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144 〔少女二人の内緒話〕

「ふぅ……ちょっと休憩しようかな」


 両親のことやコトミのこと、この国ロフェメルのことや隣国ヘルトレダのことについて、引き続き調査をしていたリーネルンはキーボードから手を離し、大きく伸びをした。


「あ、リンさん休憩? 飲み物持ってこようか?」


 同じ部屋にいながらも気配を感じさせないアウルの言葉にうなずくリーネルン。


「そうだね。アウルも一緒に休憩しようか」


 気配を消して待機するアウルについてはもう気にしないことにした。

 あまりにも気配がしないから逆に気になるということは本人には内緒である。


「え? 私? 何もしていないから休憩も何も必要ないんだけど……」

「いいの。ワタシが一緒にしたいんだから、付き合いなさいよ」


 根が真面目なアウルはこういう時でも遠慮しようとする。

 コトミであれば、相手のことを思って逆に遠慮しないというのに。

 リーネルンは呆れながらもアウルを無理やり付き合わせることにした。



「ふぅ、アウルはずっと立っていて疲れないの? 何もしていないときの方が疲れそうな気もするけど」


 アウルの持ってきてくれた紅茶を一口飲み一息つく。

 目の前で遠慮しているアウルも同じようにティーカップへと手を伸ばす。


「あはは、意外と護衛の仕事には慣れているからね。体力にも自信はあるし」

「…………」


 アウルはコトミと比べ嘘や誤魔化しが苦手である。

 コトミも嘘は下手だが、誤魔化す必要があるときは誤魔化す。

 まぁ、まったく誤魔化しきれていないときの方が多いけど。

 アウルは単純だからか誤魔化すこともせずに普通に話してくる。


(ルチアには悪いけど、ちょっとだけお話しさせてもらおうかな)


 リーネルンは心の中で手を合わせながら、ここにはいないルチアへと一言謝罪し言葉を続ける。


「アウルって剣が得意なんだよね。昔からやっていたの?」

「え? んー、そうだね。剣が得意ってのもあるけど、半分はスキルのおかげかなー」

「…………」


 リーネルンはこめかみを押さえた。

 まずは世間話から――。

 そうやっていろいろと核心へついていくはずだった。

 それがいきなりの爆弾投下である。

 コトミからは()()魔法の話しか聞いていなかったからだ。


「……スキルって、『剣』のスキルだっけ」


 話を誘導するリーネルン。

 エージェントとして、こういう尋問の訓練も受けている。

 尋問と言わず、人心を掌握(しょうあく)するためにもトーク術は必要である。

 まぁ、今回に限って言えば、尋問せずとも本人が勝手にしゃべってくれそうではあるが……。


「うん、そうだよー。あとは『俊敏(しゅんびん)』っていうのも持っているの。すごいでしょー」


 自信満々に胸を張るアウル。

 最初、コトミと敵対したときは冷徹で容赦のない人物だったとリーネルンは思っていたが、今この姿を見るとそんな姿の面影も見当たらない。

 これが素のアウルなんだろう、とリーネルンは思った。


「へー、すごいね。そういうスキルっていつ手に入れるの?」

「ほとんどは生まれつきだね。たまに後天的に取得することもあるけど、そういうケースは持っていたスキルが開花したとか、そんなのだよ」


 いろいろと初めて聞く話である。

 コトミはそういう話を自分からしない。

 まぁ、聞いたところで、どうしようもない話ではあるが。

 リーネルンも、コトミの魔法やアウルのスキルには興味を持っている。

 できれば自分も取得したい能力(ちから)ではあるが……。


「ふーん。コトミもそうだけど、アウル以外にそういう能力(ちから)を持っている人はいるのかな」

「うーん、いないんじゃないかなぁ。私とコトミは事情が事情だしね」


(事情……?)


 やはりこの二人には何か共通の秘密があるのだろうと、リーネルンは確信を持った。

 まぁ、出会ってからの言動で、ほぼ間違いないと思ってはいたが。


「そうなんだ。アウルは昔からコトミのことを知っていたんだよね。昔のコトミってどんな感じだったの?」


 いろいろと質問を重ねるリーネルン。

 ただの会話に見えて誘導されているとはアウルも思っていない。

 別にアウルを(おとし)めるためにやっているわけではない。

 知っているだけで力になれることもある。

 ただそれだけのことである。


「昔のコトミ、かぁ。何て言うか……コミュ障? みたいな感じだよね。私と初めて出会ったときも酷かったし」


 遠くを見るように視線をあげ、ポツリと言葉をもらす。


「完全に他人を信用していなかったよね。コトミから聞いていると思うけど、体質が特殊だしさ。下手したら人体実験なんて話もあったし。そんなことしても意味がないと本人は言っていたけど、そのことについて証明することはできないしねー」

「…………」


 リーネルンは頭がこんがりだした。

 アウルが話している内容は理解ができる。できるが……。

(コトミの体質……? 人体実験? 証明できない……は魔法のこと? でも、アウルの口振りからすると、魔法は当然のこととして、コトミの体質が関係あるのかな?)


 疑問が次から次へと湧いてくる。


「でも、根が優しい子だからね。なんだかんだ言っても手を差し伸べてくれるんだよねー」

「……それは、本当にそう思う」


 リーネルンも命がけで守ってもらったことがある。

 アウルの言うとおり、優しい子でなければそんなことはできないだろう。


「う……。なんか、ごめん」

「あー、まぁ、事情が事情だったしね。それは、仕方がないよ。コトミも許してくれたんでしょ」


 アウルが謝罪の言葉を口にする。

 つい先日、リーネルンを賭けてコトミとアウルが剣を交えたばかりだからだ。


「うん……。本当にコトミには頭が上がらない」

「…………」


 それはリーネルンも同じだ。

 事情があったとはいえ、もしコトミがいなければリーネルンはどうなっていたか。

 想像することも容易に、命の保証はなかったであろう。

 コトミはリーネルンの恩人。

 そんな恩人の秘密を暴こうと、今この場を設けている。


 ――本人の居ないところで。


「……やっぱり、やーめた」

「……え?」


 いきなりのリーネルンの言葉に疑問の声を上げるアウル。


「なんでもない。それより、もっとコトミの昔話聞かせてよ。どうせ無茶ばかりしていたんでしょ?」

「あはは。そうだね、いつの頃だったかな? だいぶ前のことなんだけどね――」


 少女二人の楽しそうな笑い声が部屋に響く。

 一人の少女が二人の少女を救い未来へと繋げた。

 二人は楽しそうに一人の少女へと想いを()せていく。

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