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105 〔姉と妹〕

「もう……お姉ちゃんったら、いつまでそこにうずくまっているの?」


 コトミたちがルチアからの逃亡をはかり、二人だけとなった廃墟の一角。

 うずくまるアウルにルチアが声をかけた。


「……バカって言った」


 崩れるようにうずくまったアウルは、地面に文字を書きながらいじけている。

 怒られたことに、少なからずともショックであったが、それ以上に元気なルチアを見られたことが嬉しく思う。

 大人しく見えるルチアだが、心を許した相手にはさっきみたいに元気な姿を見せる。

 体調を崩してからは塞ぎがちなルチアが、昔のように、アウルに対してはもちろんのこと、コトミに対しても同じ態度だったことに、アウルは嬉しくなった。


「はぁ、あんなのただの方便(ほうべん)でしょ。お姉ちゃんはほっといたら自分で全てを背負い込むんだから。それに、本当は一緒に行きたいんでしょ?」

「……うん」


 アウルは地面に視線を落としながらうなずく。


「なら、遠慮しないでよ」

「でも……ルチアもいるし」

「はぁ、お姉ちゃんはホントにバカなの?」

「うっ……」


 また、怒られてへこむアウル。これ以上怒られたら地面に額が付きそうではある。


「どう考えてもあっちの方がいい生活出来るし、魔法も教えてくれるし、天秤にかけるまでもなくメリットしかないでしょ」

「……ルチア?」

「お姉ちゃんが頑張ってるのを知っていたからワガママ言わなかったけど、せっかく(やしな)ってくれるって言うなら断らないでよ」

「あの……コトミもそこまでは言っていないと思うんだけど……」


 ルチアの暴走は止まらない。


「これで暖かい寝床、食事をゲット! 魔法も教えてくれるなら一石二鳥どころか三鳥も取れるよね。くふふ、さすがお姉ちゃん。いいお友達を持ってるね」

「あ、うん。ありがとう?」

「体調も良くなったし、これから楽しくなってくるね!」

「えと……うん。ルチア?」


 今までに無いテンションの高さに、若干引き気味のアウル。


「ほら、いつまで、そんなところにうずくまってるの。数日って言っていたけど、すぐ用意するよ。荷物なんてそんなに無いんだし、早くここの生活から抜け出すよ」

「…………」


 アウルは言葉も発せず、その場から動けずにいる。


「なんで、白目向いているのよ。ほら、早く、お姉ちゃんなんでしょ。しっかりしてよ」

「お姉ちゃん、いろんな事が起きすぎていて、頭がこんがらがっちゃう」

「あ~、バ……単細……素直だからね。仕方ないよ」

「ルチア!? いくら私がバカでも単細胞でも、いま言おうとしたことはわかったよ!?」

「あはは~」

「笑ってごまかさないでよ~っ!!」


 このやりとりも懐かしい。アウルはそう思っていた。

 ルチアが寝込んでいた数年間、毎日が辛かった。

 起きたときに体調が良くなっていれば、そういう希望を持っていた時もある。

 いつまでも良くならない体調に絶望したこともあった。

 でも、いまは……。

 薄暗い雰囲気の廃墟とは裏腹に、明るい笑い声がそこには響き渡っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつまでも外でうじうじしているわけにもいかず、とりあえず家の中へと二人は戻る。


「うぅ……ルチアが立派になって、お姉ちゃん辛い」

「なんでよ」


 ルチアがあからさまなため息をつきながら答える。


「もう、お姉ちゃんなんて、いらないんだ」

「はぁ?」


 部屋の中を片付けだしたルチアは作業の手を止めてアウルへと向き直る。


「もう、ルチアはお姉ちゃんなんかいなくても、一人で立派にやっていけるよ……」

「はぁ、やっぱりバカだよね」

「うぅ……」


 ルチアはアウルの後ろに回り、包み込むように抱き抱きしめる。


「誰もお姉ちゃんが必要無いなんて言ってないでしょ? わたしにはお姉ちゃんが唯一の肉親だし、今まで優しくしてくれたことも知ってる。わたしのために頑張ってくれたことも、苦労したことも。そのお陰でわたしは今まで生きてこられたし、元気にもなれた」


 抱きしめる手に一層力を入れる。


「だからね――」


 アウルの顔を覗き込みながらルチアは言葉を続ける。


「元気になれた今だからこそ、お姉ちゃんに恩返ししたい。お姉ちゃんには幸せになってもらいたい。今度は、わたしがお姉ちゃんを助ける番。素直で不器用で、空回りばかりするお姉ちゃんだからこそ、わたしが支えてあげたいの」


 潤んでいたアウルの瞳から涙が溢れる。


「今までありがとう。そして――これからも、あらためてよろしく、ね」

「うん……うん……」

「あー、もう、泣かないの。これじゃどっちがお姉ちゃんかわからないじゃん」

「ごめんね……」

「謝らないでよ。わたしが今まで感謝してきたことを恩返しするの」

「うん、ありがとう」


 アウルは服の袖で涙を拭き取り、ルチアに視線を合わせる。


「だから、わたしはお姉ちゃんのためならなんでもするし、図々しくもなるよ」


 長い呪縛から解き放たれたルチアの笑顔は眩しい。

 立ち直りが早すぎると思うが、ルチアの言うとおり、姉であるアウルが落ち込んでいては何も始まらない。

 アウル自身もそのことについては理解しており、少し無理矢理ではあるが元気に装う。


「これからもよろしくね!」

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