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183 〔とあるギルドの受付嬢〕

 ポスメル国ラスティ。

 この国の王都であるリリガルに隣接している街で、大きさは首都に次ぐ規模の街である。

 隣接しているといっても、丸一日歩く距離程度に離れてはいるが。

 そのラスティのギルドで奇妙な噂が流れていた。


「幽霊が出る? アンデッドじゃなくて?」


 疑問の声を上げたのはラスティの街にある冒険者ギルド。そこの受付嬢。

 ギルド併設の居酒屋で冒険者たちが思い思いに会話しており、受付嬢もその輪の中に入っている。

 受付嬢は他の冒険者たちと同じように飲食しているわけではなく、ギルドの仕事の合間にこうやって居酒屋の手伝いを行っている。

 むさ苦しい冒険者たちの中に一輪の華、そんな表現がぴったりのシチュエーションである。

 特に女っ気の無い冒険者をやっている男連中は、受付嬢の好感度を上げようと、ひたすら自分が掴み取った情報について話している。

 まぁ、そのほとんどが嘘か二番煎(にばんせん)じのため、受付嬢に見向きもされないが。

 その中でも比較的新しく、信憑性(しんぴょうせい)の高い噂がこれである。


「おうよ。目撃者は一人二人どころじゃねぇ。それに、アンデッドではないらしいんだとよ。まぁ、魔法が効かない時点で魔物ではない可能性もあるがな」


 受付嬢は考える素振りをみせ、話の信憑性を探る。

 この冒険者が嘘を言っているようには見えない。

 そうなると、噂の出処(でどころ)を調べる必要があるか。

 そう思い、受付嬢は質問を続ける。


「詳しく教えて欲しいところだけど〜。どこからの情報?」


 受付嬢が可愛い子ぶって見せると、男どもはイチコロである。


「俺が聞いた話だとな」「ちょっと待て、俺が先だぞ」「おい、それは俺の情報だ」


 何人もの男が我先にと受付嬢へ詰め寄る。

 イカツい男どもが折り重なる姿は一種の恐怖である。

 小さい子供であればトラウマとなるだろう。

 受付嬢はいつものことなのか、ニコニコとしながらその光景を眺めている。



 男たちの会話をまとめるとこうだ。

 このラスティの街から西へ進んだところにクレシカリの森という場所があり、その中を奥深くまで進むと、古く朽ち果てる寸前の館がある。

 人が居なくなってから相当の年月が経過しているはずだが、その館には夜な夜な明かりが灯り、人の話し声が聞こえるという。

 男の声のような女の声のような、子供の声のような大人の声のような。


 胡散臭(うさんくさ)い話である。

 何処からか流れ込んできた浮浪者か、もしくは盗賊の(たぐい)か。

 いずれにせよ、これだけで幽霊どうのこうのと結論づけるのは時期尚早(じきしょうそう)である。

 受付嬢は放っておいても問題ないだろうと思う反面、万が一ということも危惧し、手を打とうと考える。

 幽霊屋敷の調査。

 そんな曖昧な依頼を受ける冒険者なんてこのギルドにはいない。


「こういう時はあの子にお願い、かな〜」


 特殊な依頼を好き好んでこなす女冒険者。

 ……いや、好んではいないか?

 しぶしぶ受けるときもあるけど、何だかんだ言って依頼を受けてくれる子。

 まぁ、報酬は上乗せしているし、本人の希望どおり目立たないように配慮している。

 本当は高ランクになってもらって、バンバン依頼をこなしてもらいたいところだけど、本人にそんな気はさらさらない。

 冒険者なんて自由気ままな職に就いている以上、その辺は寛容にしておかなければすぐに他の街へと立ち去って行ってしまう。


「いろいろと大変なのよね〜」


 ギルドが開いてあまり早くない時間帯、窓口の受付嬢がポツリとつぶやく。

 この時間のギルドは正直、暇である。

 それは当然、ギルドの依頼は朝早く張り出され、処理されるからである。

 のんびりギルドに顔を出すのはよっぽどの大物で依頼に困っていない冒険者か、ずぼらな冒険者だけである。

 カララン、とギルドの扉がいつもの音を(かな)でて小さく開く。


(きたきた〜)


 受付嬢はギルドへ入ってきた一人の少女を目で追いかける。

 気だるそうに入ってきた少女はいつもどおり空白の目立つ依頼ボードに目をとおしていく。

 そのまましばらく右へ左へ視線を動かしていたが、やがて諦めたのか肩をすくめるように窓口へと振り返る。

 受付嬢はその一部始終をニコニコとした笑顔で見守っていた。


「……いい依頼無い?」


 目の前まで歩いてきた少女はいつもどおりに口を開く。



 受付嬢はこの少女との付き合いも随分と長いなぁ、と感じていた。

 冒険者の寿命は短く、そして(はかな)い。

 危険と隣り合わせであることから、短命なのは職業柄仕方のないことだろう。

 その点、この少女は今いる冒険者の中でも古参の部類に入るぐらい、長い付き合いとなってきていた。



 少女がこのギルドへ来たのは何年前のことだったか。

 その時は無口で無愛想で、如何(いか)にも早死にしそうな雰囲気の少女であったことを受付嬢は覚えている。

 初めは慎重な性格(ゆえ)のものかと思っていたが、それなりの成果を上げていることから実力も十分あるのだろう。

 それに少女は昔からこの街に居たわけではない。

 ギルドへの登録もこの街ではなく、南のアガール地方にある街のギルドだ。

 アガール地方には凶悪な魔物が多くいるという。

 そんな街で十二歳から冒険者をやっているのだから、やはり十分な実力を持っているのだろう。

 


 依頼を持ちかけた時もそう、今日のように空白の目立つ依頼ボードの前で少女はたたずんでいたんだった。

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