第313話 深い憎悪
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カームの裏切り。コメットにとってそれは驚きではあったが、想定外では無かった。
むしろこの状況であればと納得すらできてしまったほどだ。全員が消耗しているこのタイミング。
そして多くの兵士達は操られ、自我を失っている。この状況はカームにとってはこの上なく優位に働くと言ってもいい。
「この国を壊すのはこの俺だ!」
突然のアルマの言葉にカームはこめかみをピクリと動かす。
「お前がこの国を壊すだと?」
「あぁそうだ。ハルミチの目的はこの国の聖天樹だが、俺はそんなものどうだっていい。レジスタンスの思想もお前たちの裏切りにも興味は無い。全部纏めて壊す。この国を塵に変えてやる」
アルマの言葉に宿るのは憎悪。アイアルも、コメットも感じ取れるほどの憎悪だった。
「親父?」
アイアルはアルマのそんな様子に気付いて呆然とする。これまでの人生でアルマがここまで感情を露わにしているのを見るのは初めてだったからだ。
アイアルの知っているアルマは感情を露わにするような性格ではなく、冷静沈着、あまり感情の起伏が無いのだと思っていたからだ。
しかし今のアルマは明らかに感情を露わにしていている。それも明らかに負の感情を。なぜそこまで怒っているのか、何にそこまで憎悪しているのか。アイアルにはわからなかった。
だがそんなアルマの様子を見てカームは高らかに笑う。そこに込められるのは嘲りの感情。
「ふっ、あははははははははっ!! 威勢は良いな。だが所詮ドワーフでしかないお前に何ができる。魔法も使えない、土弄りしかできない雑魚種族のドワーフに!」
そんなカームの言葉に同調するように周囲の近衛兵達もクスクスと笑う。しかしそれが種族間にある互いに対する差別意識だ。
アイアルとコメットが違いのことをけなし合っていたように。ドワーフとエルフの間には深い溝がある。だがカームがドワーフであるアルマに向ける目は生易しいものではなかった。まさに畜生を見る目つき。その瞳には侮蔑の色しか無かった。
だがアルマはカームにそんな目を向けられてもまるで気にしていなかった。
担ぎ上げた大剣をカーム達へと向ける。
「お前たちが俺のことを、ドワーフのことをどう思おうが自由だ。俺はそんなことに興味は無い。だが俺の邪魔をするならお前たちは俺の敵だ。ここで叩き潰す」
「はっ、ドワーフ如きに何ができる。お前たち、やれ!」
「「「はっ!」」」
カームの号令で動き出す近衛兵達。統率の取れた動きであっという間にアイアル達のことを囲い込んだ。
「どうすんだよ親父」
「近衛兵達は国の中でも最精鋭。それがこれだけの人数いるとなれば……さすがに多勢に無勢ですわ」
コメットは悔しそうに呟く。カームのことが気に食わなくても、その実力は本物だ。近衛兵の隊長に選ばれるだけあって、その実力は国の中でも一、二を争うレベル。そんなカームの指示に従う近衛兵達も厳しい選抜をくぐり抜けた選りすぐりの兵士ばかり。アイアルやコメットでは例え万全の状態であっても勝てないレベルだった。
だが、そんな圧倒的不利な状況にあってもアルマは全く焦ってはいなかった。
「とりあえずお前達は邪魔だ。捕まっても面倒だからな」
アルマは自身を囲む包囲網を高い跳躍で一瞬で突破したかと思えば、アイアルのすぐ傍へ着地。そのままアイアルを掴んで再び跳躍するとコメットの元までやってきた。近衛兵達が武器を構えるよりも早く大剣を横に薙ぎ、その勢いだけで近衛兵達を吹き飛ばした。
「お前達は邪魔だ。さっさとここを離れろ」
「な、ふざけんなよ親父! この数一人で相手にするつもりかよ!」
「お前たちが居て何ができる。もう魔力も何もかも使い果たしているだろう」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「さっさと行け。お前たちがいると本気で戦えないからな」
「だから――」
「行きますわよ」
「っ、おいふざけんな! だからひっぱんなよ!」
「彼の言う通りですわ。ここに残っても、わたくし達にできることは何もありませんもの。キュウ、彼女のことを」
魔力を消耗しきってまともに動けないアイアルのことを掴んで飛び立つキュウ。アイアルは抵抗するが、幼体とはいえ竜であるキュウの力に勝てるはずも無かった。
「おいふざけんな! 離せよ! 親父、おい親父!!」
必死に叫ぶアイアル。だがアルマが振り返ることは無く、アイアルはそのままキュウとコメットに連れられてその場を離脱するのだった。
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