第93話 二種類の魔剣
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
ケルノス連合国首都ビース。
数多の獣人族を擁するこの都市は、多種にわたる獣人族の協力もあって作りあげられた都市だ。
だからこそ随所にそれぞれの種の特徴があったりもする。
それがこの都市の面白いところだ。
面白いところなんだけど……。
「この賑わいはさすがに予想外だったなぁ」
「すっげぇ人だな」
「うん。飛空艇から見てた時はそんなにわからなかったけど。昔とは比べ物にならないくらい人が増えてるよ」
「やっぱそうなのか。こっちの王都以上なんじゃないか?」
「たぶんね。人口は比べ物にならないし。祭りがあるわけでもないのにこの賑わいはさすがって感じだよね。まぁそれだけ平和ってことなんだろうけど」
「だな」
行き交う人々はみんな笑顔に溢れてる。
これもきっとカムイの統治が上手くいってる証なんだと思う。
「ふふ」
「嬉しそうだな」
「うん。こうやって街中を見てるだけでカムイの頑張ってきた後が見えるから。ちゃんとやってるんだなぁと思って」
「はは、お前は獣王様の保護者かよ」
「昔は似たようなものだったよ。カムイってば何かと無茶しようとするから。キアラも先輩も止めようとするどころか煽るし。止めるの大変だったんだから」
「その二人がどんな人かは知らないけどクロエが苦労してる姿が目に浮かぶな」
「ホントにもう……あの頃はって、ダメだダメだ。過去を懐古しすぎると老けてしまう。私は十七歳。永遠の十七歳」
「もはや自分に言い聞かせてるだろそれ」
「こういうのが言うのが大事なんだよ。ま、実際十七歳で間違いはないわけだし。魔剣は不老にして不死の存在だから」
「そういえば……クロエって生まれた時からその姿なのか?」
「え?」
「いや、単純に疑問なだけだ。そこまで深い意味があって聞くわけでもないんだけどな」
「うーん……」
「答えにくいなら別に答えなくてもいいぞ?」
「あぁ、ううん。別に答えにくいとかそういうわけじゃないの。わからない、っていうのが実情かな」
「? わからない?」
「私は事情が事情だから……って、言ってもあれだけど」
オレは他の魔剣と違って、気付いたらこの体になってたからなぁ。
その理由に至ってはまだ判然としてないし。いくつか考えられることはあるけど。
どれも確証には至ってない。レイヴェルに伝えるにはあやふや過ぎるんだよなぁ。
先輩も他の魔剣とは違う形で生まれたある意味特殊な魔剣なわけだし。
普通の魔剣がどうして、どうやって生まれたのか。
そもそもどこからやって来たのか。
伝聞程度には残ってるけど、真実を知る人は驚くほど少ない。
「でもまぁ……たぶん生まれた時から今の姿だったと思うよ。というより、魔剣の人化に正しい姿ってないし」
「? どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。魔剣は剣の姿こそが真の姿。人の姿はあくまで仮の姿だからね。その気になれば変幻自在に変えられるよ」
「そうなのか? それじゃあ前にあったダーヴって魔剣も」
「うん。あの姿も変えられると思うよ。ただまぁ、魔剣にもお気に入りの姿ってあるからそんなに姿変えたりしないけど。でも時と場合、使い手によって姿を変える魔剣はいると思うよ。時にはお姉さん、時にはロリ、みたいな感じで」
「ロリってお前なぁ……って、それじゃあお前も姿を変えられるのか?」
「ううん、私は無理。やり方も知らないし、そもそもできない。そうだね。一つだけ教えてあげようかな」
「? 何をだ?」
「魔剣には二種類あるの知ってる?」
「二種類? どういうことだよ」
「うん。どうせいつか知ることになることだし。そりゃもう魔剣には色々と種類があるわけなんだけど、でも大きくは二つ。神造の魔剣と……人造の魔剣」
「人造? おい、それって」
「もちろんそのままの意味だよ。神によってもたらされた神話の剣じゃなくて、人が
人の手によって神を葬るために作られた魔剣。それが人造魔剣。前回戦ったダーヴは神造魔剣かな」
「……それじゃあお前は?」
「どっちなんだろうね」
「……は?」
「神造の魔剣か人造の魔剣か。実のところよくわからないんだよね。私に限っては」
「どういうことだよ」
「ま、私にも色んな事情があるってわけなのさ。私自身でも理解しきれてないことがね」
「なんだよそれ」
「あはは、ごめんね。余計にややこしくしちゃったかも。今の話は忘れてもいいや」
「いや、忘れられるような話じゃないだろ」
「だよねー。話すタイミング間違えたかも。もう少し私自身として整理してから話した方が良かったかも」
うーん、ダメだ。なんかこの国に来てから口が滑りやすくなってる気がする。
キアラのことも人造魔剣のことも、少なくとも今は話すつもりはなかったのに。
これじゃ余計にレイヴェルのことを混乱させるだけだ。
「まぁモヤモヤするレイヴェルの気持ちはわかるけど、でも今はそれを置いとこう。せっかく街に出てきたのに全然楽しめてないし! 他の人が楽しそうにしてるのに私達だけ街のど真ん中で小難しい顔してるわけにはいかないでしょ」
「それもそうだが……誰のせいだと思ってんだ」
「あはは……だよねぇ。でもこれ以上今教えれることもないしなぁ」
「はぁ……わかったよ。とりあえず納得してやる。でも、また今度ちゃんと教えてもらうからな」
「うん、それは約束する。ま、先輩ならともかく私は全部知ってるわけじゃないからどこまで教えれるかわからないけど」
「わかってるよ。お前が全部知ってるわけじゃないことくらい。お前が知ってても話さないことは、今は知る必要がないってことだろ。とりあえずそう思っといてやる」
「……ふふ、ありがと。さ、それじゃ気を取り直して行こっか。たぶん私の予想が正しければ残ってるはずなんだよ」
「残ってる?」
「そ、私の好きだったお店がね」
カムイの作りあげた平和な街、その賑わいを楽しみながらオレはレイヴェルを連れて店へと向かうのだった。
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