第327話 『破哭』
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大剣を構えるアルマ。その額には脂汗が浮かんでいる。当然だ。治療したとはいえ、アルマの傷は重症。本来ならまだ安静にしていなければいけない状況。戦うなどもっての他だった。
「親父、そんな怪我して戦えるわけないだろ!」
「そうですわ! 下手に動いたらまた傷が開きますわ!」
口々に止めようとするアイアルとコメット。しかし、それを止めたのはクロエだった。
アルマに近付こうとする二人のことを手で制し、険しい表情でアルマのことを睨み付ける。
「それ以上近付いたらアルマは本気で二人のことを斬るよ。今のアルマには……それだけの覚悟がある」
こうして向き合っている今も突き刺すような殺気がクロエに向いていた。決して手負いだとは思えないほどの。それほどまでにアルマは本気だった。本気でクロエ達のことを斬ると言っていた。
互いに言葉は尽くした。クロエはアルマの願いを知った。アルマはクロエの想いを知った。
しかしクロエの言葉ではアルマを説得することができず、アルマの言葉ではクロエの心は動かなかった。
互いの願い、想い、それを受け入れられないならばその先に待つのは力による衝突だ。
そんなアルマの意思表明をクロエは受け入れた。
「わかった。受けて立つよ。でもやるからにはこっちも本気で行くから。レイヴェル」
「本当にいいのか?」
「言ってわからないなら、ぶん殴ってでもわからせる」
「そうじゃない。あっちだって怪我してるけど、お前だって全然本調子じゃないだろ」
「それでもやらなきゃいけないの。ごめん、レイヴェルにはまた負担をかけることになるけど」
「そっちは気にするな。じゃあ、いっちょやるか」
剣を構えるアルマと向かい合い、クロエもまた『剣化』する。
「それがクロエの魔剣としての姿か。むかし一緒に旅していた頃にも見たことは無かったな」
『剣の姿になる理由が無かったからね。それで言うならこうやってアルマと私が喧嘩するのも初めてだと思うけど』
「そうだな。ここまで本気で喧嘩するのは初めてかもしれない」
アルマもクロエも旅をしていた頃は主張の強いタイプでは無かった。多少の口喧嘩などはあったが、それも決して本気では無い。
そう言った意味では、二人が本気で意思をぶつけ合うのはこれが初めてだった。
「俺はお前のことを認めている。だからこそ、俺の本気の一撃を出させてもらうぞ」
『本気の一撃って、まさか!』
アルマが大剣を上段に構える。
その構えをクロエは知っている。アルマが使う文字通り必殺の一撃を知っていた。
その技を使ったことを一度だけ見たことがあった。そしてその結果起きたのは大破壊。たった一撃で目の前の大地を魔物ごと消し飛ばしたのだ。
一度振るえば全てを破壊する。それはクロエが『破壊』の力を使って起こすレベル破壊をアルマは一人で起こせることを意味していた。
「『破哭』……名付けたのはお前だったな、クロエ」
『そうだね。まさかその一撃を自分がくらうことになるなんて思いもしなかったけど。『鎧化』――『破黒皇鎧』』
レイヴェルの体を鎧が包み込む。
『レイヴェル、少しの間だけでいいから体を貸して』
「わかった」
クロエの言葉にレイヴェルは一瞬の逡巡もなく応える。それはレイヴェルのクロエへの信頼の証だった。
レイヴェルからのそんな思いを受け取って、クロエは構える。
(レイヴェルの残り魔力残量から考えても力を使えるのは一度。この『鎧化』も最低限の能力しか無い。でもその条件は向こうも同じ。『破哭』を撃つって言っても、最大の威力は撃てないはずだから。だから私も本気で迎え撃つ)
「っ! その構えは俺と同じ」
『『破哭』を迎え撃つなら、私も『破哭』を使うだけ。もちろん全く同じってわけじゃないけど』
クロエが撃とうとしているのは記憶の中の『破哭』を自身の『破壊』の力で再現したもの。言ってしまえば偽物だ。しかし引き起こされる破壊は本物だ。ともすればアルマの『破哭』以上に。
「いいだろう。受けて立つ」
『いくよアルマ。これでこの戦いに決着をつける』
クロエとアルマの身に纏う魔力が膨れ上がり、そして剣へと伝う。
なにもできないアイアルとコメットは息を呑んで状況を見守ることしかできなかった。
そして――。
「『破哭』!!」
『『破哭』!!』
二人の全力の一撃がぶつかり合った。
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