第173話 毒と油断
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〈レイヴェル視点〉
クルト達と戦い始めてからずっと、いや、正確にはクルト達がこの場に現れた時から俺はずっと違和感のようなものを覚えていた。
言葉にはうまく言い表すことはできないものの、しかもその違和感は時間を追うごとに増している。
でも、クロエは何も言わないし、俺の気のせいだって可能性が高そうだ。
それよりも今は目の前の戦いに集中しねぇと。
今の俺は【鎧化】の効果もあって、いつもとは比べ物にならないほどに力は増してる。滅多な相手には後れを取らないだろう。
それでも相手も魔剣使いだ。油断はできない。というか、正直な所こいつらのことを掴み切れていなかった。
手加減をされてるわけじゃない。俺達の力を前に本気で抵抗してる節もある。でもそれ以上に時間を稼いでるように見える。
最初はファーラさんやヴァルガさんが逃げるための時間を稼いでるのかと思ってた。でもそうじゃない。まるで何かを待ってるような……。
「戦ってる最中に考えごとかい? 剣筋が鈍ってるよ」
「っ!」
ダメだ。【鎧化】してるとはいえ相手は魔剣使いだ。気を抜くことはできない。
それだけじゃない。【鎧化】した時に感じたクロエの様子。明らかに焦ってた。焦る気持ちはわかる。でもそのせいでこの戦いに集中しきれてない。
【鎧化】したことによる一体感はあるけど、クロエの焦る気持ちが強すぎて上手くかみ合ってないんだ。
「破剣技——」
『破塵滅衝!!』
「おっと、すっごい威力だね」
全力で振り下ろした一撃もギリギリで避けられる。これまでの戦いの中で気付いた。
クルトは強いんじゃない。上手いんだ。技の見極め方が、避け方が。その意味でこいつは戦士じゃないのかもしれない。
だがそんな奴が魔剣の力を手にしたら、その脅威は測りしれない。しかもあのネヴァンって魔剣の能力と嚙み合って厄介過ぎる。
それに技の位置が微妙にズレてる気がする。狙った位置から外されてるっていうか。俺達が気付いてないだけで何かしてるのか?
「ははっ、何か気になるって感じかな?」
「っ!」
「鎧で顔が見えなくても動きでわかる。感情の揺らぎを感じる。戸惑ってるんじゃない? 狙ったように技が打てないことに」
『どういうこと』
まるで俺の胸中を読むようにクルトは告げる。クロエも気付いてなかった俺の抱えた違和感のことを。
「やっぱりお前達が何かしてたのか」
「さぁどうだろうね?」
『ふふふっ、すぐにわかると思うわよ』
『レイヴェル、どういうこと?』
『あなた、気付いてなかったのね。まぁ相当焦ってたから無理もないと思うけど……でも、魔剣としては失格よねぇ。そろそろじゃないかしら』
「え?」
ネヴァンとクルトの嫌みったらしい笑い声が響く。
そして、その直後のことだった。
「ぐっ!?」
ドクンッと心臓が脈打つ。いやそれだけじゃない。
体が……全身が熱い……。
「はぁ、あっ……ぐっ……」
『レイヴェルっ!?』
熱いだけじゃない。冷たい。全身が痺れる。
立ってられない……。
意識が……まずい、このままじゃ……。
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〈クロエ視点〉
突然倒れたレイヴェルの元に慌てて駆け寄る。
「レイヴェル、ねぇレイヴェルってば!! 魔力の流れが乱れて、私の力が……どうして!」
レイヴェルが倒れ、魔力が乱れたことで【鎧化】も解かれた。
『うふふ、あははははははっ!! ようやく毒が回ったようねぇ』
「毒? どうしてそんな、私の力でちゃんと無効化してたはずなのに。いつの間に……」
【鎧化】したことでレイヴェルに触れる外の力は全て遮断した。
ネヴァンの力がレイヴェルに届く余地なんてなかったはずなのに。
『そんなの一番最初からに決まってるでしょ。目に見えるものだけが毒じゃないのよ。私の手にかかれば、無色無臭の毒だって容易に作れる。ホントに気付いてなかったのねぇ。ダメよぉ、目先のことばかりに囚われちゃ。そんな風雨に油断してるから手遅れになるのよ』
「っ!」
オレが……オレのせいで、オレがファーラ達のことばっかりに気を取られてたから……。
だが、そんな後悔に浸る間もなく状況は進んでいく。
「それじゃあ、楽しい楽しいパーティーを始めようか」
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