表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/300

149 少女の一大決心

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「魔眼が使いこなせるようにようになっても、体力が増えるわけではないからね」


 息も絶え絶えとなっているカレンの首根っこを捕まえる。

 鬼ごっこの結果はカレンの体力切れで勝負がついた。


「姉さん、は、体力が、あるんです、ね」


 温室育ちの私には負けないと思っていたのか、恨めしそうな目で見てくる。


「私は魔力で強化しているからね」


 身体を動かすときは普段から魔力で強化している。

 だから筋肉がつかず、リンちゃんにフニフニと言われるんだろうけど……。


「筋力強化魔法、ですか。さすが、魔法使いです」


 少し落ち着いたのか、たたずまいを正しながら椅子に座るカレン。


「んー、魔法というよりは、魔力を直接操作しているね。それに、魔法使いじゃなくて、魔術師だからね」


 魔法使いと魔術師の違いは今度教えておこう。


「それより、魔眼の使い方、上達したね」


 飲み込みも早かったけど、使いこなしも早かった。

 末恐ろしや……。


「姉さんのため、ですよ」


 コテ、っと、私の肩に頭を乗せてくるカレン。

 言葉は重々しいけど、その気持ちが嬉しくなってくる。


「……カレンは自分がどうしたいのとか、無いの?」


 少し恥ずかしくなり、話題を変えるためにも別の質問を投げかける。

 しばし逡巡(しゅんじゅん)したのち、そのままの体勢でカレンが口を開く。


「……今は、無いですね。姉さんと一緒に居られればそれだけで幸せです」


 目を合わせることなく、そう告白してくるカレン。

 はぁ……。どうして、私の周りの子たちは、こうも好意を寄せてくるのだろうか。

 それも、同性に向けるような想いじゃなく……。


「…………」


 まぁ、いいや。

 幸せそうな表情で、目をつむっているカレンを見ると、言う気も失せてきた。

 頑張っているのは事実だし、少しご褒美としてこのままでいよう。


「…………」


 姉さんのため、か。

 成り行きで魔眼について教えることになったけど、私はどうしたいのかな。

 教えるだけ教えて、ポイッてするわけにはいかないし。

 かといって、一緒に連れて歩くわけにもいかない。

 私には私の生活があるんだから。

 うーん、どうしたものか……。

 そんなことを思い、揺れる鉄道に身を任せながら窓の外を眺める。

 日が沈み始めており、もう少しで目的地につくだろう。

 いったん魔眼の練習は終わりかな。

 あとは少しのんびりしていよう。

 肩の力を抜き、スマホを取り出しながら今日の宿を探す。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うーん、どこにしようかな」

「姉さん? どうしました?」


 顔を上げたカレンは私の手元、スマホをのぞき込む。

 瞳の色は草原を連想させるような翠眼へと戻っている。


「今夜泊まるホテルをどうしようかな、って思ってね」


 ポチポチといろいろなホテルを表示しては消していく。

 そもそも子供だけで泊まれるかどうか。

 まぁ、何件かあたれば一件ぐらいあるだろう。

 とりあえず三件ぐらいに絞る。


「ん-、カレンはどこがいい? 」

「ワタシは姉さんが決められたことに従いますよ」

「…………」

「…………?」

「選んで」

「……え?」


 私の一言に固まるカレン。


「私のために〜、とか言っているけど、ようは選択の放棄だよね。たまには自分の意見を言いなよ」


 最初の内はただ単に遠慮しているものだと思っていた。

 だけど、こうやって数日過ごしてみて、わかったことがある。

 この子、私の意見を全肯定している。


「いえ……、姉さんの望みが、ワタシの望みですので……。ホテルも姉さんが好きな所を選んでくれれば……」


 はぁ、まったく。

 私の周りには話を聞かない子が多かったけど、この子は真逆か。

 遠慮のし過ぎもそれはそれでやだなぁ……。

 この性格、今のうちになんとかしておこう。


「この三件の中からならどれでもいいよ。私が選んでもハズレる時はハズレるんだし。もし、ハズレても文句は言わないよ」

「うぅ……。文句は言わなくても心の中で(さげす)まないですかぁ……?」

「私をなんだと思っているのよ……」


 この子は心配性か? いや、たまに大胆な行動を取ることもあるし、そういうわけでもないか……。

 はぁ、あまり無理強いしても仕方がないし……。


「もし選んでくれたら、特別に私の感想を()()もいいよ。言葉にするより確実でしょ?」

「え……? いいんですか!?」


 う……。そんなに詰め寄られると、ちょっと気が引けるんだけど……。

 そんなに視たいのか……?


「わかりました。頑張ります!」


 いきなりやる気が出たけど……。逆に恐いんだけど……。

 伸ばしたカレンの手にスマホを預ける。


「むむむむ……」


 食い入るようにスマホと睨めっこをするカレン。

 ……しばらく時間がかかりそうか。

 特に何もすることもなく、そのままぼーっとカレンを眺める。

 まだ少し不健康そうではあるが、出会ったころに比べてだいぶ肌つやが良くなっている。

 くすんでいた銀髪も、今では見とれるほどのキレイさを取り戻しいる。

 長さはリンちゃんと同じぐらいか。

 身長は――アウルと同じぐらい。

 出るところは誰よりも出ている……。くそっ。


「……姉さんって、魔眼に頼らなくても心が読めますね」

「うっさい。みんなして同じこと言わないでよ」


 いつの間にかスマホから顔を上げているカレンと目が合う。


「それで? 決まったの?」


 おずおずとスマホを差し出してくる。


「ここ……」

「もうちょっと自信を持ちなさいよ」


 少し呆れながらも渡されたスマホの画面に目を落とす。

 表示されていたのはキャッスルホテルという名のホテルのページ。


「ふーん、一応理由を聞いておこうか」

「あ、えと……その……。こ、候補にあったホテルは、どれも駅から近く、評価も遜色(そんしょく)ありませんでした、大きさもあまり変わらず、お値段もほとんど同じでした」


 うん。そうだね。選んだところはどれにしてもハズレることはない、無難なものだった。

 だからこそ、カレンに選んで欲しかったのだ。


「そんな中からこのホテルを選んだ理由は?」

「……勘……です」

「うん。いいんじゃない? ここにしようか」


 子供だけで泊まれるかどうかは行ってみてからだね。


「本気、ですか? ただの勘ですよ?」

「本気も本気。勘というのはね、経験と理屈を基に示された答えなんだからカレンを信用するよ。それに、三つまで絞ったのは私なわけだし、とんでもないホテルだとしても私にも責任はあるよ」

「『私に()』ってことはワタシにも責任はあるんじゃないですかぁ……」


 カレンが情けないことを言っているけどスルーする。

 なんにせよ自分で物事を決められるようにならなきゃね。

 そのための一歩としては上出来かな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