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男子生徒の黙示録

作者: 山犬

少しシリアスなシーンも盛り込んでみました。

概ねギャグコメディと思ってもらえると幸いです。


4人席のファミリーレストランの席に男子高校生が座っていた。

男達の顔に一切の笑顔はなく、視線はメニューや

誰かの顔に注ぐわけでもなく、ただ虚空を睨んでいる。

そのためバイトの女の子は水とメニューだけをさっさと置くと

異様な雰囲気に当たらないようにさっさと引き上げた。


「スイマセン。」


その瞬間は唐突に訪れた。

低く太い声が店内を走る。それは客は勿論店員の耳にも届く。

テーブルの隣に呼び出しベルがあるだろうが。

無論そんな心の声を掻き消しながら笑顔を貼り付けた店員は

アニュアル通りの言葉を口にする。


「ご注文はお決まりでしょうか。」

「4人分。ドリンクバーを大至急で。」

「……4人分ですね。ドリンクバーはあちらにございますので。

 ご自由にお持ちください。」


店員が更なる心の声を掻き消したのは言うまでも無かった。


「さて。今日集まったのは他でもない。」


オレンジジュース、ココア、コーラ、こぶ茶。

各々が好きなものを持ち寄って来た所で、荒木(あらき) 浩二(こうじ)

確認するように口を開いた。

今年の夏まで野球部のレギュラーとして活躍していた彼は

このメンバーの中で最もガタイが良く、日焼けをしていた。

先ほど注文の声を出したのも彼である。


「あぁ分かってるぜ。」

「まさかこんなことで集まるなんてね。」

浩二の言葉に賛同したのは、鹿島(かしま) (ろう)

朝比奈(あさひな) (ゆう)の二人だ。

鹿島は死んだ魚の目のようなで確かに浩二を見ながら頷き、

朝比奈は童顔の顔に似合わないこぶちゃを啜っていた。


「わかんねぇよアホ。」


このなかでただ一人、仲間は外れがいた。

檜山(ひやま) 志堂(しどう)である。

4人グループを普段取りまとめている彼は本日

いきなり呼び出しを受けここに来ていた。

本来いきなり予定を組み込まれることを嫌う志堂だったが、

荒木の余りにも真剣な表情に断ることが出来ず、

財布とよく相談した上で割り勘ならばという条件の下馳せ参じた次第で、

今回の召集の意図は全く知らなかった。

どうやら自分だけが蚊帳の外らしい。

BLEAC○よろしく、なん……だと!?という反応をされたので

思わず脳天にフォークをブッ刺してやろうか真剣に考えた。


「っふ仕方ない、今回のみ貴様に議題を提案しよう。」

「物見櫓から俺のこと見下ろしてんのかお前は。」


「腰を折るなひーやん。」

「話が先に進まないよ。浩二はただで際話が長いんだから。」


アウェイ過ぎるだろ。

と言いたい志堂だが、とりあえず口を噤んだ。

そのため浩二のフォローは一切しない。


「今回の議題のテーマはこれだ。狭間(はざま) 早百合(さゆり)

 口説き落とし方だ。」


「は、狭間 早百合? 

