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10 <魔力至上主義の村>

「シャロット君、もう諦めたまえ」


 毎月恒例の魔力測定直後、急に呼び出されてそんなことを言われた。


「君に魔法の才能は無い。魔力が増えない以上、これ以上やるのは時間の無駄だ」


 テスヴァリルのとある村の中での出来事であった。


 私の生まれた村では魔力持ちが多く生まれ、魔法使いとなることが一般的であった。

 もちろん、魔力の無い子供が生まれることもあったが、魔法使いになれない者への扱いはひどかった。

 ほとんどが奴隷当然に扱われ、人権なんてものは無い。

 運が良ければ村の外に出て生き延びることが出来るが、大部分の人間はこの村でゴミくず同然に使い潰されていく。

 幸いにも私は魔力を持っていたため、他の子供たちと同様、魔法使いとしての訓練を受けることになった。

 三歳のころから魔法の練習を行い、魔力量、放出力、制御力を上昇させる訓練を課せられる。

 毎月魔力量などの測定が行われ、その伸び幅などでそれぞれ評価されていた。

 私も幼いころから魔法の練習を行っていたが、ここ最近はまったく魔力量が増えなかった。


「魔法使いになれない以上、この村で君の価値は無い」


 淡々と言葉が続けられる。

 少ない魔力でできることは限られる。

 いくら火を(おこ)せようが、水を出せようが、魔力量が少ないとそれだけで終わってしまう。

 魔力量の少ない私でも火を(おこ)すことも、水を出すこともできるが、一定量の魔力を消費すると気絶してしまう。

 本来は繰り返し魔法を行使することで魔力量などが上昇するはずであるが、私の場合は全く伸びなかった。


「明日からはここに来なくていい。代わりに魔力無し(マギレス)としてこの村に尽くせ」


 教官はそれだけ言うとその場を去っていった。

 私は返す言葉もなく立ち尽くす。

 今までの生活が足元から崩れ去っていく感覚が私を襲う。

 マギレスとなったことを両親がどう思うか。

 恐らく、あの家にはもう居られないだろう。と、いっても六歳の自分が一人で生きていくことなんてできない。


 どうしたらいいのかわからないまま、家に向かって歩き出す。

 このまま奴隷のように過ごすか、それとも一か八か村を出るか。

 不幸中の幸いなのが、生まれてすぐに魔力無し認定された子供たちと違い、私は六歳になっている。

 村を出ることも、出来る。

 生き延びることは難しいかもしれないけど、それでも可能性があるのであれば……。


「ねぇ、聞いた? あの子の話」

「うん、また魔力量が上がっていなかったんでしょ?」

「いくら魔力を持っていても少なすぎるんじゃねぇ、なんの意味もないよね」

「そうそう、さっさとマギレス落ちすればいいのにね」


「…………」


 遠くから少女たちの声が聞こえる。

 私だって努力をした。

 今までなんとか魔力量を伸ばそうと日々の鍛錬を行なった。

 でも、結局は、無駄だった。

 五歳になった途端、魔力量が増えなくなった。

 この一年間、必死に魔力量を上げるために頑張ったけど、何も変わらなかった。

 もう、ここに私の居場所は無い。

 そう結論づけるのにさほど時間は要しなかった。


 色々なことを考え歩いていたら、いつの間にか家に着いていた。

 いずれわかることではあるのに、マギレス落ちとなったことを両親に打ち明けることができないでいた。

 食事中も上の空で会話が入ってこない。

 残酷な現実を受け入れられることが出来ず、部屋に戻りそのまま眠りにつく。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ん……」


 夜中にふと目が覚めた。

 いつもは静かな夜であるが、今夜だけは違った。


「外で、人の声?」


 隣で寝ている両親を起こさないように、そっと立ち上がる。

 遠くで聞こえていた()()は、徐々に、少しずつ近づいてきているように感じた。

 寝ぼけ眼になりながら家の扉をそっと開く。


「…………え?」


 そこにあったのは、夜の闇ではなく、焼き尽くすような赤色の炎だった。

 村が……燃えている。

 聞こえてきた声は村人のもので、逃げ惑う人々に向かって触手のようなものが伸びていく。

 一人、また一人と触手に捕まり、引きずられていく。


「た、助けてくれぇぇぇぇっっ!!」

「い、嫌だぁぁぁぁ!!」


 どこに連れていかれているのか、ここからでは確認ができないが、この場に居ては危険だと本能が告げる。

 両親を起こすため、(きびす)を返し家の中へ足を踏み出そうとしたところ、例の触手に足元を取られる。


「や、やだ……か、かまかぜ」


 魔力を最小限に絞り、風の刃で触手を切り払う。

 感覚的に魔法が使えるのは残り一回か二回が限度。

 魔力の少ないこの身体が恨めしい。

 そんなことを考えている場合でないことに気づき、立ち上がる。

 先ほどの寝室の扉を勢いよく開ける。

 そこに両親の姿が……ない!?

 ふと、横を見ると大人一人が通れるほどの穴が壁に開いており、触手が……。


「なんで……」


 ふと、振り返ると背後にも触手が迫ってきている。

 逃げ道が断たれた私は少しでも触手から遠ざかろうと部屋の奥へと距離を取る。


「ひっ……」


 触手は私に向かって一直線へと迫っている。

 目がないのに、場所がわかるのか。


「逃げなきゃ……ふうづち」


 残りの魔力の半分を使い、木張りの壁を壊し外へと飛び出す。

 周囲は炎で包まれており、立っているだけでも火傷しそうな熱さとなっている。

 村の外へ駆け出そうとしたところ、足元に触手がまた絡みついてきた。


「しまっ……」


 引きずられるようにして連れていかれる。

 この先どうなるかわからないが、このまま連れ去られるのは勘弁してほしい。


「離してっ!」


 残りの魔力全部を注ぎ込み鎌風(かまかぜ)を唱える。

 足元の触手が飛散すると同時に私の意識が反転する。


「誰か……」


 闇に落とされたかのように意識を手放す。

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