169 〔チームギザリオン〕
どこの街にも日の当たらない場所というものはある。
それが例え、どんなに平和な街であったとしても。
「……あまり世話をやかせるんじゃない」
「面目ない」
「…………」
「た、助かったッスー……」
一人の男がかけた声に、三者三様の反応を示す男たち。
街外れの廃墟の中、男たち四人は顔を突き合わせるように集まっていた。
最初に声をかけた男は目深くフードを被っており、その表情は見えない。
他の男たちは三人とも、闇に紛れるような黒服でたたずんでいる。
今この時ばかりはお茶会を楽しむような場所でも雰囲気でもない。
「次はこの街で待機だ」
「了解」
スラリとしたオールバックの男がうなずくように了承する。
「…………」
スキンヘッドの男が胸を反り返し無言でたたずむ。
「す、少し休みたいッス……」
中腰になっている線の細い男がそう嘆く。
フードを被った男は、男たちの反応を気にも止めず、暗闇に姿を隠すかのようにいなくなった。
「はぁ、まったく。人使いの荒い……」
「……仕方がない」
「つ、次こそは頑張るッスよ」
残された男たちも、それだけ残すと同じく暗闇へと姿を消して行った。
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「次の依頼は何だ?」
「あと処理だそうだ」
「ゴミ掃除ッスかね?」
街外れのとある店で、黒づくめの男たち三人がテーブルを囲んでいる。
客は男たち以外にはおらず、店主もそのことを気にしている様子はない。
テーブルの上にはグラスが三つ、酒場としては辛うじて機能しているようだった。
「そうなると、俺の出番かね?」
「そうなるな。ターゲットはエスドラスの豚、ヘマをしたらしくトカゲの尻尾切りだ」
「豚やトカゲを捕まえればいいッスかね」
三人の男が周りを気にする風もなく、キナ臭い会話を繰り広げている。
「やれやれ……汚れ仕事ばっかりで、気が滅入るぜ」
「そういう世界にいるのだから仕方がないだろう」
「できれば綺麗な仕事をやりたいッスね」
グラスを傾けながら男たちが嘆く。
静かな店の中に、氷の溶ける音だけが響き渡る。
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「これでいいかね」
「十分だ」
「さ、さすがッス」
とあるビルの屋上。
目の前にはさらに高いビル。
その最上階に目標はいた。
下から狙うような格好となるが、難なく目的を達成。
あとは痕跡を残さず撤退するだけである。
ある程度現場から離れたところで男がつぶやく。
「豚の近くにフードを被った小柄な奴がいた」
「なに? それは、あの時の奴か?」
「奴って奴ッスか?」
男たちは裏通りを我が道のように歩いていく。
すでに本日の目的は達成したため気が抜けることは仕方のないことである。
「確証を得られないが、恐らくは」
「やっぱりアイツも噛んでいやがったのか」
「噛むって噛まれるッスか?」
男たちは暗闇の中を歩く。
決して日の目を見ない道を。
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「また、移動か?」
「…………」
「動いてばっかッスよ」
日の光が届かない路地裏で、男たち四人が顔を突き合わせている。
「別にいいが、理由ぐらい教えてくれるんだろ?」
「…………」
「理由は知りたいッスよね」
相変わらず男たち三人は三者三様な反応を見せる。
それに反し、フードを目深く被った男は無言を貫き通す。
すでに目的地は伝えた。
十分な報酬も与えた。
これ以上無駄な押し問答を続ける必要はない。
そう男は思い、暗闇へと踵を返す。
「……ちっ、仕方がない」
「行くぞ」
「な、なんなんスかね」
男たち三人も踵を返し、フードの男とは別の道へと進んでいった。
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「次はなんだ?」
「爆弾だそうだ」
「ば、ばばばばば」
男たち三人はハンドキャリーをそれぞれ持たされている。
いつもの男に指定された場所へ向かうと、この荷物が三人分並べてあった。
言伝どおりであれば、この中には爆弾が詰まっており、目的の場所に持って行く必要がある。
「いつから俺たちは荷物運びをするようになったんだ」
「一般人に頼めないことだから仕方がないのだろう」
「ばばばば、ばくばくばく」
一人の男が嘆き、一人の男がたしなめ、一人の男が同じ言葉を繰り返す。
男たちは暗闇から歩き出す。
ガラゴロと、風体に似つかわしくない音を路地裏に響き渡らせながら。
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「……なぜ、ここに?」
「火を点けろだと」
「キャンプファイヤーッスね」
男たちがいる場所は薄暗い路地裏などではなく、明るい商業施設である。
「俺たちには場違いな場所だが?」
「これも仕方のないことなんだろう」
「周りはみんな楽しそうッスけどね」
男たちは正直浮いている。
白を基調とした商業施設に、全身黒づくめの男たちは異物でしかない。
周りの買い物客からとチラチラと見られ、けっして目を合わせることはしない。
「ちっ、居心地が悪い。さっさとやるぞ」
「場所は地下だな」
「みんなにジロジロ見られてるッス」
男たちは苦虫を噛み潰したような表情で地下へと潜っていく。
その姿を買い物客たちは遠巻きに見ているだけであった。
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「また、移動か?」
「一度戻ってこい、だそうだ」
「帰省ってやつッスね」
男たちはテーブルを囲うように座っている。
店の中に他の客らはいない。
店主にとってはたまったものではないが、男たちにとっては都合がいい。
「そろそろ俺たちの役目も終了か?」
「まだわからないが……最後の仕上げの段階であろう」
「クライマックスってやつッスね」
男が喉を潤すようにグラスを傾け、氷の崩れる音が店内に響き渡る。




