136 魔眼で視えるもの
「そういえばカレンってどこに住んでいるんだっけ」
また変な質問をされても困るから、こっちから質問を投げかける。
「あ、それは……」
その後、カレンのことについていろいろと聞いた。
ほとんど浮浪者当然のような生活を送っていたから、私に付いてくること自体は問題ないらしい。
両親や親しい人もいないから、コトミ姉さんだけが唯一の肉親……って、勝手に家族にしないでよ。
心残りも何もないから一生付いて行くって……。うん、どこかでいい人見つけて腰を落ち着かせてあげよう。私の安泰のためにも。
「……姉さんって、分かりやすいとか、言われたことないですか?」
呆れ顔で私のことを見つめてくるカレン。
……くそ、こいつもか……。
なんで会う人会う人みんな同じことを言うかなぁ……。
なるべくポーカーフェイスを気取ろうとしているのに、ことごとく失敗してしまう。くそ。
「そういえば姉さんはどうしてこの国に? さっき隣国――ロフェメル国から来られたって言っていましたけど」
「あぁ、まぁ隠すようなことでも無いんだけど、最近この近くに飛行機が墜落したのって知ってる?」
車で一時間ぐらい離れているけどね。それを近くというかどうかは置いといて。
カレンにはその飛行機に両親が乗っていたこと。
遺留品の確認とか、手続きとか諸々のためにやってきたこと、などを伝えた。
「も、申し訳ありません……」
泣きそうな顔で謝罪をしてくるカレン。
「あぁ、いいんだよ。自分の中ではもう一区切りついていたし、カレンが気にすることじゃないよ」
連絡を受けたときは少しビックリしたけど、なんだかんだで普通に過ごしてしまった。
「それでも……」
「いいの、いいの。悲しくないって言ったらウソになるけど、もう過ぎたことだから」
私もやっぱり向こうの人間なんだなぁ、ってあらためて思う。
向こうじゃ、人がすぐ死ぬから、死生観が違うんだよね。
リンちゃんにも呆れられちゃったけど、両親が死ぬのも二回目だし……ね。
「……姉さんは強いんですね」
「そんなこと無いよ。もしかしたら隠れて泣いているかもよ?」
「くすっ。それでしたら、ワタシが胸を貸しましょうか」
「…………」
カレンの……その、胸を見る。
「…………?」
私の……。
「嫌味かっ!」
「ええっ!? そ、そんなつもりは……」
くっ……。
カレンの弁明も耳には届かず、ガックリとうな垂れる。
ショックでいじけそうになったけど、なんとか気を確かに持つ。
「でもまぁ、この街にこれて良かったと思うよ」
「え? そうなんですか?」
首をかしげ疑問に思う姿は年相応に可愛らしい。
あれ? そういえば年齢聞いていないな。ま、いっか。
「うん。カレンと出会うことができたしね」
「姉さん……。はいっ、ワタシも姉さんと会えて良かったです」
カレンとの出会いを考えたら、この遠出も無駄ではなかったかな。
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「気を取り直して、時間もまだあるし魔眼の使い方についても教えておこうか」
と、いっても、私も全部を知っているわけではない。
テスヴァリルで人に聞いた話や、残っていた文献なんかを読んで理解しただけだし。
まぁ、使っていくうちに慣れてくるか。
「それじゃ、魔眼を熾してくれる?」
「こう……ですか?」
カレンの眼が出会ったときのように紅く染まる。
「そうだね。もう魔力は感じられるかな? 魔力の継ぎ足しや減らすことは出来る?」
「ん……」
カレンの眼が深く濃く変わり、反対に翠眼へ近づくように薄く色が変わる。
「うん。いいね。最初はわかりやすくするため、多めに魔力を注ぎ込んでみようか」
カレンの眼が紅く、深くなったことを確認し、指先を上に向け魔力を流す。
「これ、視えるかな?」
「……?」
カレンが困惑気味に私を見る。
「さっきも言ったけど、魔眼という物は魔力を視ることができるの。カレンの眼でもこれは視えると思うよ」
じっ、と私の指先を凝視するカレン。
そのまま数秒経過し――。
「あ……丸、が視えました」
「うん、いいね。その感覚を掴んでいてね」
丸の形を保っていた指先の魔力を霧散させる。
続いて四角、三角、楕円、など、魔力で形取った図形を複数試していく。
「だいぶ慣れてきたかな。それじゃ、次はどう?」
指先の魔力を操作し、とある文字を浮かび上がらせる。
「ん……」
カレンが眼に力を入れ、なお一層瞳が妖艶に輝く。
「あ……ワタシ……?」
「そ。文字も読めるなら基本的な魔眼の使い方は大丈夫かな」
指先に魔力で描いたのは『カレン』という文字。
これなら魔眼の基本的な能力としては十分だね。
クルクルクルゥ〜。
……次の能力を試そうとしたら、変わった音が鳴った。
音の発生源は……カレン。あぁ、もうそんな時間か。
「おなか減ったね。そろそろご飯に行こうか」
「うっ……。す、すみません……」
恥ずかしそうにうつむきながら、そう答える。
「いや、いいんだよ。もういい時間だしね」
壁に掛けられている時計を見ると三時間ぐらい経過していた。ちょうどいい時間かな。
「カレンは何か食べたい物ある?」
「姉さんの食べたい物がいいです」
どういうことだよ……。
ま、あまり冒険する必要も無いから同じ店かな。
カレンと連れたって同じ店へと向かう。
今回は特に絡まれることなく、食事することができた。
まぁ、そんなしょっちゅう絡まれていたらお店も大変か。
カレンは相変わらず三人分食べていた。
恥ずかしそうにするんだけど結局食べるんだよね。
いや、いいんだけどね。嬉しそうに食べてくれるし。
それにしても食費が三倍、いや四倍か……。
まだ、この前の臨時収入分が残っているけど、そのうちなんとかしないとなぁ。
どこかにちょうどよく、お金を持っている悪党でもいないものかね。
……さすがにいないか。
ご飯を食べたあとはそのままホテルへと戻る。
「先にシャワー浴びていいよ」
「…………」
「……ん? どうしたの?」
シャワーを先に浴びてもらおうと声をかけたんだけど、なぜか黙ってモジモジとしている。
「……カレン?」
「あ、いえ、なんでもありません……」
そう言って浴室へと向かうカレン。
……? なんだろうね。
しばらくしたらカレンが出てきたので、入れ替わりで私もシャワーを浴びる。
昨日は先にカレンが寝ちゃっていたし、ささっとあがろう。
「ふー。……カレン、起きてる?」
扉を開けたところで椅子に座っているカレンと目が合う。
「……姉さん、いつも寝ているわけじゃないのですからね」
ため息をつき、そう言ったカレンが頬を膨らまして拗ねる。
まぁ、本気で怒っているわけじゃないんだろうけどね。
「ごめんごめん。一応心配しているんだからさ。昨日は疲れていたんだろうけど、今日はどう?」
「あ……。はいっ。お蔭様で、元気になりました。……でも、いいんですか? 服やご飯に寝床まで……」
「いいの。私と一緒に居たいと思うのなら、そういう遠慮は禁止だよ」
「姉さん……。はいっ。一生付いて行きます!」
いや……一生じゃなくていいからね……って、聞いていないや。
ま、慣れるまでしばらくは仕方がないか。
目を輝かせているカレンを横目に髪を乾かしていく。




