125 到着した街を堪能
目的地までの飛行機は直通便がないため、いくつか乗り継ぐ必要がある。
調べたところによると、飛行機二便、鉄道一本、その後は車で一時間ほど走ったところが目的地になる。
……距離もさながら、場所が不便すぎるだろう。
嘆いても仕方がないから、予約したチケットを取りに受け付けカウンターへと並ぶ。
子供だけで乗れるか心配していたけど、特に咎められることなく、出国手続きも無事に終わった。
そのまま手荷物検査も特に問題なく終えられた。
収納に入っているものはそのままで……って、これなら違法な物でも持ち込めるな。いや、やらないけど。
あ、刃物類がそのまま……まぁ、いいか。
さて、フライトまで一時間はあるから、スマホでも見て少しゆっくりしていよう。
とりあえずグループチャットに、到着した連絡だけ入れておく。
アウルとルチアちゃんがスマホを手に入れたタイミングで作ったグループチャット。
リンちゃん合わせて四人だけのチャットルームとなる。
すぐ反応したリンちゃんがアイコンで「了解!」とだけ伝えてくる。
間髪入れずルチアちゃんとアウルの二人からも同じように反応があった。
「ふふ」
こんな時でさえ自然と笑みが零れる。
少し不安だったけど、そうだね。
私は一人ぼっちじゃない。大切な友人たちがいる。
その後もフライトの時間までチャットで楽しく会話する。
時間が来てからは搭乗しつつ、離陸までしばし待つ。
フライト時間は一時間程度と距離はさほど離れてはいない。
ただ、乗り継ぎがあるため、移動時間はそれなりにかかりそう。
機内アナウンスを聞き流しながら窓の外へと視線を移す。
魔力があれば長距離の転移や空を飛ぶことができるのに。
まったく、魔力の少ないこの身体が恨めしい。
でもまぁ、その分すぐ回復するから、魔力消費の少ない魔法は使い放題なんだけど。
そんなことを思いながら最初の空の旅は無事に終わった。乗り継ぎも特に滞りなし。
その後の飛行機も無事にヘルトレダ国へ到着し、入国審査を受ける。
出国時と同じで問題ないと思っていたんだけど、やけに時間がかかった。
他の乗客たちも時間がかかっていたため、私だけではなく審査自体が厳しかったらしい。
理由はわからないけど、職員たちも落ち着きがなく、嫌な雰囲気だった。
このあとは鉄道で移動し、終着点の街――ヘバルゴから車で一時間の所が目的のソムヌイという名の街である。……遠い。
飛行機が墜落したのはその街のすぐ近くだそうだ。
ちなみに、聞いた話によると、その街は観光地などでもなんでもないただの街である。
突き当たりの街でもあるため、通過する人たちもいない。
何が言いたいかというと、ホテルや宿が街に無いらしく、鉄道で到着したヘバルゴという街に宿泊する必要があるとのこと。
……不便すぎるだろう。もう、街と呼ばずに村でいいよね。ソムヌイという名の村だ。
事前に調べた情報では、村の人口は千人程度。
電気はなんとか通っているらしいけど、水は井戸水、ガスは一部のみプロパンガスがある程度。
病院も治療のためというより、初期診断だけして、あとは都市部の病院へと転送するだけの病院……というより診療所か。
鉄道に揺られながら最新の情報をスマホで調べる。
インターネットの情報によると、救助隊が墜落現場に着くまでに時間を要していたため、生存者は皆無だったらしい。
はぁ、仕方がない。一縷の望みへかけていたけど絶望的だね。
それ以外の新たな情報は特になく、死者数が増えていっているだけであった。
スマホを仕舞い、鉄道の窓から外を見る。
常夜に染まった一面の畑が視界を流れるだけで、特段めぼしい物もない。
あまり、リンちゃんたちの邪魔をしては悪いから、グループチャットは自粛中。
既に日が沈んでしまっているし。
本人たちはそう思わなくても、向こうには向こうの事情があるだろうしね。
もうすぐ終着点の街に到着する。
時間が時間なため、両親の確認は明日行おう。
