⑨
今回は短めです…(^^;)
今日で3日目の朝、
まだ動きはない。
商店街で“ふたり”を見掛けたという事は、籠城する腹積もりで食材等を買い整えたのだろう。
だとしたら…
「これは長期戦になるなぁ~」とあくびをかみ殺したら後ろから声を掛けられた。
「ご苦労さん」
タニさんだ!
「寝ずの番で…すまんな」
オレは髪をワサワサ搔きながら言葉を返す。
「全然大丈夫っす! 若いし…しょせん独り身ですから。それよりタニさんの方が…家、いいんですか?」
タニさんはそれには答えずオレの肩をポン!と叩いた。
「朝飯行ってくれ! 商店街の中の喫茶店。チョーさんとムリさんも居る」
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頭をあちこちぶつけないよう注意しながら喫茶店に入ると向こうの方でムリさんが手を振った。
「ひょろ長い人陰ですぐに分かったよ」
「なんすか、独活の大木ですか?」
「はは、そうむくれるな。下着の替え、買ってきてやったぞ!でかいサイズのを。あと石鹸とかも入れて置いた」
と、タバコのセブンスター柄のフィルム貼り紙袋を渡された。中を覗くと『いかにも』と言った風のラインナップで…心の中で“本来の”私はつぶやいてしまう
『男に下着を買われるなんて…このまま永遠にランジェリーとは無縁の身になってしまうのかなあ』
しかし表向きはにこやかにお礼を言う。
「ありがとうございます。これでバッチリ銭湯行けます」
ムリさんは満足そうに頷き、言葉を継ぐ。
「そう、『せんとう』と言えばな、例の龍神会と十川組…“本店”の連中がかなりしょっ引いたよ」
「うん…龍神会が7、十川組が3の割合かな」とチョーさん。
「十川組の方が少ないですね。」
「そいつには事情があるんだ。十川組は実は跡目争いがあってな、武闘派の串田グループと経済ヤクザの菅井グループ 今回、派手に動いて潰されたのが串田派って事だ。」
「じゃあ、菅井は…」
「龍神会と串田派の二つが潰し合って、漁夫の利を得たという事になる。それになチノパン、これはさっきタニさんにも言ったんだが…例の“矢島”の実家は経営不振の町工場で、借金で首が回らず土地建物にはいくつも抵当が入っていた…それらをひとまとめにしたのが興和実業と言う菅井の会社だ。ところがその抵当権が一昨日付けですべて抹消されているんだ」
「それって…」
「矢島と菅井の間でなんらかの取引があった…」とムリさん。
「いいか! チノパン! もし矢島がケイコに知られずに菅井と何らかの連絡を取ろうとするならば…」
「単独で外出した時ですね」
「そうだ! 矢島がケイコに隠れて事を運ぼうとするなら必ず動くはずだ。なぜならその対価は既に支払われているからな。チノパン! お前『ケイコもこの事件の被害者』と思っているんじゃないか?」
「『そういう可能性はある』と思っています」
「なら、矢島から絶対、目を離すな!」
「はい!」
オレの心の中に…何か希望のような物が浮かび上がった。
正直なところ…桂さんが二人を毒殺した犯人ではと思う気持ちはある。
しかしどうしても…彼女がそのような罪を犯す人間とは思えないという感情があるのも事実だ!
彼女を守り、必ず真実を突き止めてみせる!!
意気込んでいるオレの前にモーニングが運ばれて来た。
「まずは、朝飯くえ!」とムリさん。
「お前、それじゃ全然足りんだろう! オレのトーストとゆで卵やるから」とチョーさん。
「ありがとうございます」といいながらも図々しくトーストを頬張る私…だいぶ“チノパン”が板に付いてきたようだ。
柄の入った長方形のフィルム貼り紙袋…無くなってはいないのでしょうけど最近はあまり見かけませんよね。
“昭和の物入れ”って感じで調べていたら結構見かけましたので採用いたしました(^^;)
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