202 白い少女の正体
「えっと、この白い子の名前はシロ。昔の知り合い? だね」
三人横並びになり歩きながら説明する。
『で、こっちのはカレン。と言ってもあまり興味は無いかな……』
妖精だしな。
『それより、どうしてここに居るの?』
この子も生まれ変わり……ってわけではないだろうに。
テスヴァリルから転移魔法で来れたのか?
かなり無茶苦茶な気がするんだけど……。
『ご飯』
……え?
『おいしいご飯。求めてやってきた』
……マジか。
どうして私の周りには食い意地が張った子ばかりいるのだろうか。
こめかみを押さえながら次の言葉を発しようとしたところ――。
「姉さん、知らない言葉で喋っていないで、ちゃんと説明してください」
魔眼を爛々と輝かせたカレンに睨まれた。
あー、こっちにも説明しなきゃ。
さすがに心を詠んで終わり、って訳にもいかないしね。
知られたらマズいことだってあるし。
「……姉さんがワタシに隠し事をしている」
「誰にだって言えないことの一つや二つはあるものでしょ。あまりそう詰め寄らないの」
心の奥底を見透かそうと私に近寄るカレンを押し留める。
「むー……」
カレンは不満そうだけどこればっかりは譲れない。
『魔力……』
「……え?」
カレンの相手をしていたら今度はシロが何か言い出した。
『魔力が足りない。もらってもいいでしょ』
あー、まぁ、今回も助かったし、仕方がないか。
シロが物欲しそうにしているから魔力の吸い取りは許す。
うなずいた私に満足したシロは前と同じように魔力を吸収しだした。――その瞬間。
「なっ、姉さん!? この……!」
カレンが何かを察したのか、突然魔眼に魔力を注ぎ込みシロを視界に収める。
「あっ、ちょっと待って――」
そういえば魔眼は魔力の流れも見えるんだった。
端から見れば魔力を吸い取られている感じに見えるのだろう。
「なっ――操視が効かない!? それなら……!」
魔力生命体であるシロへ、魔力による攻撃などは受け付けない。
魔眼とは一番相性の悪い相手になるな。
そんな悠長なことを考えていたら、カレンが自身のスカートをめくり――何やってんだよ――護身用のナイフを取り出した。
「って、まてまてまて」
今にも飛びかかりそうなカレンにしがみつき制止させる。
「ね、姉さん離してください! 早くなんとかしないと……姉さんが!」
「大丈夫だから。落ち着いて。私なら、大丈夫だから」
私の言葉に少し落ち着いたのか力を緩める。
「で、でも、姉さんの魔力が……」
カレンは泣きそうになりながらシロと私を交互に見る。
「大丈夫、大丈夫」
身体をさすりながらそう声をかけると、少しずつ落ち着いてきたカレン。
『この子も食べていいの?』
『ダメだからね』
シロもいったい何を言い出すのか。
確かに、この世界じゃ魔力持ちが少なくて吸い取ることができないのだろうけど……。
って、そうなると、この妖精はどうやって生きていくの?
……なんか、嫌な予感がしたので、考えることをやめた。
うん、なんとかなる。きっと、なんとかなる。
「あの、姉さん。その言葉、ワタシわかんないんですけど」
シロと会話していたら胸の中のカレンからそう声がかかる。
「あー、ちょっと待ってね」
私とアウルはこの世界の言葉も喋れるけどシロはどうなんだろうか。
『シロって、この世界の言葉は話せる?』
シロにそう言うと、小さくうなずき、斜め上を見上げる。
……空? 何かあるのかな。
シロの視線を追いかけても何もない。
いったい何だろうとシロに視線を戻すと――。
「Ahー……アー、アー……あー。んっ、あーあー。ん、どう?」
「……バッチリだね」
どうやったか非常に気になるんだろうけど、気にしたらダメなんだろうなぁ……。
「えぇと、あらためて紹介しようか。……と言っても複雑すぎて……。とりあえず名前はシロ、だね」
街のある方角に向かって三人歩きながらシロのことを紹介する。
「で、この子はカレン。見てのとおり魔眼持ち」
「……よろしくお願いします」
カレンはバリバリ警戒しながらシロのことを見ている。
「…………」
反して、シロは目を合わせるけど、あまり興味無さそうにしている。
別に無視しているわけじゃないんだろうけどなぁ。
それより、シロのことをどうやって紹介しようか。
テスヴァリルのことを内緒にしながら説明できるのかな……。
まぁまぁ難しい展開だよね。
「この世界、魔力持ちは居なかった。その中で魔眼持ちが居るのは珍しい」
私がうんうん唸っていると、そんなことをシロが言い出す。
「へ、へぇ……。そうなんだ」
あまり「世界」とかの単語は出してほしくないんだけどなぁ……。
あぁ、ほら、カレンが私のことをじーっと見てるし。
意外とこの子は察しがいいんだよな……。
「姉さん。いろいろと聞きたいことがあるんですが」
ほらね……。
「うん、だよね……。何から説明しようか」
ホント、どうしよう……。
そもそも、なんでシロが居るのかも謎すぎる。
わからないことが多いからあんまり変なことは言えないけど、カレンはじっと見つめてくるし、シロは横目でこちらの様子をうかがってくる。
ホントどうしたものか……。
クルクルクルゥ〜。
「…………」
……そういえば一晩丸々ご飯食べられていないんだった。
正確な時間はわからないけど、夜が明けてちょっとしたところかな。
街まで歩く必要はあるんだけど、どのぐらい時間がかかるかな……。
でも、仕方がない。とりあえず街を目指して歩こう。
そう思っていたら、遠くからこちらへ向かって走ってくる車が見えた。
「んー……? あれは……」
姿を隠そうとしたけど、どこか見覚えのある車。
段々とその姿が鮮明になってくる。
砂埃を上げながら走ってきた車は速度を落とし、私たち三人の前でゆっくりと停止した。
開く後部座席のドア。
「レンラクナイカラムカエニキタ」
「えぇと……ありがとう、ございます?」
声をかけてきた運転手は傭兵組織へ送り届けてくれた人だった。
わざわざ迎えに来てくれたのか……。律儀というかなんというか。
それじゃ、せっかくなので街までお願いするかな。
三人まとめて後部座席に押し込み入る。
……うっかりしていたけど、さっきまで瓦礫に埋もれていたものだから、私たち埃っぽい。
また、チップを弾んでおこう……。
 