急いで駆けつけたとしても、状況的に生存の可能性はない。
あとは、身元の確認と遺体を引き上げるかどうかだ。
航空会社に責があれば旅費や引き上げ費用諸々は航空会社負担であるが、今回は航空会社も被害者らしい。
まぁ、お金のことは気にしなくていいだろう。
最近大きなお金が舞い込んできたし。
『まもなく終点、ヘバルゴ〜ヘバルゴ〜』
機内アナウンスが流れ、考え事をしていた頭を切り替える。
降りた駅はまぁまぁ大きく、ホテルや飲食店などが複数あり、滞在するには不自由しなさそうなのが幸いだった。
とりあえず航空会社の人に予約してもらったホテルへと向かう。
ホテルと言っても三階建ての建物であまり高級とは言えないが信頼はお墨付き。
目立たないホテルな分、安全だということ。
高級だから安全な宿ってわけでもないしね。
あまり、観光する気分ではないから夜ご飯は近場で済まそう。
そのままホテルへとチェックイン。
ホテルの人においしくて子供一人でも安全に入れるお店は無いか聞いたところ、そもそも子供一人で出歩くことが無いから、味ぐらいしか保証できないって言われた。
まぁ、そりゃそうか。
それでも、数店教えてもらったから、その店を巡る。
うーん、なんの店かわからない……。
三店舗ほど回ったところで、ほとんどの店が外観だけでは何の店かわからないことに気がつく。
さすがに、観光名所とかでも無いから常連さんばかりなんだろうね。
物色するのは諦め、適当なお店に入る。
「いらっしゃ――」
店員さんが私の姿を見て、言葉を詰まらす。
うん、わかっていた。
「えぇと、お食事でしょうか」
「えぇ、お願いします」
まぁ、もう慣れた。
そのまま店員さんについて行き、少し奥まった席に案内される。
「オススメをお願いします。子供の食べられるもので」
「はい、かしこまりました」
あまり好き嫌いはないけど、一応子供らしく振る舞っておく。意味は無いだろうけど。
店内を見渡すとお客さんはまばらにいる。
普通に食事をする人もいれば、お酒をたしなむ人もいた。
私が店に入ったときは、店員さんと同じく視線が集中していたけど、今はもうあまり気にしていないようだった。
騒がしすぎることもなく、雰囲気のいいお店で、食欲をそそる匂いが漂っている。
……うん、お腹が減ってきたな。
さて、どんな料理が出てくるのやら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おぉ、これはなかなか」
出された料理を端から手をつけていく。
見たことのない野菜と一緒に炒めた貝とエビの炒め物、魚のオイル漬け、穀物とチーズを混ぜて香ばしく焼いた料理、などなど。
一品あたりの量が少ないのは子供だからかな。
味に関しては大当たり。
国が違うからか、食べたことの無い香辛料がふんだんに使われている。
メニュー表の値段もさほど高くないところを見ると、かなり良心的な店なんだろう。
そんなことを考えながら次の料理へと手をつけていく。
「ふぅー……」
ついつい食後の紅茶までいただいてしまった。
満足した私は支払いを済ますと店の外に出る。
思わぬところでいい店に出会ってしまったな。
食事を終えホテルへと向かう帰り道、ちょとした公園の横を通ろうとしたところ声が聞こえた。
遠目に見ると何やら一人の女の子を二人の男が取り囲んでいるようだった。
「おい、浮浪者のくせしてなに表を歩いてんだよ」
「きたねーやつだな。……でも、待てよ。こいつ、意外といい身体してねぇか?」
「んん? ……まぁ、キレイにすれば、いいかもな。どれ、ちょっと顔を見せてみな」
……胸クソ悪い。
おいしいご飯を食べて、気分は上々だったのにね。
私には関係の無いことだけど、さすがに目の前で少女を見捨てたら目覚めが悪い。
「水球」
「うわぁっ!」
「なんだ! 水!? 雨か!」
慌てふためく男たちはびしょ濡れになりながら、その場を離れる。
おぉー……逃げ足早いな。もういなくなっちゃった。