14 素の少女
普段と何も代わり映えのない学校終わりの帰り道。
放課後に図書室へ寄って本を読むのが日課となっている。
同年代の他の子たちは外で遊ぶ方が好きなようだけど、私は本を読むことの方が好きかな。
知識も蓄えられるし、魔術への応用もできる。
例えば、火を出すための魔力量を抑えることもできるようになった。
燃焼の三要素とか、そういった原理や法則を理解すると自ずと魔法の効率が上がっていく。
やはり、目に見えて成長すると楽しくなってくるね。
ちなみに、例の転校生――リンちゃんは他の子たちに付きまとわれているから、最近はあまり会話していない。
たまに恨めしそうにこっちを見ている気がするけど、気にしない。
でも、ま、今度引っ張り出してあげようかな。
チャイムが鳴り、本日の授業が全て終了する。
ふー、勉強が楽しいとはいえ、座りっぱなしだと疲れるなぁ。
帰りの準備をしながらこのあとの予定を考える。
図書室寄るか、そのまま帰るか、うーん、どうしよ。
「リンちゃーん一緒に帰ろ〜」「えー、オレと一緒に帰ろうよ」「私だよ」
隣は相変わらず盛況のようで。
心の中で合掌しつつ、席を立とうとする。
「あ、ワ、ワタクシはコトミさんと約束があったのでしたっ」
「ふぇ?」
急に名前を呼ばれリンちゃんの方を向く。
「……私?」
「えぇ! えぇ! そうですよね!」
うーん? あったっけ、って何その『イエスって言え!!』って目は! 怖いよ!
周りの目が痛い……。でも仕方がないか。
「あ、そうだったね。みんなゴメンね。それじゃあリンちゃん行こうか」
「はい! それでは皆さんごきげんよう!!」
ってリンちゃん一人で逃げるように行っちゃったよ。
仕方がないな……。
小走りでリンちゃんの背中を追いかけるように教室を出る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日はどうしたの? 急に」
リンちゃんはキョロキョロと周りを見渡している。
「っはあああぁぁぁぁ〜〜〜〜っっっ」
そのまま、盛大なため息をついた。
「毎日毎日毎日毎日、愛嬌振りまきながら対応するのが疲れるのよ……」
「あはは……」
まぁ……こっちが素であれば、普段のアレはキャラを作っているんだろうから、疲れるだろう。
「もうキャラ作りはやめたら?」
「そうもいかないよ。外で品の無い行動しているのバレたら学校に行かせてもらえなくなるし」
えぇ……。なにそれ。初耳なんだけど。
「あ〜、まぁ。コトミだから言うけど、ワタシはちょっとしたところのお嬢さんで、社会勉強も兼ねて学校行っているの。それなのに勉強どころか問題を起こしたらすぐ引き戻されちゃう」
「なるほど。見た目はお嬢さんっぽいから、もしかしたらって思っていたけど、本当にお嬢さんだったんだ」
「見た目だけじゃなく、中身もお嬢さん、だ・よ!」
ビシッ、と指を差しながら熱く語られる。
そんなお嬢さんどこにいるのさ、っというツッコミは飲み込んで。
「私の前ではいいの?」
「いい。すでにいろいろと見られているし。それに――」
「それに?」
「コトミならなんとなく信用できる」
「会ってまだ何日も経っていないよ? いいの? そんなに簡単に信用して」
「勘だけどね。でも、私の勘って当たるんだよ〜」
たしかに、当たりそうだよね。
日は浅いけど既にその勘の良さは発揮されている。
それに、何かあったとしても私から裏切ることはないだろうし。
「悪いお兄さんたちに騙されないようにね〜」
「何よそれ」
二人して笑う。リンちゃんってこういう笑い方もするんだね。
「コトミってさ」
「ん?」
「笑うとき、口元笑っているのに、目笑わないのな。怖いよ」
うっさいわ!
あはは、と笑うリンちゃん。まったく、もう……。
「でも、コトミといるときは素の自分でいられるよ」
「……それはただ単純に、キャラ作りをやめているだけだからじゃないの?」
他の子たちの前でも素でいられるのであれば、また変わってくるだろう。
あんな堅苦しいのは私でも嫌だよ。
「んにゃ。コトミだからだよ」
「よく言い切れるね。私のどこがいいんだか」
私自身、正直人付き合いがいい方ではない。
自分からあまりグイグイ行くタイプでもないし、どちらかというと受け身が多い。
そういえば昔に仲が良かったあいつも、私に付きまとってきたな。
タイプとしてはリンちゃんと同じようにグイグイ来る感じだったか。
って、リンちゃんと比べたらリンちゃんに申し訳ないか。あいつは救いようのないポンコツだしな。
いまは亡き友人に想いを馳せる。
「でも、コトミの方が悪いお兄さんに騙されそうだよね。流されやすいし」
「そんなことは断じてない。自分の揺るがない意思をいつも持っている」
へー、そっかー。とか言いながらニマニマしている。
はぁ、まったく。みんなして私をからかうんだから。
そんなやりとりを心地よく感じながら二人、一緒に歩いて行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっと、ここでバイバイ、かな」
リンちゃんに言われ、前を見るといつもの分岐点に差し掛かっていた。
あれからいろいろと話しながら歩いていた。
普段は足早に通り過ぎる通学路も、今日はゆっくりと帰ってきた。
リンちゃんも私の心を知ってか、歩幅を合わせるようにしてくれた。
……別に、長くリンちゃんと一緒に居たかったわけじゃないけどね。
ただ、単に話の切れが悪かっただけなんだから。
誰に説明するわけでもなく、一人言い訳する。
「うん。また明日ね。ネコ被り大変だけどがんばってね」
「改めて言われるとあまりいい気がしないね……」
リンちゃんが伏し目がちにため息をつく。
だったら、やめればいいのに、とも思うけど、まぁ本人には本人なりの理由があるんだろうな。
大きく手を振りながら去って行くリンちゃんを見送る。
さて、私も帰りますか。




