第82話 忘れられぬ感触
誤字脱字がありましたら、教えてくれると嬉しいです。
〈レイヴェル視点〉
「う……」
あぁ、いてぇ……えーと、確か俺ライアさんと戦って、そんでボコボコにされて……もしかして気絶してたのか?
動けないほどじゃないけど……って、ん? なんだこの頭の後ろの柔らかい感覚……。
ふと疑問に思って手を伸ばすと、手のひらに伝わるスベスベとした感覚。それだけじゃない。まるで手のひらに吸いついて来るみたいでいつまでも触ってたくなるような……。
「あの……レイヴェル? あんまりベタベタ触られるとさすがに恥ずかしいんだけど……」
「……え?」
聞こえてきた声に驚いて目を開けると、目の前にあったのはこちらを至近距離から覗き込むクロエの姿。
いや、なんでここにクロエが……じゃなくて!
今ここにクロエが居て、こんなに近いってことは、さっき俺が触ってたのはつまり……。
「っ! わ、悪い!」
「あ、レイヴェル! そんな急に起き上がったら——」
「いっってぇっ!!」
全身に走る痛み。
さっきライアさんにボコボコにされた時の傷だ。別に深い傷ってわけじゃないけど、それでも痛いもんは痛い。
戦ってる間は気にならなくても、終わったら一気に来るなぁ……こういうのは。
「ほら、だから言ったでしょ。まだもうちょっと横になってた方がいいよ」
「あぁ、悪い……って、ちょっと待て」
「どうしたの?」
「なんでお前の太ももに俺の頭を乗せる」
「え、だってそのまま地面に寝たら痛いかと思って」
「いや、そうじゃなくてだな……」
確かに柔らかいし気持ちいいけど……でも、それ以上に恥ずかしい。
やっぱりダメだ。これじゃあ休めるもんも休めない。
そう思って体を起こそうとしたけど、クロエにグッと体を抑えつけられる。
「ダーメ。まだもう少しは休んでないと」
「でもこの恰好はさすがになぁ……」
「ふふふっ、レイヴェル恥ずかしがってる」
「……お前、遊んでるだろ」
「あはっ♪ バレた?」
「バレるに決まってるだろ。ずっとニヤニヤしてるしな」
「ふっふっふ……どう料理してくれようか」
「怖いからやめろ! ……はぁ」
なんか抵抗するのもバカらしくなってきた。
疲れてるのは本当だし、この調子じゃクロエもしばらくは解放してくれなさそうだし。
とりあえず言葉に甘えるとするか。
「あ、やっと諦めた」
「うるせぇ」
「ふふ、まぁいいじゃない。こんな場所じゃ誰に見られるってこともないだろうし。ここにいるのは私とレイヴェルだけなんだから」
「まぁ……そうだな」
「…………」
「…………」
風が吹いて木々の揺れる音だけが耳に届く。
ちょうど良い日差しも相まってかなり眠たくなってきた。
「……なぁクロエ」
「なに?」
「ずっと見てたのか?」
「……うん、最初から。ごめんね」
「いや、それはいいんだけどな……」
まぁうすうす予想はしてたけど、やっぱり最初から見てたのか。
「……情けない姿見せちまったな」
「情けない?」
「あぁ。ライアさんにボコボコにされて……一矢報いくることもできないで。この様だ。本当に情けねぇ」
こうなることがわかってたからクロエにはついてきて欲しくなかったんだけどな。
まぁ、俺の見栄みたいなもんだ。今さらかもしれないけど、こんな情けない姿はクロエに見られたくなかった。
「……情けなくなんかないよ」
「え?」
「ずっと見てたよ。レイヴェルの戦い。確かにあの人には歯が立たなかったかもしれない。そりゃもう情けなくなるぐらいボコボコにされたかもしれない。でもね、それでもレイヴェルは折れなかったでしょ?」
クロエの声はどこまでも優しかった。
俺が気にしてることなんて何も問題ないと言わんばかりに。
「普通はなかなかできることじゃないよ。あそこまでの力の差を見せつけられて、それでも折れずに立ち向かうなんて。どんなに倒されても、どんなに苦しくても立ち上がるなんて。だから……私は素直にカッコいいと思った」
「……よくもまぁそんな恥ずかしいこともすらすらと」
「だって本当にそう思ったし。レイヴェルを契約者に選んで良かったって、改めて思ったよ」
