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16 遠足の前日

「コホン、それより、行く前に調べちゃったら楽しみが半減しない?」


 リンちゃんがわざとらしく咳き込み、話を元に戻す。


「事前に現場を把握することは大事。そうすれば不測の事態にも備えることができる」


 過去の経験と実績から、行く先のことや相手のことを事前に把握することは大事。

 時にはその情報次第で生死が決まることだってあるんだから。


「現場ってなにさ。確かに情報は大事だけど、ただの遠足だよ? そんなに不測の事態がポンポン沸いて出るとは思えないんだけど」

「……転校してきて早々、銀行強盗に巻き込まれている人が言うかな、それを」

「う……あれは、たまたまだよ。そう、たまたま!」


 バツの悪そうな顔をして言葉に詰まる。

 一瞬トラブルメーカーと言う言葉が頭に浮かんだが飲み込んでおく。

 ……自分のことではないと、そう思いたい。


「はぁ、本当にたまたまならいいんだけどね。それより、遠足にもやっぱり銃は持っていくの?」

「当然! スマホと銃は必須アイテムだね」


 この治安のいい世界で、銃は必須アイテムか?

 スマホはわからないでもないけど。


「リンちゃんもスマホ持っていくんじゃん」

「ワタシはいいの。ちゃ~んと学校に許可もらっているんだから」


 そうなのか。いつの間に。


「それにしても良く学校から許可が出たね」


 許可制とはいえ、普通は許可が出ない。

 通学が心配だからと言った理由じゃ当然出るわけがなく。

 そんなことで許可していたらほとんどの生徒が持ってしまう。


「ふふふ、ワタシは特別だからね~」

「あ~、はいはい。そんな特別な子が、私みたいな平凡な子と付き合ってもいいのかしらね」


 少々皮肉も込めて言ってみる。


「え? コトミのどこが平凡なの?」


 え? どこが平凡って……。


「普通に平凡だと思うけど。特に何かに(ひい)でているわけではないし」


 ウチの両親も特別なことなんて何もない。

 ただの少し忙しい商社マンだ。

 少し、というよりかなり忙しい部類なんだろうけど。

 前世の記憶持ちってことは両親も含めて誰にも言っていない。

 信じてもらうことも難しいだろうし、何より話すメリットなんて何もない。

 気味悪がられて、最悪、精神病送りだろう。

 さすがにそんな状態までならないとは思うけど、最悪ケースを想定して動くことは大事。


「自分で平凡って言っている時点で普通と違うよね」

「なによ、その言いがかり的発想は……」


 そんなに目立つことはしていないはずなんだけど。


「銀行強盗の時も落ち着いていたしさ。普段の言動も子供とは思えないし」


 あんな状況でよく見ているね。


「リンちゃんも銀行強盗の時は落ち着いていたよね。狙撃までしたし」

「それよ、それ。ワタシと同じように落ち着いていたってことは、それすなわちワタシと同じ特別な人だってこと、だよ」

「う……。でも、さすがに落ち着いているだけで一括りにするのはやりすぎじゃない?」


 そういえばリンちゃんも普通の人と違うんだった。


「ふふふ、まぁ、それだけじゃないんだけどね。既に裏は取れているのだよ」

「裏ってなによ。裏って」


 怖っ。そんな裏を取られるようなことはしていないけど、言いようのない不安が……。


「ふふふ、その時が来るまでは内緒だよ」


 ほくそ笑みながら不吉なことを言う。


「笑顔が黒い」

「あ、そういうこと言っちゃう? コトミの秘密は既に握っているんだよ?」

「……例えばなによ?」


 何か知ってる……?

 今まで隠しながら能力(ちから)を使ってきたけど、どこかで見られたのかな。

 必要であれば口封じを……って、そんなことでやらないよ。

 特にこの世界では痕跡(こんせき)をもとに犯人までたどり着けることができる。


 まぁ、科学をもとにした解析では魔法の痕跡まではわからないだろうから、もし何かやるとしても魔法を使うかな。

 って、やらないけどね。

 本当にどうしようもなくなったら考えるけど、よっぽどのことがない限り無茶はしない。

 私はのんびりスローライフを目指すのだ。

 そんな血生臭い生活とはおさらばしたのだ。


「ふふ~ん、知りたい? どうしよっかな~」


 リンちゃんが悪い笑顔を向けながら楽しそうにしている。


「はぁ……私の反応みて楽しい?」

「楽しいよ? コトミってポーカーフェイス気取ろうとしているけど、隠しきれていないもん」

「…………」


 いや、確かにさ、昔は人付き合いとか少なかったし、自分の表情が読まれやすいとかもわからなかったけどさ、それにしても読まれすぎでしょ……。


「あ~、たぶん大丈夫だよ。私が特別なだけで、他の人たちはわからないと思うから」


 ま、また心読みよるし。


「ちなみに聞くけど、リンちゃんが特別ってどう言うこと?」

「それは秘密だよ~」

「秘密かよ」


 まぁ、誰にでも秘密はあるだろうね。

 私にも言えない秘密はいっぱいあるし。

 今まではそういうこともあってあまり友達を作れなかったけど、いまはリンちゃんがいる。

 他のクラスメイトに対して、こんな風にお喋りすることないし。

 まぁ、リンちゃんとは出会い方が衝撃的だったのもあるけどね。


「ワタシもコトミと友達になれて嬉しいよ」

「……よくそういう恥ずかしい台詞を面と向かって言えるね」

「ふふん。素直がワタシの取り柄だからね」


 素直、か。

 確かに無邪気な笑顔は年相応な感じがするし、好感が持てる。

 他のクラスメイトからの人望もあるし、転校してきたばかりなのに、学年を越えての人気者になっている。


「そういえばリンちゃんって、なんで私といつも一緒にいるの? リンちゃんほど人気者なら他にも友達いるだろうし」


 機嫌良く、くるくる回っていたリンちゃんが足を止めこちらに向き直る。


「う~ん、勘、かなぁ? なんとなく、なんとなーくだけど、友達になった方がいいような気がして……」

「……なんか、急に打算的な友達関係になってきたなぁ」


 しらーっと、目を細めてリンちゃんを見る。


「あ、いや、ごめん、そんなつもりじゃなくて……」


 焦るリンちゃん。

 この様子だとリンちゃんも自分の失言に気づいたんだろうなぁ。


「はぁ……いいよ、素直なリンちゃんのことだから、裏表なく言っちゃっただけだろうし。素直って大変だねぇ」

「あはは、ごめんねぇ」


 リンちゃんが珍しく萎縮(いしゅく)している。

 本当に素直でいい子だね。


「別に怒ってないからいいよ。リンちゃんらしいと言えばリンちゃんらしいしね」


 手の平を合わせ謝っているリンちゃんに手を差し伸べる。

 そんな会話をしながらいつもの分岐点に到着する。


「じゃあ、また明日ね!」

「うん。また明日」


 そのままリンちゃんと別れ帰路につく。

 あ、公園のことについて調べるの忘れてた。

 ま、いっか。

 平和な世の中だし、リンちゃんじゃないけど、そんなに不測の事態は起こらないでしょ。

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