エピローグ
いつの間にか木の葉が色づく季節になっていた。
白のジーンズの上下に黒Tシャツのこの恰好も…墓参には少し肌寒く、懐の中の銃身の温かさを感じてしまう。
「悪いな、桂さん…撃ってたら急に会いたくなって来ちまった…あれからオレは射撃練習の鬼だぜ! この間なんか『お前は署の弾をすべて撃ち尽くすつもりか!!』って装備課で文句言われた。お墓参りに撃ったばかりの拳銃携帯なんて不謹慎だけど…許してくれ… 仕事中なんでな」
桂さんが眠るのは都内の合祀墓だ。色んな方のお墓だからなのか…まだみずみずしい生花が供えられていた。
軽く掃除をした後、オレはロウソクから火を移した線香と持って来た花をお供えし、手を合わせた。
一陣の風が線香の煙をたなびかせ、色づいた葉が地面に舞い落ちる。
煙の行方を見上げると…
雲は無いのにスモッグでくぐもったこの世界の空へ溶けていく…
『横からかすめて吸うのが私は好きなの』
不意に桂さんの言葉が思い出されて、オレは胸ポケットから封を切ったままにしているセブンスターとブックマッチを取り出して火を点け、ふかしてみる。
「ふかしタバコじゃかすめる気は起きないか…」
ため息とともに煙を吐き出し、もう少し強く吸うと、煙が肺に入ってむせてしまう。
「はは、ざまあねえな! こんなオレだけど…この世界で生きていくよ…とは言っても…オレもいつ殺られるかわかんねえ…ただ、あの“パンサー”の殺気は判るから…そん時は一矢報いるよ。ホントは桂さんを殺したヤツをぶちのめしたいけどな」
オレはお墓の横に並んで腰を下ろす。
目の前に、腕の中に、桂さんの事切れるまで光景がまざまざと浮かぶ。オレの胸が……銃身の様に熱くなり、オレはサングラスを掛ける。
「いつかオレも…ここに納まるからよ! 待っててくれや」
煙が…スモッグが…目に沁みて…
オレは人差し指をサングラスの下に差し込み
それらを拭った。
「あんまり油売ってるとドヤされるからよ! そろそろ行くわ」
折りたたんでいた長い脚を伸ばし、ジーパンのケツを払い、立ち上がって汚れた空に拳を突き上げる。
そう、今、この空の下にいるのは“高層ビルに通勤しているOLの私”では無い! 淀橋署の刑事たるオレだ!
そしてオレは今日も犯人を追い…明日を追って…走り続けている。
昭和デカ -死に染まる手- 完
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この作品における人物、
事件その他の設定は、
すべてフィクションで
あります。
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イラストです。
この物語のふたりのヒロイン
暢子さん
桂さん
あとがき
『万一、ウケたら…続きを書こうかな…』って言っていた前作、『昭和デカ』を日間ランクインしていただいたので…
書かねば!!と始めた。今回の『-死に染まる手- 』は…風間杜夫と堀ちえみ主演の例のドラマで…片●なぎさ様の手袋を歯で外すシーンをやってみたくて思いつきました。ちなみにこのシーン…もちろんリアルタイムでは観ていなくて…なろうのお友達から教えてもらって、ようつべで見てめちゃめちゃウケました!!
この様に比較的軽い気持ちで始めたのですが、刑事ドラマのファンの方々から怒られない様にせねばと『昭和』を調べ始めると、これがなかなか大変でした。
モデルになった刑事ドラマの設定に基づき、この架空の世界は1973年の昭和をモデルにしています。
この年は…前年の1972年に引き続き激動の年で…世情はヒステリックであったであろうと思います。その最たるものがオイルショックによるトイレットペーパー騒動…
その当時、忖度もあり、取り上げられないであろう題材『公害』を軸にしてみようと書き始めました。
書いているうちに『裏設定』がどんどん膨らんで行き…彼の国、米国との関係や転生者同士のつながりや…これは書き出すと間違いなく黒楓の代表作になってしまう風呂敷の広げようなのですが…今のところそんな気力はございません(-_-;)
第一、一人称は刑事ドラマには不向きだ!!!
書きづらい!!(笑)
三人称なら 今はやり?の“若頭”と不幸な娘との悲恋物語も書けて、すこしは読者様も増えたかも…(爆)
まあ色々グジグジと言いたいのですが、あとひとつだけ
桂さんのイラスト(上にも再掲出しています)が、画力以上のものが描けまして…
この何とも言えない表情の桂さんを反故にはできないという思いで書き続け事ができました。
拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました<m(__)m>