132 少女と買い物
「ただいまー」
「コトミ様っ!」
「おわっと、どうしたの? 大丈夫?」
ホテルへ戻り扉を開けると、椅子に腰かけていたカレンが立ち上がり駆け寄って来た。
「心配、しておりました……!」
正面に立ったカレンは今にも泣き出しそうな表情で見つめてくる。
眼は翠眼のままとなっている。
うん。なんとか制御できているね。
「あ、あぁ、ごめんね。なんか、問題あった?」
「いえ……ワタシの方は特に大丈夫でしたが……」
少し落ち着いたのか、強張った表情を緩め、そう答える。
「ごめんね、待たせちゃって。ご飯も大丈夫かな?」
「はい、おいしかったです。でも、良いのですか? ワタシのような浮浪者にそこまでしていただいて……」
「うん、それは大丈夫。私がそうしたいだけだし」
部屋の中へ入り、片付けられている食器が目に入る。
ちゃんと食べられたようだね。……って、三人分はあったはずなんだけどなぁ……よく食べるね。……ん?
「あれ? これ、チップ渡さなかったの?」
電話の横に置いたままのチップを手に取る。
「あ、えぇ……受け取りいただかなかったので、申し訳ありません」
シュンとしたように謝るカレン。
「カレンが謝る必要ないでしょ。それより、自分のものにしようと思わなかったの?」
「え……?」
目を文字通りぱちくりさせ――。
「うぅ……そこまで考えがおよばなくて、申し訳ありません」
「いやいやいや、ネコババする方が間違っているからね。騙したり、嘘つくぐらいなら正直に言ってくれた方がいいし、ホテルの人へも私からフォローできるし、カレンは間違っていないからね」
「あ、はい……」
さらに小さくなるカレン。
「あぁ、怒っているわけじゃないんだから縮こまらないで」
「……すみません」
さらに小さくなってしまったが仕方がない。
話を進めよう。
「ところでもうすぐお昼だけど、ご飯はどうする? 一緒に食べる?」
「……お金無いです」
「あぁ、いいの、私が誘っているんだから、お金は気にしないで」
「……はい」
この性格をなんとかしないと今後大変そうだ……。
まぁ、それはあと回しにするとして、まずはお昼ご飯か。
食べに行こうと思ったけど、カレンはまだ寝間着だ。
昨日の服もあるけど、ちょっと街中を歩くにはなぁ。
そうだ。
「カレン、ちょっとこっち来て」
「?」
言われるがまま付いてくるカレン。
部屋の片隅に置いてあるバッグから替えの服を取り出す。
「これ、着られるかな?」
「え……?」
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「うん、いいね。ちょっと裾の長さが足りないけど、意外とサイズが合うね。一部以外は……」
私の服を身にまとい、鏡の前に立つカレン。
少し不健康そうだけど、整った顔立ちは可愛く、私の服がよく似合っている。
一部……そう、胸の部分以外は……。くそっ。
「あの、なんか、ごめんなさい……」
謝らないでよ……。
心にダメージを受けた気分だけど、なんとか気を取り戻す。
「とりあえず、お腹減ったから行こうか」
「はい」
あ、靴が……。先に服屋へ寄るか。
少しの間だけ我慢してもらおう。とりあえずそのままカレンを引き連れ外へ出る。
「ん?」
フロントの前を通るときに深々と頭を下げてきた人がいた。
えーと、確か副支配人だったかな?
