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 ああ!! 美しい顔がこんな酷い(むごい)事に…


 桂さんはおそらく即死だった。

 でも、凶弾がかくも自らを壊していく事を…例えコンマ何秒かでも桂さんが感じてしまったのなら…

 考えるだけで胸が張り裂けんばかりになりカノジョを抱きしめる。


 おびただしい血糊は既に固まり始めて…オレの胸に綺麗な鼻筋の封蝋を押す。


 しかし、“状況”はオレを留め置いてくれない。


 ザワっ!とした殺気を感じ振り向きざまに“殺気”に向かって引き金を引くとオレの頭上を弾丸とナイフがかすめ、おのおの壁にめり込んだ。


 二人から狙われている!!


 次に…毛ほどでも動いたら

 オレは()られる…

 “桂さん”を盾にすれば、僅かな時間だけ生き延びられるかもしれない。

 しかし所詮、()られる…


 ならば…今まで散々傷つけられ…事切れる最後の瞬間まで壊され続けた桂さんに…これ以上! 一条の傷も付けたくはない!!


 “私”は覚悟を決めた。


 “オレ”としてこの廃工場で死ぬんだ…


 しかし、せめてあの“殺気”には一矢報いたい!!


 オレはそっとリボルバーの撃鉄を上げ引き金に指を掛けた。


 その時、けたたましくタイヤが叫ぶ音が聞こえた。


 この修羅場(しゅらじょう)に車が突っ込んで来た?!!


「タニさん! ムリさん! 無事か?!!」


 聞き覚えの無い声だ!


「鮫島さん!危ない!! 撃たれる!!」とムリさんの声


「大丈夫だ!!」と返事をする声がカンカンと階段を昇って来る。


 ドアがバン!と開いて銃を構えながら中を窺ったのが鮫島警視だ!


 足元で股間を押さえているヤクザ者の頭に銃口を押し付けて震え上がらせてからオレに言葉を投げかけた。


「オイ!若いの! もう撃鉄を戻せ! あいつらは仕掛けてこねえよ」


 言いながら鮫島警視は部屋の中や窓の外を見渡した。


「あの“パンサー”に手傷を負わせるとは!! お前さん何者だ? まあ聞いてはいるが…」


「淀橋署の柴門です」


 鮫島警視は頷いて、オレの脇で横たわっている桂さんに手を合わせた。


「GP3は?」


 オレはとっさに隠したデスクの引き出しの中からベージュの手袋を取り出した。

 GP3シリンジ弾はその薬指に差し込まれてあった。


「鮫島警視もこれが目的ですか?」


「ああ、コイツのおかげで命も取られるし、命拾いもする」


 鮫島警視についてドアを出ると…階段の中ほどの“血の池”に顔を突っ込んだ矢島がいた。


「パンサーの仕業だ! ナイフで首から喉をひと裂き!」


 オレ達が階段を下りると黒塗りの車の後部ドアが開き、一人の紳士が降りて来た。


 鮫島警視が紳士に歩み寄ってシリンジ弾を見せる。


 向こうから駆け寄って来たタニさんとムリさんはその紳士を見て明らかに驚いた。


「!! あなたは…」


「君が谷山警部だね。ガイジの佐々木課長から連絡が入ってな。鮫島くんに連れて来てもらったんだ。間に合って良かったよ」


 相変らず“昭和新米(昭和新山と言うのがあるらしいので)”のオレにはこの紳士が誰か分からずムリさんに尋ねる。

「『現代の黒田官兵衛』こと八坂繁治(やさかしげじ) 首相の第一秘書だ」


「やっぱり…それって凄い事なんですか?」


「当たり前だ!! 『この人の発言=“今太閤”の発言』ってくらいだ!」


 オレにとってそんな事はどうでもよかった!! 桂さんの命を奪ってしまった元凶のGP3にこの人間がどう関わっているのか? それいかんでは…と震える右の拳を左の手のひらで覆い隠していた。


 一方、タニさんは八坂氏に一礼した。


「助けていただきありがとうございます。あの手の者はやはり…」


「言わずもがなだろう! もうすぐ戦後30年になろうとしているのに…彼の国では日本は相変わらずの属国扱い! 好き勝手にしやがる!!

 308口径ウィンチェスターマグナム弾やブゥーイナイフが飛び交うなんざぁ!!あってはならんのだ!」


「しかしあなたほどのお立場の方が一介の警察官の為に自ら危険を冒すとはいったい…」


「では聞くがね!谷山くん! 君がこのノッポの若造に肩入れするのはなぜだ?」


「柴門はウチの一員です!!」


 八坂氏は半睨みしているオレとタニさんの顔を一瞥した。


「それは“表向き”の理由だろう! 私が君に肩入れするのも…君がこの若造に肩入れするのと同じ理由だよ」


 タニさんにそう言いながら、オレと背丈がさほど変わらない八坂氏はオレの肩をパンッ!と叩いた。


「せっかく()()へ来たんだ! 命は粗末にするなよ!」


 訳が分からないままオレは反発する。


「すべての元凶であるGP3を!! あなたはいったいどうするつもりです!!」


 八坂氏の目つきが変わった。

「あれは元々“彼の国”で開発された物質で…物質の安定化と運用方法について、旧陸軍が秘密裏に握っていた技術をマッチングさせて化学兵器として城西Mチームで開発された。実際に今年の1月、そう!あの東南アジア某国からの撤退の2か月前に…現地で使用され、悲惨な結果…奴らからすれば大成功ということだが…をもたらせたんだ!! だからこそ属国内に残留しているすべての痕跡を彼の国の連中は消したがっている。まるでナパームでジャングルを焼き払うようにな!」


「そんなバカな!!」


「そのバカげた事が“この世界”の真実だ!! そしてそれを“オヤジ”は憎んでいるから、私はオヤジに組みし、秘書になった。だがお前はまだ知らなくていい! もしお前が刑事を止めるなら無縁の話だし…続けていくなら、おのずと分かる事だ」


 八坂氏は車に乗り込み、鮫島警視の運転で去って行った。



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「八坂氏の話から推察するに我々を狙ったのは『レミントン700』でしょうね」

 ライフルの名手でもあるムリさんの言葉にタニさんは頷いた。


 形ばかりの現場検証が始まり、桂さんの遺体も納体袋に納められようとしていた。もう手袋もはめられない硬直した左手がむき出しのままなのが忍びなくて、オレは恐らくは桂さんの物だったであろう洗いざらしの黄色いタオルをその手に巻いた。


『現場は1週間以内に“六価クロムの鉱さい廃棄場所”として一切の立ち入りが禁止される』

 そんな声がのこのこやって来た“本店”の奴らから聞こえて来た…


意外と長くなってしまったこのお話ですが…次回のエピローグ&あとがきで終了予定です。

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