⑪
いよいよ佳境です!(^^;)
桂さんの立ち去った後の資材置き場にオレは身を潜めた。
ここからなら工場の入口が見渡させ、資材をよじ登って外壁に取り付けられている梯子に飛び移れば窓から侵入もできる。
双眼鏡で覗いていると工員姿の矢島と思しき姿が四人のヤクザ者を引き連れてやって来た。
敷地内に入ると二人は左右に散らばり、矢島と一人が連れ立って先行し、残る一人は上着をモゾモゾさせて拳銃を引き抜いた。
その瞬間、微かな銃声がして拳銃の男は右足を抱えて転び、苦悶の顔が見えた時、その鼻の辺りが爆発し、血しぶきを挙げた
「えっ!?」
「ダマしたな!!」とわめきながら矢島と一緒にいた男は矢島を引っ立てて階段を駆け上がるが、あの後ろの男の“顔面爆発”は1発目の様に正面からじゃない!! 背後から撃たれたからだ!
「ライフルだ!! 誰かが外から狙っている!!」
怒鳴るムリさんの声に左右に散っていた奴らは慌てて身を隠したが、二階に駆けあがった連中は気付かなかったようだ。矢島をタテに屋内に押し入った。
オレは物凄い勢いで頭を回した。
一発目の銃弾は桂さんが撃ったものだろう、あの距離で動く標的の脚を狙い撃ちするなど信じられない腕だが…そしてそれよりもっと信じられないのが、どこから狙ったのかまるで分からない程遠くから後頭部を打ち抜いた弾丸の精度と威力だ。
つまり姿さえ捉えればオレ達全員を撃ち殺せるという事だ。
しかしオレは身を起こし資材をよじ登った。
「出るな!チノパン!」
遠くでタニさんの声がしたが、オレは飛び移った梯子を伝い、辿り着いた網戸を蹴破って中へ転がり込む。
矢島とヤクザ者の塊に銃口を向けていた桂さんの右横顔に狙いを付けるが、カノジョは微動だにしない。
その代わりにヤクザ者の一人がわめく。
「刑事さんよお! この女を早く撃ちこ…」
言い終わらないうちに軽い発射音がして、細い薬莢がカノジョの髪をかすめてこちらへ飛んできた。
撃たれた男は股間を抑えて転がり泣きわめいている。
「撃つなら撃ちなさい! でも今から面白い物をお見せしますわよ!」
そう言って桂さんは拳銃のグリップから手袋をはめた左手を離し、オレにその手のひらを示した。
「この手袋の中身をお見せしますわ!」
桂さんは手袋の指先を噛んでズズズッと手袋から左手を引き抜いた。
その左手はどす黒く変色し爛れていて…指の動きも滑らかとは言い難かった。
「これはね!刑事さん!『GP3シリンジ弾』の影響なの! その大部分を被弾した若頭はこの世の物とは思えない程の形相で亡くなったけれど…」
「キミがその巻き添えになったのは不幸な事故だった」
呻くような矢島の言葉に桂さんは哄笑した。
「『不幸な事故?』私は最初、亡くなった後とはいえ妹の恋人だったあなたを寝取ってしまった私への裁きだと思った。でも二度目の『組長殺害』の実行前に気が付いたの。シリンジが発射の際、破損しやすい様に細工がしてあったのを…それができるのは他でもないあなただけよね!孝雄さん!」
「誤解だ!」
「そう!? じゃあこれは何かしら?」
桂さんは引きつれた感じの指先でポケットをまさぐり1本のシリンジを取り出した。下半分が金属で加工されている。
「この『シリンジ弾』、本来は手で握ったくらいでは破損しないわよね。 まだこの部屋の住人を皆殺しにできるくらいの容量は残っているけど、どうする? この不自由な左手では力の加減はできないわよ」
「やめろ!」
命令口調だが矢島は完全に色を失っている。
「あなたと十川組の菅井の間でやり取りがあったのは分かっているの!最初はあなたを袖にした妹への復讐を菅井の手の者にやらせた! その交換条件の『龍神会若頭の殺害』を実行すべく私を篭絡して、若頭を“妹の仇”として私に近づかせ、GP3で私もろともカレを殺害しようと企てたけど私が生き残ってしまった。今度は組長ごと私を亡き者にしようとしたが私はまた生き残り…止む無く菅井の手の者に私を殺させようとした。そうまでして…こんな人殺しの液体に何の価値があるのかしら?!! この若頭のプレゼントたる美しいピストルより…」
「桂さん!本当にそれは誤解だ!! GP3は利権なんだ! “彼の国”へ繫がる為の!! ここでそれを壊して野垂れ死ぬより俺や菅井さんと組もう!!」
「つくづく見下げ果てたオトコね! 死ね!!」
「やめろ!!」
引き金を引こうとする桂さんにオレは大声で怒鳴った。
「あなたが死に手を染める事は無い!!」
桂さんは矢島に狙いを付けたまま少しだけこちらに顔を傾けた。
「若頭は…優しかった。店でも、ベッドでも。体面のためではない本当に心のこもったプレゼントをいつもちゃんと別に用意していて…新宿駅のコインロッカーに忍ばせておくという可愛らしい悪戯に私の心は何度揺れたかしれない…でも、その時の私は…コイツに言い含められていて…真実を見る事ができず“戯れの寝物語”として『私にも撃てる拳銃があれば復讐ができるのに』と若頭に言ってしまったの…GP3を浴びて悶え苦しむ私に、瀕死のあの人はコインロッカーのカギをくれた。その中身がこれ、『コルトウッズマン マッチターゲット』
私は…カレと妹の恵子…二人の無念を晴らすまでは死んでも死にきれない!! このクソ男に弄ばれる毎日の裏で私は必死に射撃の練習をしたの! さあ刑事さん! いつでも来なさい! でも、万が一にも私は負けない!! なぜなら私の手の中にGP3があるから」
桂さんがこちらを向いて一瞬目を離した隙に脱兎のごとく矢島は逃げ出す。
「最期まで下衆ね!」
桂さんは矢島の背中に狙いを付ける。
「やめるんだ!!」
オレは引き金に指をかけたまま叫ぶ。
その瞬間、ビシッ!!と音がして弾が桂さんの額を貫通し背後の壁にめり込み、
カノジョはズルズルと崩れ落ちる。
「桂さん!!」
掛け寄り、桂さんを抱き留めたオレのデニムシャツはたちまち真っ赤に染まった。
頭の中の…目の前で起こっている景色が消えてしまわないうちに大急ぎで書き留めました。
読みづらくてすみません<m(__)m>
今回のこだわりポイント
① 髪をかすめて飛ぶ薬莢⇒ これはウッズマンの実弾射撃の映像を見てイメージしました。ちっちゃな薬莢がピョンピョン飛んでました。
② 手袋を指先を嚙んで脱ぎ、不自由な手を露わにする。 これは昭和の名作ドラマの非常にインパクトのある場面…(なろうのお友達から教えてもらった)そう! あの片●なぎさ様のあのシーンです!! これが頭にあってぜひ書いてみたかった!! これがこの作品を書いたきっかけ(*^。^*)
という事で、私にとっての『昭和愛』が満載でございます( *´艸`)
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