表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/300

188 <館の調査>

 一階へと駆け上り、そのまま館のエントランスホールへと向かう。

 さて、どうするかな。と、言っても放っておくわけにもいかないから選択肢は無いのだけど。

 かと言って高火力に乏しい私に倒せる気がしない。

 何かを引きずるような音が聞こえているから、まだ生きているだろうし。


「うーん、いったん館から出るか」


 魔法で燃やすにしろ吹き飛ばすにしろ、建物の中にいたのでは全力が出せない。

 触手に対しては狭い空間が有効だけどデメリットの方が大き過ぎる。


「もう少し歩ける?」


 たどたどしい足取りで付いてきた子供にそう問いかける。


「は、はい……」


 あまり顔色は良くないが怪我は直したし、なんとか頑張ってもらおう。

 子供を引き連れて館の外への扉を開ける。

 日はまだ昇っておらず常闇がそこにはあった。

 日の出にはまだ時間があるか……。


「さて、ゴメンだけど、しばらくどこかに隠れられるかな」


 子供の手を離し、巻き込まれないよう距離を取ってもらう。

 遠く離れていく子供を横目に、館の扉を見続ける。

 しばらくそうしていると――。


「もう少し上品に開け閉めできないものかね」


 叩き潰すようにして開け放たれた扉。

 その先には地下にいた異形の姿が……ん?。


「大きくなっている?」


 先ほど見た異形に比べ、筋肉隆々というか、二回りほど大きくなっているというか――新たな血の臭い?

 よく見ると、顔――と言っていいものかどうかわからないが――にベッタリと赤い血が――。


「――っ、まさか」


 召喚の儀に必要な生贄、それには二種類の意味がある。

 ()び起こすための魂を捧げるのと、顕現(けんげん)したあとの血肉になるのと。

 ちっ……胸クソ悪い。

 やはり、コイツはここで始末する。


「炎弾っ!」


 館の中と違い遠慮する必要がないため、全力で魔法を叩き込む。

 火の玉は異形の触手ではたき落とされ空中で霧散する。

 間髪入れずにもう一発炎弾を放ち、跳躍で距離を詰めていく。

 同じようにはたき落とされる炎弾を横目に、異形の懐へと滑り込む。


「――ちっ!」


 短剣を相手の身体へ打ち込むが、鉄のような硬さで弾き返される。

 なんて硬さだよ。

 二度三度切りつけるがビクともしない。


「……くっ」


 触手が迫ってきたため転移で背後にまわる。


「風槌っ!」


 鉄の塊を殴ったような、地の底に響き渡るような轟音が鳴り響く。


(かった)ぁ!」


 ビクともしない異形の背に足をかけ、跳躍で少し距離を取る。


「いやいやいや。無理でしょ、これは」


 魔法も効かないし、短剣も通らない。

 火力の足りない私じゃ無理よ。

 ゆっくりと振り返る異形を視界に収めながら考える。

 勝ち筋がまったく見えない。


「いったん引くか?」


 幸い、触手の動きの割に異形本体の動きはさほど早くはない。

 逃げるだけであれば逃げ切れるが……。


「もう少しだけ試してみるか」


 伸びてきた触手を転移でかわす。

 一本、二本、三本、と。

 四本目の触手をかわしたところで、再び跳躍を使い距離を詰める。


「今度こそ――雷撃っ!」


 短剣を突き立てながら魔法を放つ。

 バリバリと放電する音と共に異形の身体が痙攣しているように見える。

 これは効くか?


「――ちっ」


 さっきとは違い四本の触手が私めがけて襲ってくる。

 それをなんとか転移でかわすと同じように距離を取る。


「多少は効いたか?」


 それでもほとんど効果が無いように見えるけど。

 これをずっと続けるのは骨が折れるな……。


「――っ、ちっ!」


 触手が目にも留まらぬ速さで飛んできた。しかも四本とも。


「相手さんも本気と言うわけかね。それならこっちだって――炎弾っ!」


 転移で避け、牽制代わりに魔法を放ったあと、触手に沿って異形へと駆けていく。

 他の魔法はあまり効果なし。

 今の炎弾だってあまり効いているようには思えない。


「試して、みるか――」


 跳躍で勢いのついたまま異形の身体へ短剣を突き立てる。

 切っ先がなんとかめり込む程度の傷しかつけられないが――。


「風槌っ!」


 そこへ重ねるように魔法を叩き込む。

 ほとんど意味を成さなかった短剣が、魔法によって大きく異形の身体へめり込んでいく。


「これならどうだ――雷撃っ!」


 魔法で生み出した雷は短剣へ吸い寄せられるように集まり、異形の身体へと吸収されていく。

 バリバリと放電するたびに痙攣する異形。

 これは効いたか――?


