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166 少女の決意

 リンちゃんパパとママが何をやっているかわからないけど、きっと戦争を止めようとしている。

 確証は持てないけど、リンちゃんもその関係で呼ばれたのだろう。


「…………」


 ホテルの窓から外の景色を眺める。

 もうすぐ日が沈みかけている街並みはどこか懐かしい物を感じた。


「姉さん……?」


 カレンが不安げに訪ねてくる。


「カレン……」


 私は――。

 クルクルクル〜。


「…………」

「……あの、ごめんなさい……」

「とりあえず、ご飯行こうか」


 まぁ、カレンだしな。

 毒気を抜かれた私は笑顔でそう答え、カレンを連れてホテルをあとにした。



「……あの、姉さん。ここはちょっとお高いのでは……」


 今夜のお店は珍しく私が決めた。

 対面に座るカレンが妙に萎縮(いしゅく)している。


「いいんだよ。たまにはこういうお店に来るのもいいでしょ?」

「そう、なんでしょうが。ちょっと、落ち着かないです……」


 まぁ、お店の装飾も今までと比べたら比較にならないほど高価そうだし、今回はさらに個室だしな。


「ちょっと大事な話もあるしね」

「大事な話、ですか」


 カレンがちょっと緊張している。

 お店の雰囲気にか、それとも私の発言にか。

 そのまま言葉を続けようとしたところ、扉がノックされ料理が運ばれてくる。


「とりあえず食べてからにしようか」


 高級店ではあるけど、量は十分に頼んだ。

 強張っていたカレンの表情が一転、料理を見た瞬間に目が輝きだした。

 そんなカレンを微笑ましく思う。

 そのまま料理を食べ進め、少し経ったころ、カレンの様子をうかがう。

 嬉しそうに食べ続けるカレンは年相応に可愛く、誰にでも好かれそうな表情をしていた。


「あの……姉さん。そこまで見つめられると食べづらいのですが……」

「ふふふ、ごめん、ごめん。つい、ね」


 少しむくれながらでも食べる速度は落とさない。

 さすがカレンだ。



「ふぅ、ごちそうさま、です」


 食後の紅茶を飲みながらカレンが食べ終わるのを待つ。


「カレンも紅茶飲む?」


 いつもどおりに紅茶を入れてやり、カレンの前に置く。


「あ……ありがとうございます」


 先ほどまでの元気な姿とは打って変わって、よそよそしい姿のカレン。


「あの……お話、というのは……」



 紅茶のカップをテーブルの上に置き、答える。


「カレン、私ね――あの組織をぶっ潰そうと思うの」

「あ、そうなんですね」


 …………えー、っと。


「驚かないんだね」

「えぇ、まぁ、いろいろと調べていましたし。そういうお考えになっても、特に驚かないです」


 そりゃそうか。

 場所や状況についても、カレンにいろいろと視てもらっていたし、そう思われても仕方がないか。


「それでね、さすがにカレンを巻き込むわけにはいかないから――」

「ついて行きますよ」


 …………。


「姉さんがなんと言おうとも、ワタシはついて行きます。それが傭兵組織――テロ組織の中であろうと、戦場のど真ん中であろうとも」

「危険だよ?」

「そんなことは承知のうえです。それに、そんな危険な所に姉さん一人で行かせるわけにはいきませんよ」


 うーん、やはりこうなったか。

 こうなったカレンは言っても聞かないからな……。

 さて、どうしたものかな。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ホテルで考えた私は少しでもリンちゃんの手伝いになれることをしたかった。

