★1 モブオはフラれた!
よろしくお願いします。
1学期の終業式が終わったあと、幼なじみで隣のクラスの筒井桃子から呼び出された。
告白スポットとして有名らしい校舎裏に、だ。
桃子は、少し勝ち気で、長い黒髪が美しく、長身のキレイな女の子だ。
思春期になっても気の置けない関係が続いている。
家は3件隣で、互いに訪問してマンガの貸借りなんかもしているから、
わざわざ学校で呼び出される意味が分からない。
「宇佐、訊きたいことがあるの・・・樋口健太郎くんって男子から見て、どんなカンジなの?」
「・・・樋口がどうしたの?」
「好きだって言われて・・・」
こ、これは、「別の男に告白されたけど、アンタ、早く私に告白しなさいよ!好きなんでしょ!」
っていうイベントか!桃子は俺のことを好きだったのか!
「樋口は、春に他の学校の女の子に告白してフラれたって言ってたな。
それからも他の学校の子とも手広く遊んでるって言ってた。でも、悪い奴じゃないよ。」
事実だけを並べて、最後にお約束のセリフを付け加えた。
「ふーん、ありがとう。」
桃子は気のない返事をして、立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待って!あの、お、お、俺も桃子のことが好きなんだ!」
初めての告白は、どもって、アガッって、挙動不審になってしまった。
桃子のつまらなさそうな表情は全く変わらなかった。えっ、どういうこと・・・
「・・・ゴメン。」
「えっと、ダメなんだ。」
燃え上がっていた体が急速に冷えていった。
この前も馬鹿話で盛り上がっていたのにな・・・
「・・・宇佐は気の合う友達だけどさ、なんか頑張ってる?
勉強でも、スポーツでも、遊びでも、何でもいいけど。」
「・・・えっと。」
「別にトップじゃないとダメって言ってるんじゃないよ。
例えばね、この学校のクラブはどれも大したことないけどさ、
やっぱり頑張っている人は輝いているんだよ。
だけどさ、アンタは輝いてなくて、くすんでいるよ。
付き合う人は、何かに頑張っている人じゃないとイヤだから。じゃあ。」
桃子は淡々と言って、普段と全く変わらない足取りで去って行った。
「うぇーい!田中クン、モブオなのに頑張ったね、無駄だったけど!
お前なんかに筒井はもったいないよ!もっと自分をちゃんと見ろよ!
お前はただのいい人なんだよ。どうでもいい人!モブオだってさっさと気付よ!」
同じクラスの武知海斗がニヤニヤしながら現れた。なんで?
海斗はひととおり俺をからかって、小突いてから立ち去っていった。
しばらく呆然としてから、トボトボと教室へ帰るともう誰もいなかった。
家の近くの公園が見えた。昔、桃子と遊んだ公園だ。
小さな子どもがお母さんたちと遊んでいた。
子どもたちから少し離れたベンチに座った。
桃子の言葉がよみがえってきた。
「アンタはくすんでいるよ。」
そう、俺はなんにも頑張っていない。
面倒だし、多分、頑張っても大したことないから。
姿形も平凡なのに、幼なじみだからというだけで桃子の特別だって思い込んでしまった。
海斗の言葉がよみがえってきた。モブオ・・・どうでもいい人・・・
俺はどうすればいいんだろう。
頭を抱えると涙がこぼれてきた。
足に何か当たった。ボールだ。
一瞬だけ悩んでから拾い上げると、小さな女の子が側にいて、目が会うと怯えた顔になった。
愛想笑いをしてボールを差し出すと、腕だけ伸ばしてひったくってお母さんの元へ
走って行ってしまった。
ボールなんか拾わなきゃ良かった。
告白なんかしなきゃ良かった。
また沈んで下を向いてしまっていたら気配を感じて顔を上げるとさっきの女の子がいた。
「はいっ。」飴ちゃんが差し出された!
驚いたけどお礼を言って受け取ったら、
女の子は大きく笑ってお母さんの元へ帰っていった。
胸が温かくなって、また涙がこぼれた。
俺は、変わってみせる!なんか燃えてきたよ!
結果なんかどうでもいい!まずはやってやるよ!
恋?そんなの関係ねえ~
その夜、同じクラスの友達、鵜野康成から電話があった。
クラスのSNSで桃子にフラれたことが話題になっているって。
もう一切見ずにアカウントを削除した。
読んでくれてありがとうございます。
10話で完結予定です。
明後日、月曜に更新します。