「転移」


 よほど頭にきたのか、戻ってきた触手を無茶苦茶に振り回す異形。

 一息つく間もなく連続転移でかわしていく。


「ちっ、これじゃ近寄れないな」


 四本の触手が縦横無尽に動き回り、異形の死角を埋めていく。


「雷撃」


 触手に絡みつくように直撃するが、遠くからじゃ霧散してしまってあまり効果が無い。


「やはり、本体に直接撃ち込まないとダメか」


 転移と跳躍でかわしながら異形との距離を詰めていく。

 先ほどの攻撃が効いたのか、触手は守りに入るように私の目の前を塞いでいく。

 ……これは無傷じゃ突破できないな。仕方がない。

 触手をもう一本の短剣で弾き飛ばし、生まれた隙間へ身体を滑り込ませるようにして突き進む。

 迫り来る触手を致命傷になるものは避け、または短剣でいなす。

 それ以外の攻撃については――我慢っ!


「――(った)い!」


 皮膚を切り裂き、肌を打ちつける触手は、歯を食いしばり耐える。治癒は後回しっ!


「――っこんのぉっ! 風槌っ!」


 いまだ突き刺さっている短剣へ再びの風槌を叩き込む。

 さらにめり込んだ短剣。そこに――。


「雷撃っ!」


 先ほどよりも大きく痙攣する異形。


「やったか――ひぶっ!」


 油断した瞬間、触手からの攻撃を受け、横へと吹っ飛んでいく。


「あた、あたたた……」


 二度、三度、地面を転がるように打ち付け跳ねる。

 治癒魔法を急ぎかけるが起き上がれない。


「くそっ……」


 ヤバイ、と思ったが、それは向こうも同じような状況で、痙攣しながらゆっくりと、その身体が前のめりに倒れていく。


「や、やったか……」


 身体の節々がまだ痛むがなんとか手足を動かす。

 異形はピクリともしない。


「……もう起きるなよ」


 そう願いながら身体の汚れをはたき落とし、立ち上がる。


「ふぅ……」


 そのまま数十秒様子を見る。

 終わった……かな。

 あ、短剣を回収しなきゃ。

 あまり気乗りしないけど、さすがに主要武器を手放すわけにはいかない。

 ゆっくりと慎重に近づいていく。

 触手もその辺でくたびれており、足を引っかけないよう気をつけて歩く。

 ……あまり身体を触りたくないなぁ。


「……えい」


 横着に土魔法で異形の身体をひっくり返す。

 その胸には短剣が深々と根本まで突き刺さっていた。

 はぁ、あまり触りたくはないけど。


「よっ、と」


 なんとか短剣を回収し、いったん収納へとしまう。あとで洗っておこう。

 さて、念のため館も調べておくか。っとその前に――。


「おーい、もういいよ。出ておいで」


 茂みの奥、暗闇となっている所へ声をかける。

 ガサガサっと音がしたと思うと小柄な少年? 少女? が現れた。


「大丈夫だったかな?」


 その子の元へ近寄り様子を見る。

 身体は汚れているけど怪我はしていないかな。

 地下にいた子たちみんなそうなんだけど、くり抜いた布のような服を着ており、靴は履いていない。

 もしかしたら――。


「キミたちはどこから連れて来られたの?」


「あ――。ボ、ボクはもともと孤児だったんです……。おいしいご飯をくれるってことでついてきたら、いきなりここに連れて来られて……。他の子たちもきっと同じ状況かもしれないです……」


 まぁ、格好からしてそうなんだろうね。

 それにしても、地下に何人居たかな。

 十人は居なかったと思うけど、そんないっぱいの孤児をどうやって連れてきたのか。

 とりあえず考えるのは後回しにして、今は調査が優先か。


「えーっと、もう少し館を調べたいんだけど、歩けるかな?」

「あ、はい。大丈夫、です」


 うし、それじゃ、サクッと調べますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