 テスヴァリルにいた頃じゃそんなことを思うなんてなかったけど、今の私は友達のために、やれることはやっておきたい。

 その力が私にはあるんだから。

 傭兵組織を潰すことが直接戦争を止めることには繋がらないだろうけど、少なくとも踏み留まらせることはできる、はず、きっと……自信はないけど。

 もし、効果が無かったとしても、()()は放っておいていい組織ではない。

 両親の飛行機を()とし、爆弾テロを起こした組織。

 これ以上好きにさせてたまるか。



「……もし、私が力尽くで、カレンを抑えるとしたら、どうする?」

「……っ」


 私の殺気に反応し、カレンが瞬時に魔眼を(おこ)す。

 いい反応だ。

 この子なら、もし一人で生きていくとしても大丈夫だろう。

 このまま危険なことは避けて、安全なところにいてほしい気持ちはある。

 しかし、そうもいかないのであれば……。



 そのまま無言で数秒睨み合う。

 カレンの手が震えている。

 できることであれば一人で向かいたかった。

 アウルならまだしもカレンやルチアちゃんみたいな子には血生臭いことを知らない世界にいてほしいから。



 重々しい空気の中、カレンが口を開く。


「ワ、ワタシは、姉さんに命を救われました。死を待つしかなかったワタシに、生きる希望を、楽しさを与えてくれました」


 震えながらもカレンは言葉を続ける。


「そんな、姉さんに、恩返しがしたい。手を差し伸べてくれた姉さんの、力になりたい。だから、辛くても、この能力(ちから)を、使いこなすために、頑張りました」


 カレンの魔眼が(あか)く、(あか)く、(あか)く、力強く光り輝く。


「ワ、ワタシは……無力だった頃の、ワタシは! もういないのです! 姉さんと共にいるため、同じ場所に立つため、ワタシは強くなりました!」


 カレンの魔眼がさらに光り輝く。

 テーブルの上にあるお皿やカップがカタカタと鳴り響く。

 私はカレンの念視や操視を受け付けないよう、魔力による耐性を高めている。

 それでも、わずかではあるが、カレンの想いが、強い想いが伝わってくる。

 この子は……この子の能力(ちから)は、まだ伸びるのか。


「……死ぬかもしれないよ?」

「姉さんに置いていかれるぐらいなら……死んだ方がマシです」

「…………」

「…………」


 そのまま、さらに数秒と睨み合う。

 カレンの眼には一歩たりとも譲らない強い意志が見える。


「……ふふ、簡単に死ぬなんて、言っちゃだめだよ、カレン」


 頬を緩めながらカレンが言った言葉に対して(とが)める。

 私の負け、かな。


「ね、姉さん……」


 緊張の糸が切れたのか、ヘナヘナとテーブルに突っ伏すカレン。

 と、思ったらガバッと起き出し――。


「ね、姉さん! ヒドいです! 怖かったんですからね!」


 カレンの瞳に涙が……普通に溢れているな。

 滂沱(ぼうだ)の涙という感じに。


「姉さん! 聞いているんですか!」


 普段大人しいカレンが感情をあらわにしているのが珍しく、微笑ましく思う。


「なんで笑っているんですかぁぁ!」


 個室にしてホント良かったと思う。

 私のもとへ来たカレンは抱き付いて離れない。

 この狭い椅子に、器用に乗っている。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ねぇ、いい加減離れない?」

「イヤです。さっきの埋め合わせがまだ済んでいません」


 お店を出たところからベッタリと離れないカレン。

 よっぽど怖かったのか、それともここぞとばかりに距離を詰めて来ているのか……。

 やってしまった感が(いな)めないが、カレンの意志を確かめるためにも、あれは致し方なかったことだ。

 ……後悔はしていない。うん。大丈夫。私は頑張れる……。



「……そろそろ離れてもいいんじゃない?」


 ホテルの部屋へ戻ってきたところで再びそう声をかける。


「イヤ、です」


 はぁ、小さくため息をつきながらソファーに座る。

 カレンも当然隣に……。


「さすがに邪魔なんだけど。重いよ」

「レディーに重いとは失礼ですよ」


 隣に座るかと思いきや、膝に座ってきた。

 しかもこちらを見つめる形で。

 さらにカレンは魔眼を(おこ)している。


「ふふ、姉さんの中……」


 カレンの表情が恍惚(こうこつ)に染まる。

 発言と見た目が完全にアウトなんだけど……。



 さっきの料理店で、カレンの感情が高ぶったためか、魔眼の性能がもう一段階上がった気がする。

 私も本気で拒絶しない限りはカレンの念視を防げない。

 本当にバレてはいけないこと以外は筒抜けとなってしまった。


「むぅ……姉さん、力抜いてくださいよ。奥深くまで入れないじゃないですか」


 だから、発言が……。


「えへへ……」


 はぁ、まぁ、しばらくはこのままでいてやるか。



「……お風呂に入るときぐらいは少し離れない?」

「イ、ヤ、です」


 まぁ……そんなことだろうと思ったよ……。

 その後も、いつも以上にカレンに付きまとわれる。



 ただ、トイレの中だけはホント勘弁して……。


「姉さん知っています? 留視(りゅうし)ってトイレの中でも使えるんですよ?」


 もうやだ……。



 そのまま疲労感に(あらが)えきれずベッドに沈み込む。

 当然、カレンも一緒にベッドイン。

 つ、疲れた……。

 明日に疲れが残らなければいいが……。


「カレン」


 私の真剣な口調に、抱き付き撫でていた手が止まる。


「……なんでしょうか」


 カレンも真剣な表情で返してくる。


「明日、少し買い物したら例の場所へ向かうよ。覚悟はいい?」

「問題ありません。覚悟もとうにできています」


 うん。聞くだけムダだったかな。

 傭兵組織に乗り込むと言っても深追いするつもりはない。

 危なくなったらすぐ離脱するつもりだ。

 カレンにはああ言ったけど、本当に命をかけるつもりはない。

 のんびりスローライフ、そのための障害を少し排除するだけだ。

 当然やるからには徹底してやるけどね。

 表情を崩した私につられ、カレンも微笑んでくる。

 そのままベッドの中で他愛もない話をする。

 いまさらながら私のことやカレンのこと。


 どちらともなく寝息が聞こえ、そのまま意識を手放す。

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