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178 <一人になれない宴会>

「これ、買い取りできる?」


 やって来たのはギルドの納品窓口。

 妖精の少女からさっきもらった魔玉(まぎょく)を早速換金しに来た。


「あら〜、シャロちゃん。今日は来ないと思っていたんだけどね〜」


 ……窓口はこいつか。

 愛想はいいが馴れ馴れしく、余計なお節介に悩ませられる受付嬢。

 正直苦手な部類に入る。


「今日の納品は――」


 受付嬢が私の手元、魔玉に視線を落とす。


「……シャロちゃん。これ、どうしたの?」

「…………」


 どうしたもなにも……さすがに妖精から魔力の代わりにもらったなんて言えないよな。

 うーん、なんて答えようか。

 私の逡巡(しゅんじゅん)を無言の否定と勘違いしたのか、受付嬢が焦ったように声を上げる。


「あ、いや、詮索しようとかそうじゃなくて……こんな貴重なもの、どこかで盗んできていないよね?」

「するか」


 こいつは……私をなんだと思っているんだ。


「だよね〜、シャロちゃんはぐうたらだけど素直ないい子だしね〜。ぐうたらだけど〜」


 なんで二回言うかね、こいつは。


「それじゃ、査定するからちょっと待っててね〜」


 そう言って奥へと引っ込む受付嬢。

 日常的に納品されるようなものは、ある程度窓口だけで対応できるが、今回のような稀少種の納品は専門の鑑定士に依頼される。

 妖精の魔玉なんて滅多に手に入らないし。

 これは報酬が期待できるな。


 少し時間がかかりそうだけど、ここで待つか。

 周囲を見渡すとまだ時間が早いからか、ギルドの中は人がまばらである。

 併設している居酒屋も同じような状況で食事をするにはちょっと早い。

 別に誰かと待ち合わせしているわけではないけど、いつもと同じ時間に行ければいいや。

 そんなことを考え、久しぶり一人になったもんだと思う。

 ここ最近はアリシアに振り回されていたし、人懐こっいアリシアに寄ってくる冒険者も多数いた。

 騒がしい日々に少し嫌気が差していたから気晴らしにはちょうどいい。


 ……まぁ、騒がしい日々も嫌いではなかったんだけどね。

 いつからそんなことを思うようになったのか。

 自身の変わってしまった気持ちに少し驚きながらも、決して不愉快ではないと感じ、ぼーっと静かなギルドの中を眺める。


「シャロちゃん〜。お待たせ〜」


 名前を呼ばれ窓口を見ると、先ほどの受付嬢が戻ってきたところだった。


「ちょうど必要な素材だったからね〜。色を付けてあげたわよ〜」


 おぉ……。

 この受付嬢はこうやって便宜(べんぎ)を測ってくれるから嫌いではない。

 ……苦手ではあるけど。


「……ありがと」

「ふふふ〜。シャロちゃんの嬉し恥ずかし照れ隠し姿が見られるならお姉さん頑張っちゃうわよ〜」

「…………」

「シャロちゃん〜。知っていると思うけど、ギルドでの魔法使用はご法度(はっと)よ〜」


 ちっ。

 別に本気で魔法を使おうと思ってはいない。

 この受付嬢は魔法に長けている種族――いわゆるエルフというやつで、魔力感知にも長けている。

 そういうわけで、ちょっとした抗議の意味も含めて魔力を練った。


「ふふふ〜。また困ったことがあったら、お姉さんを頼っていいわよ〜」

「…………」


 どうも釈然としないが、このままここにいても仕方がなく、カウンターに置かれた金貨数枚を手に取り、その場をあとにする。

 本人はお姉さんとか言っているけど、長寿な種族のため実際の年齢はいざしれず。

 実際はおばさ――っ。さ、寒気が……。

 背後から物言えぬ視線を受け、考えていたことを頭から追いやる。

 ……お互い余計な詮索はなしだな。うん。

 短くない付き合いだし、不本意ながらもお互いよく知っている間柄だ。

 柔らかくなった視線に安堵し、いつもの席へと向かう。


「お、シャロじゃねぇか。今日は一人か?」

「ついに愛想を尽かされたのか。まぁ、仕方がないな」

「うっさい」


 いきなり失礼な男どもはいつものメンツ。

 いつの間にかいい時間となり、ギルドも居酒屋も賑わいだしてきた。

 近くの店員をつかまえ、いつものとおり注文する。

 それにしても、妖精の魔玉があの大きさで金貨数枚にもなるのか……。

 魔力を渡すだけで金貨数枚……おいしい。

 そんな楽に稼げる環境にしたら、きっとダメ人間になりそう……。


「なんかいいことあったのか?」

「目つきが悪いから薄ら笑いが悪どいな」

「うっさい」


 なんなんだこいつらは……。

 そんなやり取りをしているうちに、頼んでいたエールが手元に届く。

 はぁ、まぁいいや……とりあえず今日の功績をいたわろう。

 魔力あげただけなんだけどね。


「仕方ねぇ、ボッチシャロに付き合ってやるか」

「そうだな。捨てられたシャロが可愛そうだし、仕方なく付き合ってやるか」

「あんたらいい加減燃やすよ?」


 こいつら、今までそんなに絡んで来なかったのに、アリシアが橋渡すようになってからは、遠慮なく来るようになったな。

 あまりしつこいとウザいんだが……。

 差し出されたコップを仕方がなく合わせる。


「「カンパイ!」」


 男たちの掛け声に合わせ、そこかしらから同じような声が聞こえる。

 はぁ、まったく……。相変わらず騒がしい。

 アリシアがいないからゆっくりできるかと思いきや、いつもと何も変わらずに酒を飲みだす男たち。

 ……あいつが成したことは、あいつがいなくなっても、引き継がれているということか。

 そんな風景を眺めながらエールを飲み干していく。


 まぁ、たまにはこんな感じも悪くないかな。

 視界の隅にいつもの受付嬢がにこにことしているけど、それもいつものこと。

 ホント、いつの間にか私の居場所が出来てしまったな。

 ここにはいない誰かさんに、言葉では伝えられない気持ちをそっと想う。

 相変わらずの騒がしい男たちを遠巻きに、ゆっくりと夜が更けていく。

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