。
ホテルの部屋へと入りながら、そういえばシロは残りの魔力は大丈夫なんだろうか、という考えがよぎっていった。
「……カレン?」
薄暗い部屋、扉から入ってくる光で、ベッドの上に人影が見える。
部屋の中ほどまで来るとその姿が薄らと見えてくる。
カレンはベッドの上で膝を抱え座っていた。
その横にそっと腰を下ろす。
「…………」
カレンは何も言葉を発さない。
今までであれば元気でやかましく、ベタベタと引っ付いてきたのに、今はなんというか……他人――のように感じた。
「……カレン」
もう一度名前を呼ぶ。
私のことを姉と言って慕ってきた女の子。
お互いに両親を亡くし、身寄りも無くなった。
二人で生きていきたい、そうカレンから言われたこともあった。
でも……今の、カレンの気持ちはどうなんだろか。
シロが現れたことで変わってしまったのだろうか。
「……シロはね、この世界の子じゃないの」
カレンの肩が一瞬揺れる。そんな気がした。
「別の世界からね、私を追いかけてやってきたの」
「…………」
カレンは何も言わない。だけど、私の言葉に耳を傾けていることはわかる。
「カレンにはまだ説明していなかったけど……私は体質上、魔力が無くならないんだ。魔法を使って魔力を使い切っても、すぐに回復するの。だから……シロ――魔力を主食としている種族の妖精族は、私の魔力を求めて別の世界からやってきた」
「…………」
カレンは変わらず、無言のままうつむいている。
「いきなりこんな話をしても混乱するよね」
あはは、と言いながら誤魔化すように笑う。
いきなり異世界とかなんとか言われても、すぐには受け入れられないだろう。
「……私もね、もともとは別の世界に居たんだ」
カレンの肩が見るからに揺れる。
「黙っててゴメン。もし言ったら、この関係が崩れてしまうんじゃないかって、そう思ったらなかなか言えなかったんだ」
カレンの頭に触れる。
一瞬ビクッとしたカレンだが、そのまま頭を撫でてやると剣呑な雰囲気が少し和らいだような、そんな気がした。
「私のことを姉と呼んでくれてありがとう。短い間だったけど楽しかったよ。両親が亡くなった寂しさも、カレンのおかげで紛らわすことができた」
カレンがゆっくりと顔を上げる。
その瞳は魔眼とは違う色で赤く腫れていた。
「ねぇ……さん……」
「ふふ。こんな私でも、まだ姉と呼んでくれるんだね。……カレンは、これからどうする? もう、能力は十分使いこなせているし、もし一人で行きたいなら――っと」
頭を撫でながらカレンの気持ちを確認すると、言い終わる前にカレンが胸に飛び込んできた。
「姉さん……そんなこと言わないで……お願いですから……」
顔をうずめながら悲願するように言葉を漏らすカレン。
そんなカレンを受け止め、優しく髪をといていく。
「ワタシはどんな姉さんでも……異世界の人でも、人間でなくてもいい。今の姉さんが好きなんです。コトミ姉さんが、大好きなんです。離れたく、ないの……」
服越しにカレンが泣いているのがわかる。
「ごめんね。悲しませたいわけじゃないの。でも、カレンに話していないことも、隠していることもまだあるの。そんな私に、カレンの姉を名乗る資格は無いと思っていた」
身体にしがみ付きながらカレンは首を横に振る。
「そんなこと、ないです。ワタシが、姉さんの話を受け止めます。どんなことでも、受け止めます。それで、姉さんを嫌いになることなんて、ないですから」
「ふふ、ありがとう。……カレン、こっちおいで」
胸のあたりに顔をうずめているカレンを引っ張り起こし、視線を合わせる。
「ねぇ、さん……」
泣き腫らした眼は赤くなっており、普段の可愛らしさはない。
それでも、悲しみに打ちひしがれていた先ほどの表情とは打って変わり、安堵の表情を浮かべている。
そのままカレンの身体を抱き寄せ、額を合わせる。
それだけで、悲しみの表情が、困ったような、嬉しそうな、そんな表情へと変わっていく。
「ふふ、カレンは可愛いね」
「姉さん……。姉さんは、意地悪です」
「あはは、ごめんね」
お互いの息がかかる距離でポツリ、ポツリと話し出す。




