3 父の命令という名の無茶振り
「”ボウケンシャ”か…」
父上が創設した新しい職業である。創設者の意地としても子どもたちがこの職に付き、手柄を挙げてもらいたいだろう。
「そう、魔物と戦って実戦経験を積んでこい、魔物の1頭や2頭を仕留められなくてはこの先領民を守って行くことはできない。お前は長男だろう。いずれはこの領地を継ぐのだから。」
「分かりました。父上は同行しますか?」
「同行してもいいが、仕留めるのはドラゴンになるぞ」
ドラゴン!言葉にならない悲鳴が年長組の兄弟から漏れ出す。父上は軽くドラゴンと言っているが、本来なら小国一つをまとめて捻り潰すこともできる、天災にも例えられる存在なのだから。
「旦那様、流石にドラゴンは危険だ。ここは一つ、ゴーレムを倒すのでどうだろうか」
母エミリアが口を挟んでくるが、ゴーレムも大して変わらない。この脳筋夫婦め。
「まあまあ、流石にドラゴンやゴーレムを倒すのは骨が折れますので、まずは薬草集めから始めるのがよろしゅうございます。皆様大切なお体、怪我をして苦しむのを見るのは辛うございます。」
「ありがとうございますメリナの母上、それと父上はドラゴンを狩りにゆくのですか?父上の心配はしてはおりませんが、理由をお聞きしても?」
「ああ、マリーに新しい子ができてな、子供の養育費を稼ぎに行く」
また作ったか…。
げんなりしてしまった。
なお父上が養育費を稼ごうとするのには理由がある。ニーベル辺境伯領では伯爵は予算から年金という形で報酬を受け取っており、それ以外は自らの自由には使えない。各地に入植した開拓民の代表の承認がいるのだ。その代わり開拓民には有事の際の兵や食料の提供を命じている。
(俺が次の辺境伯になっても手のつけるところなさそうだな)
「分かりました。マリー母上、、おめでとうございます。なにかお祝いの品を送らなければなりませんね」
「いえいえレオン殿、お気になさらず。それよりもあなた達の心配をしなさいな。メリナ様はこう言っておりますが、旦那様は薬草だけでは満足しないと思いますよ。」
「困ったなあ、どんな顔してギルドに顔出せばいいのか」
「いや気にせず他の新人と同じように登録すればいいだろ?」
「しかしなあ、ニーベルのギルドを預かる義叔父上がほっておくかな。テレサ(マチルダの長娘、四女)を溺愛しているしな。あんまり父親の七びかりだと思われたくない。」
すぐ下の弟フィン(母ハンナ)とくだけた口調で交わす、小さい頃から共に遊び回っていたので母が違えど気心がしれた仲なのだ。
「まて、テレサ達もギルドに登録させるつもりなのか?」
「まずいか?」
「まずいだろう。万が一死んでしまったら義母上がたに申し訳が立たん」
「そうだなあ、だが父上は年長組全員といっておった。それにゾーイ(母リア、長女)もジョセフィン(母ルイーザ、次女)も納得しないだろう。母上がたは俺たちの年にはもう先頭に立って戦っていたからな。」
「しかし、父上になんとかお願いしようか?いくら『ドラゴンの生き血をすする』とか言われても人の親だろ?娘は危険な目に合わせたくないんじゃないか?」
「無理だな、ジョセフィンはともかくゾーイは一人でも登録しかねんぞ、あれでいて芯が強いからな。それだったら目の届くところにいるのがいい。」
「さようか、それなら年長組七人全員で行くのがいい。母上がたには申し訳ないが。」
「いや逆にいかなかったら尻をひっぱたかれそうだ」
長男である自分の他に年長組は、長女ゾーイ(母リア)、次女ジョセフィン(母ルイーザ)、次男フィン(母ハンナ)、三女トモエ(母カグヤ)、三男ノア(母マリー)、四女テレサ(母マチルダ、五女フィオナ(母メリナ)となっている。
この内男三人は母親が貴族なりの出身なのもあって『民を守るのは貴族に生まれたものの責務』として喜んで参加するだろう。魔物を狩るのも民を守ることにつながる。
ゾーイ、ジョセフィンも本人もそうだが母親も喜んで送り出すだろう。母親達は同じ年齢で父と世界を駆け回っていたのだから本人は反対したくても反対できない。本人達もそれは嫌がるだろう。なにせ人一倍誇り高い、城の中で引きこもってたりはしないのだ。
「問題はトモエとフィオナか」
フィンが声を落とす
「トモエは大丈夫だろうなあ。カグヤの母上は何を思って名前をつけたかは知らないが、トモエというのはホーライ諸島で有名な女武士の名前らしい、トモエも昔からお転婆だしな…。問題はフィオナか」
「フィオナも行きたがるだろう。というかフィオナこそ一人で飛び出しかねん。」
「フィオナは一人で生かせるわけにもいかない、むちゃして死んだり行方不明になったりしかねないぞ。それこそメリナの母上には申し訳が立たない。」
「メリナの母上もこればかりはどうしようもないからな。なにせメリナの母上の経歴が問題なのだから…。別に卑下する必要はないと思うけどな。」
「俺らがそう言ってもフィオナには響かないし、フィオナ自身も、もうどうしようもないのだろう。これは俺が折りを見て説得しておく」
「わかった、任せるぞ兄貴」
「よし、明日朝イチで飯食ったら外に出るぞ」
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