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197 〔呆れる白い少女〕

 ……んぅ、なに……? ……朝ご飯?

 人間が呆れている。この子はいつも呆れている。

 それでも魔力はくれた。実は優しい人間。



 出かける? もちろん付いていく。


「勘の良い奴がいるのよ――」


 よくわからないけど、言われたとおりに魔力吸収は待つ。

 ――っ! 建物の中に足を踏み入れた瞬間、寒気がした。

 この殺意の出所は――あの(エルフ)

 気配を――普段漏らしている微少な魔力も含め、遮断する。

 まるでここに存在しないかのように振る舞う。ただの()()のように――。

 あれは、正面からやり合ってはいけない。本能が警鐘(けいしょう)を鳴らす。



「……危害さえ加えられなければね」


 そう言ったエルフからは殺意が消えた。

 ……見逃してくれた? なぜ?

 疑問は尽きない。けど、大丈夫、なのかな。

 小さい人間の背を追いかけ建物から急いで出る。

 ……生きた心地がしなかった。



 森の中で小さい人間が何かを捜している。

 捜し物……タイガーベアー、だったっけ。

 それなら、この辺にはいない。


「――あなた名前は?」


 名前……? 名前なんてない。

 今まで名乗ったことも、きっとこれからも、名乗ることなんてない。


「じゃあ、シロ、で」


 ……………………なにが? いや、まさか……。

 その予想は的中のようで、悲しそうな表情をする人間。

 はぁ、仕方がない。


 「わかった」


 もう、魔力をくれるならなんでもいいよ。


 「嫌なら変えてもいいけど」


 ……なんとなく、なんとなくだけど、余計ひどくなるような気がした。

 これも妖精の本能がなせる技か……。

 ちなみに、この人間はシャロと言うらしい。

 シャロ――おいしい魔力の持ち主。



 ――魔物が近づいてくる。でも、この人間は気がついていない。

 ……死んだら困る。確かこの人間の名前は――。


「……シャロ」


 名前を呼んだ。初めて人間の名を呼んだ。

 なんだろう。この気持ちは。

 人間なんてただ魔力を持っている存在なだけかと思っていた。

 でも、今はこの人間――シャロという存在が気になる。

 おいしい魔力の秘密。絶対に暴く。



 魔力吸収をいったん止めて退避する。

 ドラゴンを倒せるならこの程度の魔物ぐらい余裕だろう。

 高みの見物――木の上から戦闘が終わるのを待つ。

 ……? あの子、シャロ、もしかして――。

 予測は的中した。シャロは二匹目、三匹目の魔物を認識していなかった。

 おいしいご飯が――。まったく世話の焼ける。



 目の前で目障りな魔物が暴れている。

 早くなんとかして欲しい。

 そう思ったらシャロから食べ放題の事実を突きつけられる。

 ……よくわからなかったけど、もう我慢しなくていいということだけは理解できた。

 仕方がない。今日だけでも十分な魔力をもらえたし、少しだけなら分けてあげる。

 ……って、魔力どれだけ消費するの?


「あぁ……」


 そりゃそうでしょ……。



 シャロが倒れた。

 おいしいご飯が――、っと思ったら魔力酔いらしかった。

 つんつんすると面白かった。

 人間ってこんな風になるんだね。



 その後しばらくしたらシャロも復活した。

 討伐証明だけ切り取っていくらしい。

 ……人間にとって、魔物の素材は大事なものだったはず。

 お金に換えられて、おいしいご飯が食べられる。

 ……妖精もおいしいご飯がほしい。

 魔力の代わりに持って帰ることはできる。

 そう言うと喜ばれた。だけど呆れられた。

 シャロは表情豊かだ。



「シロ、出せる?」


 そう言われた場所はさっきの建物の裏。

 シャロからさっき収納したタイガーベアーを出せと言われた。

 エルフが居るけど、先ほどのような殺意は放っていない。

 魔力吸収も止められていないから続けている。

 多分、気がつかれている。でも、何も言われない。

 ……いいのかな。



 タイガーベアーを三体とも出したあと、シャロとともに人間がいっぱいいる建物に入った。

 目の前にはコップが置かれた。

 ……甘い。魔力もおいしいけど、これもおいしい。


「じゃ、この店とっておきの料理を頼もうか」


 ……?

 そう言ってシャロは何かを頼んでいる。

 しばらく待っていると先ほどのエルフが、甘い匂いがする何かを持ってきた。

 なに……これ……?

 甘美な匂いが鼻をくすぐり、無性に食べたい欲求に駆られる。

 食べて、いいのかな。そう思い、シャロを見る。



 ……おいしかった。シャロの魔力もおいしいけど、これはこれでおいしかった。

 どっちが好きか……。どっちも好きだった。



「今夜はどうするの?」


 シャロからそう聞かれたけど、食べ放題だから遠慮するつもりもない。

 当然行く。寝ている間も魔力は欲しい。

 ……抱きしめていると、すぅすぅと、吐息が聞こえてきた。

 魔力吸収は続けている。食べ放題。嬉しい。

 体質的に寝る必要もないけど、一人でやることもないから、シャロと一緒に目をつむる。

 ――また、明日。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あれから何日経ったかな。

 久しぶりに魔力をもらいに行こう。

 そう思い、シャロの家へと転移する。


 「……居ない」


 この家の主は留守だった。

 魔力を探知する。


 「……居た」


 居たけど……。


 「……どこ?」


 遠い。

 いまいち位置まではわからないけど方角と距離はわかる。

 シャロの魔力を探知するとかなり遠くに居るようだった。


 「……まったく」


 わたしのおいしいご飯、勝手に居なくなると困る。

 そう思い転移する。



 「よっと」


 シャロの魔力を求め転移……居た。

 と、思ったら血まみれで、今にも倒れそうな姿で居た。

 怪我、してる?

 ふと、気配を感じ振り返る。

 ……人間が、いっぱい。

 シャロを見る。

 ――血まみれのご飯。

 ……………………へぇ。

 自分の表情が――、口角が上ずっているのがわかる。

 ……容赦しない。


 

 ……無駄。

 ……無駄。

 ……無駄。

 ……無駄。

 


 ――ふん、普通の人間なんて相手にならない。

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