「……ふん」
こういうことも臆面もなく言えるのはこいつの美徳なんだろうな。
そんで、この言葉でちょっと元気が出て嬉しいとか思ってるあたり、俺もたいがい単純って言うか。
「でもさ」
「ん?」
「あそこまでボコボコにしなくてもよくない? あれもうイジメかってレベルだよ」
「イジメってお前……まぁ確かにそう見えなくもないか。あそこまで実力差あるとな」
「手加減ってものを知らないんだね、あの人は」
「いや、手加減は十分されてたと思うぞ。ライアさんが本気だったら今の俺じゃ剣を合わせることもできない」
本気ではあるけど、手加減されてないわけじゃない。あの人が本気を出したら瞬きしてる間に俺は地を這うことになる。
それだけの力の差が俺とライアさんの間にはあるんだ。
ふぅ……そう考えたら改めて目指す頂の高さを痛感するっていうか。だからって諦めるつもりもないけどな。
「……ところでさぁレイヴェル」
「ん? っていてぇ!」
急にクロエに耳を引っ張られる。
何事かと思ってクロエを見てみれば、さっきまでの優しい雰囲気はどこへやら、氷のように冷たい瞳が俺のことを見下ろしていた。
「な、なんだよ……」
「木剣、隠し持ってたんだ」
「うっ……」
そうか。そう言えば見られてたってことは俺が木剣使ってたのもバレてるってわけで。
クロエが怒ってるのはそれが原因か!
「レイヴェルの持ってた剣は全部破壊したと思ってたのに……まさかこんな風に隠し持ってるなんて。私、かなり怒ってるよ」
「いや、悪いとは思ったんだけどな。訓練するにもやっぱり剣は必要だし……な?」
「それだけ?」
「はい?」
「本当に木剣使ってたのはそれだけが理由? 私を使いたくなかったとかそんな理由じゃないの?」
「いやいやいや! そんなわけないだろ! 木剣を使ってたのは朝の訓練の時にお前を起こすのは悪いと思ったからだ。お前は朝ぐっすり寝てるし」
「うぐ、それはそうだけど……で、でも起こしてくれたらちゃんと行くし」
いや、それはかなり怪しいと思うぞ俺は。
こいつ一回寝たらなかなか起きないし。
「むぅ……まぁいいや。とりあえずその木剣貸して」
「え、いや。さすがにこれを壊されるのは困るんだが」
「いいから貸して」
クロエの圧に押されて俺は転がってた木剣を拾ってクロエに渡す。
戸惑う俺の前でクロエは木剣を破壊……ではなく、魔力を注ぎ込み始めた。
「なにしてるんだ?」
「いいから黙って見てて。すぐに終わるから」
「?」
わけがわからずにジッと魔力の注がれる木剣を見つめていると、木剣が黒い光に包みこまれる。
その黒い光は徐々に形状を変えて、一つの形を作っていく。
そして——。
「……ふぅ。初めてやったけどなんとかできたかな」
「これは……クロエの剣?」
「うん、まぁね。私のレプリカ。切れ味とかまでは再現できないけど、重さとか長さとか、その辺りはちゃんと再現してるから」
「……すげぇな」
「だからもう他の剣は使わないで。本当はレプリカだって使って欲しくないけど……他の剣使われるよりはマシだから」
「はは、そこはブレないんだな」
「当たり前でしょ。これだって苦肉の策なんだし。これ使って頑張って。あの人をボコボコにするために!」
「いや、別にライアさんをボコボコにするためにやってるわけじゃないんだけど……でもそうだな。この剣があればいままでよりも良い形で訓練ができそうだ」
「……そう? なら良かった。じゃあそろそろ帰ろっか」
「ん、あぁ。そうだな」
「もしかして私の膝枕が名残惜しかったり?」
「するか!」
未だに残るクロエの太ももの感触を振り払うように頭を振って立ち上がる。
でも、正直あの感覚はしばらく忘れられそうになかった。
「またまたぁ。大丈夫だよ。またしてあげるから」
「いらん!」
「素直じゃないなぁレイヴェルは」
それから俺はクロエに支えられながら、街へと帰るのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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