表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/300

160 難しい制御

 食事を終えてホテルへと戻る。


「お風呂へ入る前に、もう一度操視(そうし)について試そうか」

「……はい」


 私がそう言うと伏し目がちに返事をするカレン。


「怖くなっちゃった?」


 まぁ、仕方がないよね。

 他人の行動を制限するような能力(ちから)なんて。

 それに、命を直接刈り取ることも可能だし。


「怖い……そう、ですね。また、姉さんに危害を加えてしまうのではないかと思うと、少し」


 そうだよね。私に危害を……って。


「ちなみに聞くけど、他の人に対して能力(ちから)を使うことをどう思う?」

「どう、と言われましても、特に何も……。姉さんに危害を加える人は敵、ですよね」

「…………」


 ま、まぁ、能力(ちから)に対して抵抗がないのならいいか……。


「今度はゆっくり、少しずつ魔力を注いでやってみようか」

「また……姉さんで、ですか……?」


 あまり気のりしないような口調で答えるカレン。


「うん、制御できるまでは他の人に使えないよ。どこかに悪党でもいればちょうどいいんだけど……」


 悪人なんてそこら中にいるだろうけど、自分からわざわざ喧嘩売るようなことはしないよ。

 カレンはいまだ納得していないようだけど、特に何も言うこともなく、私の隣に座っている。


「まぁ、カレンなら次は大丈夫でしょ。期待しているよ」

「うっ……ムダにハードルを上げないでくださいよぉ」


 真剣な眼差しから困り顔になるカレン。

 ふふ、そんな反応を示すカレンを愛おしく感じる。

 それにしても、いつの間にか(そば)に居るのが当たり前の存在になってしまったな。

 まだ出会ってから数日しか経っていないのにね。

 ふくれっ面になりながらも、私のことを姉と言って慕ってくれる女の子。

 お互い身寄りの無い子供だからか、自然と一緒にいることとなってしまった。

 そんなカレンもいつかはいなくなるんだろうけど、今この時ばかりは一緒に笑い合っていようとは思う。


「なんで笑っているんですかぁ」

「ふふ、ゴメンゴメン」


 誤魔化すようにカレンの頭に手を伸ばす。


「――あ」


 手触りの良い銀色の髪をすくうように撫でる。

 最近はちゃんと食事をしているからか、髪質も肌ツヤも良くなってきた。今はもう普通の女の子だ。

 そのまま数度撫でると、気持ち良さそうにしていたカレンの瞳が私の目を捉えた。

 翠眼の奥底には紅蓮のように燃え盛る魔眼が垣間見える。

 この子は私の言うことをちゃんと聞いてくれる。

 この子なら――。


「姉さん……」

「…………」


 声色に(なま)めかしい雰囲気を感じ取ったため、手を引っ込める。


「あ、あぁ、なんでやめるんですかぁ」


 私がこの子を想う気持ちと、この子が私を想う気持ち、微妙に違うんだよなぁ……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、気を取り直して操視(そうし)の練習をやろうか。魔力の注ぎ方はゆっくりでいいからね」


 魔眼を(おこ)したカレンの瞳を見つめる。

 念のためナイフも持っておく。


「ゆっくりと魔力を注いで、相手の身体に眼を介してゆっくりと。眼から徐々に身体中へ、カレンの魔力を張り巡らすように――」


 身体の中に異物――カレンの魔力が注ぎ込まれているのがわかる。

 ゆっくりと慎重に。

 カレンの紅い瞳が爛々(らんらん)と輝く。


「いいよ。そのままゆっくりと――」


 少しずつカレンに侵食されているのを身体で感じる。


「そのぐらい、かな? いったん止めて」


 私の言葉で注ぎ込まれる魔力の流れが止まる。


「うん。いいね。この感覚を覚えておいてね。慣れればゆっくりと注ぐ必要も無いからさ」


 さっきのは完全に魔力過剰だった。

 強すぎる力は相手の身体を乗っ取ることができず、力任せに潰してしまう。

 使い方次第では痛覚を消したり、魔法を阻害したりすることもできるからね。

 わざわざ言うことでも無いけど、もしそうなっていたらさっきのはかなりヤバかった。

 私も気をつけなきゃ。

 どうして私の周りには魔力の多い子たちが多いのだろうね……。


「それじゃあ、その状態で、私の身体を動かすことできる? 例えば手を挙げたり」

「こう、ですか?」


 ゆっくりと、ナイフの持っていない方の手が挙げられる。


「うん、いいね。じゃ、次は立たせることはできるかな?」

「…………」


 カレンの瞳に力が入り、ゆっくりと私の身体が立ち上がる。


「うん、大丈夫そうだね。じゃ、一通りの動きをやってみようか」


 そう言ってカレンをうながす。

 挙げていた手を下げたり、歩いたり、座ったり。

 うん、いいね。

 動かされている私は正直妙な感じだ。

 感覚はそのままのため、自分の意思とは関係ない動きに頭が戸惑う。

 力任せに抵抗すれば解けそうだけど、今は練習がてらカレンの好きなようにさせている。

 両手を広げその場を周り、ステップするかのように部屋の中を歩く。


 ――って、なにやらせんのよ。

 端から見れば陽気なお嬢さんみたいな動きをカレンにやらされる。

 そのままカレンの目の前まで行き、スカートの端を掴みカーテシー……って、スカート上げすぎじゃないかっ?

 カレンはしゃがみ込むようにし、視線を下げてくる。


「…………」

「……ひっ」


 魔力を練った私に気がついたのか、カレンが跳び上がるのと同時に、私は後ろへと跳躍するかのように下げられる。

 ……この狭い室内の中で。


「あがっ!?……ぶへっ」


 後頭部を強打し、跳ね返った勢いのまま顔面を打ち付ける。


「あぁっ! ご、ごめんなさいっ!」

「…………」


 ……無言で自分自身に治癒魔法をかける。

 もうやだ……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 操視(そうし)が解けた私は起き上がる気力も無く、うつ伏せのまま床に寝そべっている。


「ね、姉さんっ。本当にごめんなさいっ……」


 (ひざまず)くように(そば)に座っているカレンは何度も泣きそうな声で謝ってくる。いや、実際に泣いているか。

 まぁ、わざとじゃないから仕方がないんだけどさ。

 ……でも、この光景はわざとなんだろうなぁ。

 小さくため息をつきながらも、動く気力が無いため、視線はそのままである。

 目の前に跪いているカレン。

 スカートが捲れ上がっており、中が丸見えである。

 もうやだ……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつまでもそのままでいるわけにもいかず、渋々と起き上がる。


「姉さん、ごめんなさい……」


 いまだ意気消沈のカレンは沈んだ声色のまま謝罪を続ける。


「別に怒っていないからさ。今度から気をつけてくれればいいよ」

「はい……」


 カレンの気分は晴れない。

 そこまで落ち込むのならやらなきゃいいのに……。

 そうは言っても、本人(いわ)く抗えない魅力があるんだろうけど。

 はぁ。そんな自分自身に私も沈みそうになる。


「気を取り直してお風呂入ろうか。背中を流してあげるよ」


 そう言うがカレンは無言でうなずくだけで、普段の元気の良さは無かった。

 うぅん。重傷だな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