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162 巻き込まれ体質の利点

 ……なんか既視感(デジャブ)が。

 私はトラブルメーカーではなかったはず。ないと思っていたんだけど……。


「金を出せ! 騒いだら殺すぞ!」


 こめかみを押さえ、どうしたものかと考える。

 考えたところで状況が好転することもないんだけど……。


「はぁ、カレン。すぐ動けるように……って、言うまでもないか」


 カレンの方を見ると、すでに魔眼が(おき)ており、銀行強盗を視界に捉えていた。


「このカバンにありったけの金を詰めろ!」


 強盗犯は全部で四人。

 一人が出口を確保し、二人が客たちを抑え、一人がカウンターで叫ぶ。

 朝早い時間帯だから客は私たちと数人だけだ。


「二人同時にできる?」


 カレンは小さくうなずくと、その眼に魔力を注ぎ二人を視る。


「うん……?」

「なっ……!?」


 周囲を警戒していた二人は不自然な格好で停止する。


「お、おい……」

「どうなってんだ! こりゃ!」


 ふむ。二人同時でも余裕そうだね。

 離れていた二人はゆっくりと歩き出し、近づいていく。

 手には自動小銃っぽい何かを抱えているが、銃身(それ)を持ち変え逆さに構えている。


「お、おい、ちょっと待て……」

「か、身体が……」


 近づいた二人はまるで鏡で映しているかのように銃を振りかぶり――。


「がっ……!」

「ぐぉ……!」


 お互いの頭部をめがけ振り抜いた。


「へぇ、さすがだね」


 倒れた二人はそのまま起き上がることがなかった。

 残りは二人か。


「おい!? 何やってんだ!?」


 お金を詰め込んでいた男が振り返り叫ぶ。


「ちっ…… 」


 その男はカバンを引ったくるように奪うとそのまま出口へと駆けだしていった。

 ――が、出口まであと少しというところで、乾いた発砲音が室内に響き、勢いよく倒れ込む。


「がっ……。て、てめぇ……いったいどういうつもりだ……」

「お、俺は何も……か、身体が勝手に動いているんだ!」


 駆けだした男は出口にいた男に、足を撃ち抜かれていた。


「くそがっ!」


 倒れた男は銃口を向けると、出口にいる男に向けて発砲する。


「ぎゃっ!」

「このまま捕まってたまるかよ! ……こうなりゃ、ガキを人質に――」


 立ち上がり、足を引きずるようにこちらへ向かってくる。

 ガキって……私たち二人のことか。

 残念だったね。

 ここにいる二人は何よりも手を出しちゃいけない子供たちなんだよ。


「なっ……身体が……」


 あと数歩というところで、男の身体が止まる。

 そのまま、銃口が男の口元へと持っていかれ――。


「あ、カレンちょっと待って」


 私の一言で絞っていた引き(がね)を止める。


「ねぇ、あなた、どこの人?」


 唐突とも思われる質問を男に向かって投げる。


「い、いったい何を……。それより、お前ら何者だ……」


 質問に答える気はないか。

 仕方なくカレンの方を見る。


「傭兵組織ベレンデロの、資金調達のために派遣されている、下っ端の男」


 カレンが男の思考を読み取り教えてくれる。


「な、なぜそれを……」


 あぁ、こいつが(ちまた)で噂されている傭兵組織の人間か。


「その傭兵組織はどこにあるの?」

「…………」

「この街から遠く、遠く、南へ行ったところに、ある」


 男は口を(つむ)ぐが、カレンの能力(ちから)の前ではその行動も無意味とはなる。


「ありがと。じゃあこの人には眠ってもらおうか」

「ぎゃび!」


 雷撃でひとまず無力化する。


「姉さん、ワタシに任せてくれればいいのに」

「いいんだけど、目の前で頭吹っ飛ばしたら血の雨が降るでしょうに……」


 もしかしたらこの子も短絡的な思考をしているのかな。

 悪党に人権は無いと言ってもむやみやたらに殺す必要もないだろうし。


「……失礼ですよ。姉さん」


 思考を読まれたことはスルーし周囲を見回す。

 他のお客さんや銀行員はさっきの銃声で頭を伏せていたため、幸いにも私たちのやりとりは見ていない。


「公安が来るまでに離れようか」


 この国に来てまでいちいち事情聴取なんて受けていられない。

 そう思い、急いでその場を離れる。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 はぁ、私は巻き込まれ体質じゃないと思っていたんだけどね。

 ちょっと一息入れたかったから、目に付いたカフェに入る。

 私は普通に紅茶、カレンはパンケーキセット。

 よく食べるな……。まぁ、遠慮がないのは良いことだ。


「カレンも魔眼は普通に使えていたね」

「そう、ですね。もう少し練習は必要そうですが、思ったよりはうまくできました」


 今回のように悪党であれば容赦なく実験体にできるし、結果的に巻き込まれて良かったのかもしれない。

 あまり目立つようなことはしたくないけど。

 もう少し、どこかで試せたらいいんだけどな。

 そんなことを考えながら嬉しそうにパンケーキを頬張っているカレンに目をやる。


「あ、ほっぺにクリーム付いているよ」


 もう、子供なんだから。

 微笑みながらカレンの頬に手を伸ばし、クリームを取ってやる。ついでにそのまま味見も。


「へぇ、ここのクリームはおいしいね」


 リンちゃんと食べたヘイミムのクレープ屋さんを思い出すような、そんな懐かしい味がした。


「…………」

「ん? どうしたの?」

「姉さん……それは、ズルいです」

「えっ、ごめん。クリーム欲しかった?」


 つい手に取ったものを口にしてしまったが、マズかったかな……。


「いえ、そういうわけでは……」


 顔を赤らめながらも口ごもるカレン。

 何か失敗しちゃったかな……。

 いつもはハッキリ言うカレンなのに口ごもるなんて。


「ち、違いますよ。その、恥ずかしかっただけなんで、気にしないでください」


 それならいいけど……って、サラッと心を読むなぁ。

 ま、それも練習になるから()うるさいことは言わない。

 どうせ能力(ちから)を使わなくても表情でわかるんだろうしね。

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