17 公園に向けて出発
通学路から感じていたことだけど、いつもと同じ学校のはずなのに、周囲が浮足立っているのがわかる。
それもそのはず、以前から計画していた遠足の日が今日なのだ。
「いくつになっても、こういうイベントごとは楽しいね」
「うん? なにを年より臭いことを言っているのですか?」
隣に並んでいるリンちゃんから痛恨の一撃。
「いきなり失礼だね」
「コトミさんが急に変なことを言い出すからですよ」
「別に変ではないと思うんだけど……」
反論しつつ周囲を見渡す。
そこには五年生全員が整列しており、出発前の点呼を受けている。
もちろん整然と並んではいるが、みんな待ちきれないという様子でソワソワと落ち着きが無い。
前の子とお喋りしだしたリンちゃんも、心なしかはしゃいでいるようにも見えた。
そんなリンちゃんを横目に見ながら思う。
「……相変わらず隣がリンちゃんなんだね」
バスの座席も隣がリンちゃんだし、遠足のグループもリンちゃんと同じグループになっている。
座席もグループもくじ引きで決めたはずなのに、リンちゃんのエンカウント率が半端なく高い。
偶然か。偶然だよね。偶然と思わないと逆に怖いんだけど。
「コトミさん、また何か失礼なことを考えていないですか?」
リンちゃんがこちらの顔を覗き込みながら話しかけてくる。
また人の心を読んで……。
「失礼なことではない。疑問に思ったことがあったけど、いいや。それより移動するみたいだよ」
バス乗り場は学校の外にあるため、そこまでは徒歩で移動する必要がある。
「あ、ホントですね。皆さんも行きましょうか」
リンちゃんが他の子たちにも促す。
遠足のグループメンバーは男女合わせて六人。
同じクラスメイトではあるけど、あまり話したことが無い子たちばかり。
リンちゃんは転校してきて短い期間で打ち解けたようだけど、私は年齢差もあってあまり打ち解けることが出来ていない。
さすがに十八歳差だと共通の話題を見つけるのが難しいしね……。
リンちゃんとなら普通に会話できるんだけど、なんでだろうね。
「コトミちゃん、今日はよろしくね」
「うん。カタリーナちゃん、こちらこそよろしくね」
考え事していたらいつの間にか後ろの方に流れていたようで、隣に来た子に話しかけられた。
六人メンバーの男女は半々で分かれており、残りの女子がこのカタリーナちゃんである。
別にリンちゃんほど仲良くできるわけではないけど、私も普通に接することはできる。
……伊達に長生きしていないから、社交性だけは身に着けたよ、さすがに。
リンちゃんは……と、グループの先頭で他の男の子たちと話しているね。
男女分け隔てなく接する彼女はクラスの人気者でもあり、恋心を抱く男子も多いという。
それなのに、なぜ私みたいな平凡な子供に関わってくるのだろうか。
いや、実は転生者で魔法が使えるけど、そんな素振りは見せていないしなぁ。
傍から見たら普通の大人しい少女に見えるはずなんだけど。
うーん、なんでだろう……。
「遠足楽しみだね。天気もいいし、遠足日和ってやつかな」
カタリーナちゃんに話しかけられ、考え事を中断する。
「うん、そうだね。でも、グループオリエンテーリングって何をするんだろう」
遠足のしおりにはそこまで書いていないしなぁ。
「う~ん、また先生の『あとのお楽しみ』ってやつかな」
「きっとそうだろうね。あの先生ならやりかねない」
うちのクラスの担任の先生はどこか子供っぽいところもあり、こういうイタズラ心が度々ある。
楽しんでいるのは本人だけだから、この件に関して生徒からの評判はあまり良くない。
悪い先生ではないんだけどね。
「バスはこっちですよ~。遠足のしおりのバス席順に座ってくださいね~」
噂をすれば前の方でバス乗り込みを誘導している先生がいた。
「「「先生、おはようございます」」」
「おはようございます~。今日は楽しんでくださいね~」
「「「は~い」」」
前の子供たちに続いてバスに乗り込む。
四十人は乗れるだろう大型バス。
普通のバスと違い目線の高さが高く、ちょっとテンションが上がってくる。
「席は、っと」
自分の席を探すため前から席の数を数えていく。
「あ、コトミさんこっちですよ~」
声のする方を見るとリンちゃんが手を振っていた。
「うん、お待たせ」
「コトミさん、ワタクシが窓際でもいいですか?」
「ん? いいよ」
通路側の席に座りながら答える。
「ありがとうございます。あ、でも途中で代わってあげますね。コトミさんも外見たいですよね」
「……私は別に」
なるべく表情を表に出さないように視線を外す。
「遠慮しなくていいですから。三十分ぐらいしたら代わってあげますね」
……相変わらず筒抜けなんだね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
乗車準備もつつがなく進み、目的地に向けてバスが出発する。
「は~い。みなさ~ん。注目して下さ~い。目的地に着く前に〜遠足のしおりのおさらいで~す」
先生がそう声をあげているが、誰も聞こえていない。
むしろ、お喋りに夢中で誰も聞いていない。
「みんな~。先生の、先生の話を聞いてくださいよ~」
いくら声をかけても静まらないバス内に、段々と涙声になってきた。
「必殺、泣き落とし」
ポリポリと、お菓子を頬張りながらリンちゃんが小声でつぶやく。
周りに聞かれる心配がなくなったからか素に戻っている。
「別に殺してはいないでしょ……」
「でもまぁ、いくら子供とはいえ、いい大人に泣きつかれたら素直に従うもんでしょ」
リンちゃんの言うとおり、周囲を見渡すと少しずつバス内が静かになってきた。
先生も半泣き状態だし。というかあれは嘘泣きなのか?
本気泣きだとちょっとどうかと思うけどなぁ。
「あの先生は絶対に演技だね」
「よく言い切れるね」
次のお菓子に手を出しながらリンちゃんがポツリとつぶやく。
「ふふふ、ワタシは人の本質を見抜くことが出来るのだよ。コトミが隠し事多いのも知っているんだよ」
「……誰だって多少の秘密はあると思うのだけど」
行きなり何を言い出すのか、この子は。
そりゃ言えない秘密満載ではあるけど、ボロを出すようなことは何もしていないのだけども。
「普通の人はそうかもしれないけど、コトミは秘密が多すぎるんだよね」
「えー……どうやってそんなことわかるのよ?」
「勘」
勘かよ……。
「リンちゃんは勘に頼ること多いよね。大丈夫なの?」
「それは問題なし! 滅多に外れること無いしね。どう? すごいでしょ」
またもやドヤ顔でいい放つ。
勘なのに外れることが少ないって、ある意味才能だよね。
どんな才能だよ。
「それでは~遠足のしおりを開いて下さい~」
間延びした声が聞こえる。
どうやら、多少の雑談は無視して進めることにしたらしい。
「ふむ、強行突破とは、先生も中々やるね」
あんたも何者だよ。
 




