19 アルテスト自然公園
「は~い、みなさ~ん。こっちに集まって下さ~い」
バスを降りて先生のもとに集合する。
他のクラスの生徒たちもゾロゾロと、それぞれの先生のところに集合している。
リンちゃんは相変わらず私の隣に陣取っている。
何がそんなにいいのかな。
私は昔からあまり喋るほうじゃないし。
一緒に居たところで楽しくないと思うんだけど。
そういえば昔も私につきまとう子がいたな。
ホント、何がそんなにいいのやら。
「それでは~、もうすぐお昼ご飯なので~お弁当を食べる場所に行きますよ~。ついてきてくださいね~」
そう言って歩き出す先生についていく。
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駐車場から少し歩いたところにその公園はあった。
国内最大級の公園であり、いくつかのエリアで構成されている。
幅は四キロメートルほど、奥行き二キロメートルほどは人の手がかけられているが、そこから先はほぼ自然で、数十キロメートルにおよび森林が広がっている。
いわゆるウィルダネスエリアというものだね。
ウィルダネスエリアとは野生動物や自然が豊かで、開発が進んでいない未開拓の地域を再現したエリアのことをいうらしい。
そのほかインターネットの情報では、まれに遭難者も出るとのこと。
そんなの公園と言っていいのだろうか。
そもそもこの規模で公園と言っていいのかという話だよね。
スマホで事前に調べてはいたが、情報が膨大すぎて全部読むのは諦めた。
入り口は、まぁ、一般的なテーマパークのような入場ゲートとなっている。
手元のパンフレットによると、公園内に湖や川、滝、森林、草原など多様な自然環境が整っているらしい。
多種多様な生物も生息しているため、自然との調和を重視されて作られた公園であるとのこと。
確かに、書いてあることだけ見ると子供の遠足にはうってつけの場所ではある。
「それじゃ~それぞれのグループに別れて~並んでください~。オリエンテーリングについて~説明します~」
少し開けた広場に到着したところで、先生から声がかかり六人六列で並ぶ。
オリエンテーリングの内容というものは、至ってシンプル。
時間以内に指定されたものをどれだけ写真に多く収められるか競うのである。
遠足当日まで伏せる内容でもないのだが、いまのご時世インターネットで何でも調べられるからの対策らしい。
確かに事前に調べたら課題の意味なんて無いだろうしね。
「は~い、それでは~各グループへカメラとタイマーを渡しますので~取りに来てください~。あと~マップと撮影リストも渡しますので~、一緒に取りに来てください~」
いつも通り、他の人に任せて大人しくしていよう。
目立つのは良くない。
ウチのグループは男子が取りに行っている。
「みなさ~ん、全部のグループに行き渡りましたよね~。それではこれからお弁当になりますが〜お弁当を食べ終わったグループからスタートとなります。ただし~早食いは~めっ、ですからね~」
子供をあやす時のような口調で注意をする。
先生の号令を皮切りにそれぞれのグループで固まってお昼ご飯になる。
私たちのグループも円を描くようにそれぞれレジャーシートを広げて座る。
「さっさと食って早く行こうぜ」
「わ、わたしはあまり早く食べられないから無理だよ……」
男子の言葉に反応するカタリーナちゃん。
私も普段はゆっくり食べているからなぁ。
前世では食事中に魔物から襲われることもあったため、屋外ではあまりゆっくり食事をした記憶がない。
危険の無い、こういう時ぐらいはゆっくり食べたい。
「ゆっくり食べている間に色々と話し合って、効率的に目的地を辿ればいいのではないでしょうか。急いで食べても、行き先が決まっていなければ意味が無いでしょうし」
リンちゃんから助け舟を出される。
「ま、まぁ、それもそうか。ゆっくり食べても、早く目的地に着けばいいんだしな」
若干違うような気もするが、食事はゆっくりできるようで少し安堵する。
他の子たちもお弁当を広げているから、私も用意する。
今日は無難にサンドイッチとした。
手軽に食べられるし、仮に座って食べられなくても、どんな状況へも対応できるから。
さすがに子供の遠足でそこまでのイレギュラーに見合われるとは思っていないけど、一応念のため。
私は慎重なんだよ。
「ねぇ、コトミさん。この木って何でしょうか?」
サンドイッチを頬張っている最中に、いきなり声をかけてきたのは相も変わらず。
こういうイベントの時、大概私は蚊帳の外にいる。
思想や知識だけは大人だから子供向けのイベントでは内容が簡単すぎるのだ。
そのため、答えがわかっていても聞かれない限り任せるようにしている。
今まで私に聞くような人は居なかったため、油断していた……。
少しむせながらも口の中の物を飲み干し、リンちゃんへと向き直る。
突き付けられたリストを見てみると、そこにはピンク色の花を満開に咲かした一本の木が載っていた。
書いてある名称はサクラノキ。
「……この時期、花は咲いていないよ。緑色をした葉っぱの木を探して。あ、毛虫には気を付けてね。降ってくるから」
「コトミさん、物知りですね。さすがです。って、毛虫が降ってくるとかどんなテロですか?」
いや、あるんだよ、降ってくること。それこそボトボトと。
……想像するだけで焼き尽くしたくなってきた。
それよりこの国にもサクラノキがあるんだ。
懐かしい。来年、見に来ようかな。
満開になるときに、ね。
そんな感じでリストとマップとにらめっこをしながら食事をする。
他のグループの女子たちは男子に突っつかれ、涙目となりながらご飯を食べている。
ご愁傷様。
ああいう男の子は子供とは言え、女の子に嫌われるものだからね。
一時の感情を優先するより、先のことを見据えて行動しなくちゃ。
その点、ウチの男子はまだマシかな。
リンちゃんのおかげというのもあるのだろうけども。
「放っておいたらコトミが何を言い出すかわかったものじゃ無かったからね」
リンちゃんが耳元でささやいてくる。
「どういう意味よ。それは」
「ふふふ、それは内緒」
悪戯っ子のような笑みを残し離れる。
また私の心を読んだんだろうね、まったく。
もう何度目かになるやり取りに呆れ、次のサンドイッチに手を伸ばす。
その後も雑談交じりに食事が進んでいく。