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悪役令嬢って何のことでしょうか?

悪役令嬢は幸せをかみしめる

作者: 栗栖 龍

婚約破棄騒動が起きてから3年、私は来月学院を卒業するセオドア様との結婚式と新生活の準備のため、すでにサディアス侯爵家に住まわせていただいている。

当たり前だけど今は客人として客間に滞在しているし、同じ家にいてもセオドア様に会うためには手紙でお約束も取り付けるし、侍女たちもそばにいるので二人きりになることはありません。

それは貴族としての常識なので、私はそれを守っております。

トーマス様はこういう杓子定規な部分もお嫌いだったのだろうなと今更思うことがありますわ。

そんな私すら淑女らしいと称えてくださるセオドア様とお茶をする時間はどれほど幸せなことか。

トーマス様との婚約が続いていたら、こうは思えていなかったでしょう。


「兄の処遇に関して、本当にありがとうございました」


あらあら、セオドア様もトーマス様のことを考えていらしたのね。

こんな些細な同期すら、心をほんのりと温かくしてくれますわ。


「お気になさらず。セオドア様もサディアス侯爵ご夫妻もお心を痛めていたことでしょうから」

「兄もさすがに反省したのか、別邸でおとなしくしているようです」

「それはよろしゅうございました」


トーマス様とシャーロット様の下町生活は長くは続きませんでした。

1年くらいは持つかと思われたけれど、半年もたたないうちにシャーロット様は出ていかれたそうで。

残されたトーマス様は傷心と拒食による衰弱のためお倒れになって、半年前まで入院されていて、退院された今は南の辺境近くにある公爵家の別邸で過ごされているそうです。

本来、元婚約者であのような喜劇に引きずり込まれた私の立場を思えば、トーマス様を再放逐することが適切だと言われております。

けれど侯爵夫妻にとってはそれでもかわいい息子さんですし、私からすれば今となってはどうでもいいお方のことなので、処遇は侯爵家に一任いたしました。

わたくしのことはお気になさらず、侯爵様方のお心のままにと。


「しかし……まさかシャーロット嬢が、ローズクオーク商会の会長夫人の後釜に納まるとは思いもよりませんでしたね」


シャーロット様は市井に落ちても婚姻届けを出すことはなく、トーマス様にも結婚は市井の生活に慣れてからにしましょうと説得していたそうです。

それなのに厚かましくもトーマス様のために用意された家に住み、仕事を見つけ、その合間に妻を亡くしたばかりで傷心の商会長と出会い、彼を慰めることで心と妻の地位を手に入れたそうです。

まあ、トーマス様は働きもせず嘆いているばかりだったということなので、ある意味仕方がないと言えますけど……。


「ローズクオート商会の会長と言えば、ノーマン子爵の三男坊様でしたわよね」

「ええ。きっと今、会長の姉君と一緒に楽しく過ごされていることでしょう」

「そうですわね」


ノーマン子爵家の三男坊様は貴族の間ではとても有名です。

商才があり、家に頼らず一人で生きていけるお方だと。その一方で、彼を生んですぐお亡くなりになった母親の代わりに彼を育てた姉がいないと生きていけないほどの姉弟愛の強いお方だと。

その姉上様の性癖の生贄に妻を差し出しているというのは、貴族のほとんどが口には出さないものの知っている事実です。


――女王様の間と呼ばれるところから妻は出てこられなくなると。


だから自分の娘に被害が及ばぬようにと、貴族の親御さん方は彼や他の「近寄ってはならない男性」を娘たちに伝えるのが一般的ですが、マーシャル男爵家では教えなかったのか、シャーロット様が聞いていなかったのか……。

強かそうな方ですもの、聞いていなかったということはないと思われますので、男爵様が伝え忘れたか知らなかったということでしょうね。


「会長の姉上様はお気に入りの子には何でも贈ると漏れ聞きますわ。綺麗なドレスも美しい宝石も。シャーロット様はトーマス様では得られなかった幸せを享受できることでしょうね」

「そうですね。それに我々には関係のない話ですし」

「そうですわね」


ふふふと笑いあうと、そこからは式に関する話し合いを始めました。

私はこれからもこうして彼と話し合い、彼とお茶を楽しみ、手を取って二人で一緒にダンスを踊るのでしょう。

教えられる侯爵夫人としての仕事は煩雑で多様だけれど、それくらいなんてことはないと思えるほどの幸せを私は感じています。

そうですね、意味は分からないけど私は悪役令嬢でよかったと、心の底から思っておりますわ。


本当にありがとうございます、シャーロット(ヒロイン)様。

短いですが、「悪役令嬢って何のことでしょうか」の私的ヒロインの末路を書いてみました。

意味が分からなかった方は「女王様とは」で検索して、ピクシブ百科事典を開いて、3つ目の意味から察してください。

ラストのヒロインというルビは、シャーロットが散々「私がヒロインなのに」と叫んでいた旨の報告を受けているので、意味は分からないけど使っているだけと思ってください。


ついでに短編4作をシリーズでまとめてみたいと思います。

使える機能は使ってみたいので。

これが本当の終わりです。お付き合いありがとうございました。

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