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173 〔とある組織での出来事〕

 ある傭兵組織の一室。

 さほど広くない殺風景な部屋に、机が四角形に並べられている。

 そこに二人ずつ、六人の男たちが座っていた。


「……いつまで待たせるんだ」


 顔に大きな傷跡のある男がそうこぼす。

 その(よそお)いは街中からそのままやってきたような格好で、場違いな印象を受ける。

 その隣に座る男もまたカラフルな服を身にまとっており、誰よりも目を引く装いとなっている。


「忙しいお方だ。多少待つことになるのは仕方がないだろう」


 迷彩服に身を包んだ男がそう答える。

 隣に座る迷彩服の男も同じ、この傭兵組織の関係者のように見える。


「そうは言うが向こうが呼び出してきたのだろう」


 オールバックの男がそう返し、隣のスキンヘッドの男も無言でうなずく。

 二人は闇に溶け込むような黒服に身を包んでいる。

 六人ともここ、ベレンデロ傭兵組織に呼び出され、すでに一時間以上待たされていた。

 始めは大人しく待っていた男たちも、次第に痺れを切らし、文句を言い始めていた。

 いいかげんにしろ――誰かがそう言おうと口を開いたその時、この部屋唯一の扉が開いた。

 全員の視線が入ってきた人物に集中する。

 遅れてきたにも関わらず、そのことを気にした素振りも見せずに、入ってきた男は目の前の席に座る。

 その男は長身の男で、変わった髪型をしていた。


「……やっときたか」


 入ってきた長身の男は、そう声をかけてきた顔に大きな傷跡のある男に視線を移す。


「ウルバス……か。どうだ、資金稼ぎは順調か?」


 ウルバスと呼ばれた男は、苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「……最近はよくねぇな。銀行強盗も商業ビルの金庫強奪も失敗している。どっちも正体不明の奴に邪魔された」

「旦那が失敗するなんて珍しいな。正体不明の奴とは?」


 横で話を聞いていた迷彩服の男がそう尋ねる。


「……嘘かでまかせだろうが、子供にやられたんだと。誤魔化すにしても、もう少しマシな言い訳があるとは思うんだがな」


 ますます渋い顔になるウルバスの男。


「ギザリオンはどうだ?」


 長身の男は興味なさげに、オールバックの男を見据え、そう声をかける。


「俺たちの方は問題ない。……以前、人(さら)いの時にチビの女に邪魔されたな」


 ウルバスの『子供』というワードに反応するギザリオンの男。


「あの(さら)う対象を間違えた件か?」

「……嫌なことを思い出させんな。ガキは区別が付かねぇんだよ」


 ウルバスの発言に渋い顔をするギザリオンと呼ばれたオールバックの男。


「……ベレンデロは?」

「ここに武器弾薬は十分用意した。訓練も順調に進んでいる。いつでも出撃は可能だ」


 長身の男の問いに迷彩服の男がそう答える。


「……多少、邪魔が入っているようだが、おおむね順調……か。近いうちにロフェメル国との戦争が始まる。それまでに準備を進めるよう――」


 長身の男がそう締めくくろうとしたところ、慌ただしい足音とともに、扉が激しく開かれる。


「て、敵襲っ! 総司令官! すぐにご対応を!」


 開かれた扉から入ってきた迷彩服の男がそう叫ぶ。


「何事だ。会議中だぞ」


 椅子に座っていた総司令官と呼ばれた迷彩服の男は、入ってきた男に対し苦言を示す。


「た、ただいま応戦中ではありますが、乱戦状態が続き、敵戦力はすでに事務棟第二区域まで進行! ご指示を!」

「なに……?」


 この傭兵組織は事務棟四区画、武器弾薬棟二区画、その他車両棟、訓練棟、住居棟からなる軍用基地顔負けの傭兵組織である。

 正門から続く事務棟は名ばかりの事務所が並ぶのではなく、在駐兵士の待機場や運営に必要な施設が並んでおり、決して非戦闘員で構成されているわけではない。

 その事務棟が半分制圧されている。

 それを意味するところは、報告が遅かったのかそれとも……。


「敵の目的、および勢力は?」


 総司令官と呼ばれた迷彩服の男が問いかける。


「目的は不明! 勢力は――」


 息切れしていた呼吸をそこで一息入れ整える。


「ふ、二人です! フードで顔を覆っているため、どこの人間かわかりませんが、黒髪黒眼と銀髪緋眼の子供二人です!」


 兵士の言葉に、その場がどよめく。

 それは少な過ぎる人数によってなのか、それともその二人の特徴によってなのか。


「バ、バカな! たった二人でここまで攻めてくるものか! しかも子供だと!? 目的はなんだ!」


 司令官はそう叫んだが、報告に来た兵士が答えられるわけがない。

 事務棟第二区域まで進行しているとなると、その先にある他の事務棟や武器弾薬棟、車両棟まで手が届く。

 敵勢力の目的がわからないがこれ以上好き勝手させるわけにはいかなかった。


「なんとしてでも止めろ! 生死は問わな――」


 司令官が兵士へそう叫んだところ、突如起きた轟音(ごうおん)でその声がかき消された。

 振動で建物が大きく揺れる。


「なっ、一体何が……」


 間髪入れず、二度目の轟音。

 兵士たちにとって聞き慣れたそれは、決して敷地内で響かせていい音ではない。


「くっ……いったん失礼する!」


 状況を察した総司令官は、そういい残し部屋から退出していく。


「……黒髪黒眼の子供って言ったな」

「あぁ……ありえるな」


 オールバックの男とスキンヘッドの男がそうつぶやく。


「銀髪緋眼の子供……どこかで見覚えがあるが……」


 顔に大きな傷跡のある男がそうつぶやく。

 隣に座る男は何のことだかわからず首をかしげるだけである。


「…………」


 長身の男は何を思っているのか、椅子に深く腰掛け目をつむる。

 外では花火のような破裂音が続けて鳴っている。

 その後、地響きを伴いながら何かが崩れる大きな音が聞こえてきた。


 とある組織のとある部屋での出来事であった。

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