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196 〔白い少女の食欲〕

 最近、森が騒がしくなった。

 どこから紛れ込んで来たのか、ドラゴンが近くに住み着いてしまったのだ。

 追い出そうにも妖精族はあまり戦いが好きではない。

 自衛の手段は持っているが、できることなら穏便に立ち退いてもらいたい。

 それが、妖精たちの総意であった。



「この森に何か用か?」


 また新たな人間がやってきた。

 今まで何度もドラゴンの元へ連れていったけど、結果は同じだった。

 あの魔物クラスになると人間も手こずるらしい。

 あるものは逃走し、あるものはドラゴンの餌となった。

 今回もきっと同じことになるだろう、そう思っていた。



「……ここ」


 いつもの場所へと案内し、人間を残して転移する。

 戦いの行く末を見守るため、少し離れた木の上に座った。


(今回は二人だけだし、またダメかな)


 小さくつぶやくと同時にドラゴンが遠吠え、戦闘の火蓋(ひぶた)が切って落とされた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 案の定、一人はすぐに戦闘不能となった。

 まだ生きてはいるけど、時間の問題かな。


「こっちだよ!」


 もう一人が器用に立ち回っているけど、ドラゴンは一人で倒せるほど甘いものではない。

 それに、あの人間は魔力を無駄に放出させている。

 どれだけ魔力保有量が多くても人間の限界は早く訪れる。

 さほど大したことのない魔法使いなんだろう。



 いまだ続く戦闘。

 遠くなっていく戦闘音を追いかけるため、立ち上がって転移する。

 妖精は魔力の扱いに長けている。

 放出する魔力を完全に遮断し、気配を消すこともできる。

 そのため、気配に敏感なドラゴンにも気がつかれず、事の結果を見届けることができる。

 もう一人の人間が、ドラゴンに吹き飛ばされ木々を薙ぎ倒しながら森の奥へと消えていった。


(終わり、かな)


 一応、生死の確認をしようと近くの木に転移する。


 

(……まだ、立ち上がるの?)


 近くの木から人間を見下ろす。

 むせるように大きく咳き込み、ところどころ血が滲んでいる小さき人間。

 そんな人間に重たい一撃をドラゴンが振り下ろす。

 響き渡る衝撃。人間は……木の上に転移していた。


(案外タフ。でも、それだけじゃ倒せない)


 人間は息切らせながらも一振りの剣を取り出した。

 細く見かけも強そうに見えない。

 片刃で反っている特徴は見られるが、そんなもので――そう思っていたところ、剣が色味を帯びてきた。

 鋼色から暗紅色(あんこうしょく)暗赤色(あんせきしょく)、緋色へ、緋色から目をつぶりたくなるような白色へと。


(なに……あれ?)


 剣を握りしめ、人間は再びドラゴンへと立ち向かう。


「――一閃」


 体格差があまりにもあるため、剣も下から振り上げる格好となるが――その結果を目にし、言葉を失う。

 ドラゴンの皮膚は鉄より固いと言われている。

 その皮膚を破るには相当の威力が必要となるが――あの細い剣で、ドラゴンの腕が木々をなぎ倒しながら飛んで行った。


(――え?)


 呆然とし言葉も出ない。

 この、小さき人間が――。


「――二閃」


 魔力を無駄に放出していた、弱き魔法使いが――。


「――三閃」


 ドラゴンを――制した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 小さき人間が横たわっている。

 その人間を木の上から見下ろす。


「…………」


 妖精は魔力を主食として存在する。

 自然発生している魔力しかり、魔物の魔力しかり、――人間の魔力しかり。

 魔力にも質がある以上、なんでもかんでも吸い取るものではない。

 人間がなんでもかんでも口に入れないように、妖精族も節度をわきまえているのである。

 でも――。

 木の上で立ち上がり、転移魔法で地上に下りる。

 小さき人間の前へ――。



「あなたの魔力、ちょっとちょうだい」


 通常、妖精から人間へ魔力をもらうようなことはしない。

 ほとんどが敵対してくるものだから遠慮も断りも必要ないのであろう。

 でも、この人間は敵対するわけでもない。

 それどころか、妖精の頼みを聞いてくれる存在である。

 だから――本能的に頼んでみようと思ったのだ。

 ――変わった妖精。小さき人間がそう思うのも無理はなかった。



(これは……)


 おいしい。新鮮で鮮度がある。


「んぅ」


(あ……やめないで……)


 声を上げたから、魔力の供給を止められそうになる。

 おいしい。もっと欲しい。もっと魔力を――。

 繋いだ手を離さないように、力一杯にぎる。

 それでも、短い時間で終わりがやってくる。

 ……人間はひ弱な生き物。

 これ以上魔力を吸い取って死んだら、二度とこんなおいしい魔力をもらえないかもしれない。

 そう思ったら自然と手が離れた。

 でも、つぎ会う約束は忘れない。

 ――妖精の魔玉。用意しておくから。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……久しぶり」


 また、魔力をもらいに来た。

 妖精の魔玉も用意してきた。これでばっちり。

 人間が呆れているけど気にしない。



「――面倒だからあなたから吸い取って欲しいんだけど」


 いいんだけど……どうなっても知らないよ?

 説明しても聞かない人間。まったく。

 別にいいや。死なない程度に吸い取ろう。

 そう言って多少は手加減しての魔力吸収。

 


 ……? この人間どれだけの魔力を持っているの?

 普通の人間であれば数分で卒倒するのに、顔色一つ変えずに平気そうな人間。

 ……遠慮は、しない。

 吸い取る速度を数段階上げる。

 ……これも、耐えるの?

 妖精としての自信を失いそうになるけど、それよりおいしい魔力に歓喜した。

 おいしい――。おいしい――。おいしい――。

 鮮度もそうだけど、これだけの大量の魔力。

 久しぶりにお腹いっぱい吸い取れる。

 いま、この時ばかりは、この人間に――大量の魔力を保有している人間に感謝する。

 でも……もうそろそろ、限界、かな。

 ある程度満足したところで、いったん魔力吸収を止める。

 吸い取りすぎて死んでも困るから。

 また、明日来るね。


 

 そう言って次の日も魔力をもらいに来た。

 ……寝てる。……いいや。

 勝手に魔力吸収しようかと思ったけど、死んでも困るから待つ。

 

 ……待つ。

 

 ……待つ。

 

 ……ま、つ……。

 

 ……すぅ……すぅ……。

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