「あの方とお知り合いですか?」
「うーん、ちょっと話しただけだから知り合いってほどでもないけどね」
今朝、フロントへルームサービスをお願いする時に、わざわざバックヤードから出てきて対応してくれた人だ。
「あの方、お部屋に来てくれた方です」
へー。副支配人自ら対応してくれたんだ。
聞くとカレン相手でも普通のお客さんと同様の対応をしてくれたらしい。
昨日のカレンを見ているはずなのにね。
いいホテルだな。
「っと、カレン。ご飯前に寄りたいところあるんだけどいい?」
「もちろんです。コトミ様のお望みの間に」
「……ところでそのコトミ様ってなに?」
「コトミ様はコトミ様です。助けていただいたわけですから、様付けは当然です」
……はぁ。
「普通に名前で呼んで……。喋り方も普通でいいから」
「コトミ様。わかりました」
…………。
「? コトミ様?」
「そのコトミ様は禁止」
「え……」
なぜ、絶望の表情に染まるよ……。
なかなか折れなかったから結局妥協した。
せめて『様』付けはやめてほしいため、それ以外で呼ぶことを許可した。何気に頑固だよこの子。
はぁ、ため息をつきつつ、目的の場所に向かって歩き出す。
「姉さん、申し訳ありません……」
「いいよ、私としては友達感覚でいて欲しいんだけど」
「善処します……」
まぁ、長い目で見よう。
ちなみに、『姉さん』に落ち着いたのは、名前を『さん』づけで呼べないからだそうな。ほんまかいな……。
そんなことを考えながら歩いていると目的の場所に到着した。
「姉さん。ここは?」
首を傾け、疑問の声を上げるカレン。
「服屋。さ、入るよ」
「あ、ちょ、待ってください」
カレンを引き連れ入った店は世界中に店舗のあるカジュアルファッションショップ。
現地の服屋とかわかんないし。
お値段も手頃だし、何より当たり外れが少ない。
さすが世界展開。
見馴れた店内を見渡し、女性用の服が売っているエリアに足を運ぶ。
「服のサイズとかわかる?」
静かに首を振るカレン。さすがにわからないか。
「あの……」
「ん?」
「服をいただくのはさすがに申し訳ないです」
遠慮がちにそう言うカレン。
「いいの。私がやりたいだけなんだから、黙って付いてくる」
「はい……」
渋々といった様子で服選びに付き合ってもらう。
長い銀髪に、翠眼。現地では少し珍しい透き通るように白い肌。
身長は私よりちょっと上か。胸は……くそ。比較するまでもないのか! サイズは店員に任せるわ!
白のブラウスにカーディガン羽織らせよう。胸元が緩い服は着させない。絶対に。むしろ締まっている服にする。
「好きな色とかはある?」
「……赤色以外であれば」
半ば諦めたのか、素直に希望を伝えてくる。
あ~、まぁ、わからんでもないか。
スカートや靴下、下着類も用意する。靴も新調しよう。その辺の女性店員を捕まえてコーディネートをお願いする。
フィッティングルームで色々試着させ、色とかサイズを決定。
店員さんが最後、「子供なのに、子供なのに、あのサイズ……」ってダメージを受けていた。
うん、チップ弾んでおこう。
この犠牲は必要な犠牲だったんだ。きっと。
「あの……」
フィッティングルームから、カレンが出てくる。
うん、可愛い。元の素材がいいからか、可愛さが前面的に出てくる。
身長はあまり大きくないけど、そこさえ除けば女性としての魅力が満載に詰まっている。
これは……。男にひっかけられるな。間違いなく。
「えと……。変、じゃないですか」
「ううん。予想以上に可愛すぎて、間違いなく、男に声をかけられるレベルになった」
「えぇー……」
微妙な顔をするカレン。
まぁ、私もそんなのは嫌だけどねー。
結局は白のブラウスにダークブラウンのカーディガン、スカートはオフホワイトのロング。
全体的に白いけど、肌が白い分明るい色のコーディネートで際立てたそうだ。
可愛さにインパクトつけてどうするんだ、と。
しかも、胸元締まっている服着せたら余計に胸が強調したぞ。なんだ、ケンカ売ってんのか。くそ。
スカートなのは私の趣味だ。異論は認めない。
ロングスカートにしたのはちゃんと理由があるけどね。
手ぶらというのも困るだろうから、肩掛け出来るハンドバッグを購入。
安物でごめんね。また、いつかちゃんとした物買ってあげるから。




