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セブンスター柄のフィルム貼り紙袋を後部座席に放り込んで運転席へドカッ!と座り込む。
風呂上がりに久しぶりのフルーツ牛乳を飲んで、ある程度クールダウンしたのだが、日中陽射しに焼かれていた車内はやはり暑く、着替えたばかりのシャツを濡らす。
パンツは…ムリさんが買ってきたのはホントにでかくて…ウェストゆるゆる!!
そんなパンイチで銭湯の脱衣所にいるのは恥ずかしさマックスなので…ソッコーでジーパンを履いたのだけど、ゴワゴワモゾモゾグニャグニャと味わった事の無い感覚に辟易としている。
後で縫い詰めなければ…そう言えば100均など無いこの世界で…ちょっとした裁縫のセットはどこで売っているのだろう…それとも…桂さんが使っていた様な本格的な物しか無いのだろうか…
とりとめのない事を考えながらも“オレ”はダッシュボードから拳銃とクラウンチョコの空き箱を取り出した。
空き箱の中は弾倉から抜いた弾が入っていてズシリと重い。
これらをホルスターとポケットに納めてスピードメーター横の時計を見る。
そろそろ交代の時間だ。
車の外へ出て、弾の重みでますますモゾモゾするジーパンをずり上げた。
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張り込み場所へ戻るとタニさん独りだった。
「動きがあった。矢島が作業着で出てきて商店街の方へ向かった。ムりさんが追っている。お前さんは面が割れている可能性があるから、ここで張り込みを続けてくれ」
そう言って無線機をオレに預けると、タニさんも商店街へ向かった。
30分ほど経過して工場の二階のドアが少し開いた。 中から様子を窺がっているようだ。
やがてTシャツにジーパン姿の桂さんが出て来て…ドア付近の外階段を下りて行く。
やはり矢島の外出は陽動だったのか?! オレは後を追うべく身をかがめながらダッシュする。
しかし桂さんは工場の外には出ないで資材置き場に入り、がれきの山から何か黒い塊を抜き出した。
オレはデニムシャツの蓋つきポケットに捻じ込んでいたポケット双眼鏡で桂さんの手元を追う。
その場にしゃがんだ桂さんは左手をベージュの手袋で覆ったまま黒い塊をほどいて行く。
中からゴロゴロと出て来たのは…リボルバーではないオートマチックの拳銃といくつもの弾倉だった。
「マジかよ!!」双眼鏡を握り締め思わず呻いてしまう。
カノジョの事を信じたかったのに!!…
桂さんは予備の弾倉をすべてジーパンのポケットに捻じ込み、拳銃を右手に立ち上がった。
この時代のファッションなのだろうか…体にピッタリフィットしたTシャツがカノジョの線を露わにし、肩に掛かるボリュームのあるウェイビーヘアと相まってカノジョの線の儚さを際立たせる。
あんなにも儚いカノジョが拳銃など扱えるのだろうか?
と言うのは…私の今の…この大きな手のひらでさえ、『射撃の反動を受け止めるのには慣れが必要』と実感しているからだ。
扱えない物をヘタに振り回す事ほど危険な物はない!!
「ちくしょう!!」
やむなく“オレ”はホルスターから銃を抜き、弾倉を開いてクラウンチョコの箱の中身を詰め込んでいく。
あの夜の…カノジョとの会話が頭をもたげる
『いっそ、あなたがお持ちの拳銃でこの私を断罪してくださいませ』
ため息をつき、銃のグリップを握った時、背後に何か気配を感じて振り返り“気配の辺り”に銃を突きつける。
誰も居ない…
遠くでキラリと光るのはノラ猫の瞳だろう…微かに泣き声が聞こえた。
オレは銃を構えたまま、空いた左手でポケットをまさぐり無線をONする。
「ボス!」
『どうした?』
「ケイコは拳銃を所持しています」
『発砲したのか?』
「いえ、銃を隠し持ったまま二階に戻るようです。 それから…まだ他に誰か居るのかもしれません。双眼鏡でケイコを監視している時、背後に殺気を感じました」
『すぐにチョーさんとプリンスも応援に寄こす。 ムリからも連絡があって、矢島が十川組と落ち合ってそちらに向かっている』
「ハイ!」
オレはグリップに汗が滲むのを感じる。
『チノパン! 深呼吸だ!!』
言われたまま深呼吸する。
『いいか、焦るな! そして…判断を間違えるな!!』
「分かりました。慎重にカノジョとの距離を縮めます」
オレの動きひとつで何人もの命が失われる可能性がある。
『チノパン! 落ち着け!!』
オレは心の中で何度も繰り返した。
う~ん!!
ハードボイルドってほぼ不勉強でして…(^^;)
あ、拳銃についてもちょっと勉強しました。
たぶん次回あたりで触れる事になると思いますが、桂さんが所持しているのは、コルトウッズマン マッチターゲットというモデルです。
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