 あの狭間 早百合か?」


思わず二度聞きしてしまった。

狭間 早百合。校内一の美少女。

日本人離れした7頭身のモデル体系で、切れ長の肉食獣を思わす瞳は

見る者の心を奪う。同い年であるのにまるで大人の女性と

思わせる彼女に心を引かれる男は数知れず。

モデル事務所にスカウトされたこともあるという噂まで出ており、

志堂もその名前は勿論知っていた。

だが、この中で狭間 早百合と親しい人間など誰も居ないだろう。

経緯の説明を求める。


「いやあーくんと美人について語っていたら

 狭間の話になったんだ。

 で、ゆーも加わって口説くならって話になったんだよ。」

「狭間さんなら彼氏いるでしょきっと。

 その彼氏はどうやってあの美人を口説いたのかって議論になって。」


「……はぁーーなるほど。」


やっとの思いでその台詞を吐き出すと、

志堂はオレンジジュースを一気に飲み干した。


「ドリンクバー制覇して元取らないと。」

「おい、興味が無いからって逃避するんじゃない。」


席を立とうとする志堂を浩二は制した。

あの真剣な表情はなんだったんだよ。

腹いせに浩二のココアを飲み干すことで気持ちを落ち着けた。


「で、お前らはどうするんだ?」

「うむ、では順々に発表して行こう。

 まずは楼。貴様から生贄になってもらおう。」

「あー俺から? そうだなぁ。

 取りあえず海に連れて行く。」


海という単語を聞いて朝比奈が思わず反応した。


「へーなんか意外。楼の場合ラブホにいきなり連れ込むと思ってた。」

「まぁ確かに。」

「いきなりラブホに持ち込めるわけないじゃん。

 お前ら童貞か。もしかして。」

「ぶっ殺すぞ貴様。」


分かった分かった。と浩二を制した。

一旦コーラを啜ると鹿島は続ける。


「海って広いから開放感あんじゃん。

 だから人間の心もかなり開いてくれる場所なんだよな。

 あとついでにあの美少女の水着姿を拝みたい。」


「最後の理由が余計だろ。」

「っていうか多分そっちが本音じゃないの?」

「そんなわけないだろ。

 あの美脚を拝みたいだとか、サンオイルを

 全身に塗りたくりたいとか、尻だけサンオイル塗らずに

 小麦色にやけた桃尻を堪能したいとかそんなこと思ってねーぞ。」

「ダダ漏れちゃってるよ。」


「皆分かんないの? 白いだけが尻じゃないんだぜ。

 トーストもちょっと焦がしたほうが美味いから

 尻も少し焼いたほうがいいに決まってる。」


いやそういう話じゃねぇよ。止めようとするも、

鹿島はもう止まらない。


「そして夕暮れ、人の居なくなった浜辺で

 I LOVE YOU。そのまま海の近くのホテルで

 今日一日で調理した尻に齧りつく寸法よ。

 俺の見立てでは、焼いた尻と水着の後のコントラストで

 飯2合はいけるはずだぜ。」


「お前は尻を何だと思ってんだ!」


いいプランなのか悪いプランなのか、

溢れんばかりの尻欲が強すぎて判別が出来ない。


「因みに断られたらどうするの?」

「デリヘル呼ぶ。」

「チェンジで。」

「一体どこが駄目なんだ!?」

「途中までは良さげなんだけどな。」


納得の行かない鹿島はコーラを飲み干すと

そのままドリンクバーのお代わりへ向かった。


「じゃあ次は僕がいくよ。」


意気揚々と手を上げながら朝比奈は満面の笑みを零した。

その表情は純真無垢。少年そのものであり、

志堂はこの童顔から女の話が出てくることが

全く想像が尽かなかった。

普段話すことといえば、専ら音楽の話と小説の話くらいなものだ。

あえて予想を立てるのならば、その手の話に絡めたことではないか。

と勝手に推測をするほかない。


「まず流行のロックバンドのチケットが余ってるから

 よかったら一緒に行かないって誘うでしょ。」

「なるほど。ライブか。」


浩二が頷きながら答えた。

志堂の思ったとおり音楽関連で絡めてきた。


「そして帰りにCD貸すって言って自宅にあげます。」

「大胆だな意外と。」

「おいおいゆーもなんだかんだお持ち帰りしてんじゃん。」

「そんで飲み物の中に睡眠薬を入れます。」

「ストップ!」


ん? と小首を傾げながら朝比奈はこちらを向いている。

小動物のようで可愛らしいが志堂の耳は誤魔化されない。

今とんでもなく物騒な言葉が絶対に聞こえた。


「飲み物の中に?」

「睡眠薬だけど。」

「なぜ一服盛るんだ?」

「いや暴れられると困るからガチガチに縛るために一旦寝かすんだよ。」


可愛い顔から飛び出た猛毒に志堂の開いた口は塞がらない。

誰もストップをかけないため朝比奈は止まらない。


「まず肘と膝を曲げた状態でテーピングを巻くよね。

 そしたら四つんばいにさせて口に猿轡を噛ますんだ。

 その上で誰がご主人様か身体中に徹底的に教え込めば

 調教の完了だよ!」

「趣旨が変わってる!!」


口説き落とす話をしていたのに、いつの間にか奴隷に堕とす話になっている。

こんなことをしれかしたら確実に実刑は免れない。


「言うことを聞かなかったら取りあえずスパンキングだよね。

 躾のなっていない雌豚には罰を与えなきゃねって。

 僕は女の尻はブッ叩いて音を鳴らすための楽器だと思ってるから。」

「まぁ一理あるぜ。」

「どこに共感してんだお前は。」

「全くだ。そんなことであの女は口説けない。」


何時の間にか席を外していた浩二が

ドリンクバーからココアを片手に戻ってきた。

ゆっくりと啜る浩二に朝比奈は不満な様子だ。


「じゃあ浩二はどうなの?」

「ふっふ、決まっている。」

「自信満々だな。」

「あーくんが自信満々な時はロクな時じゃないぞ。」

「シャラーップ。朝比奈、貴様は読み間違えている。」

「読み間違い?」

「あの女はドMではない、ドSだ!!」


瞳孔を 全、開。目力を強く最低な発言をした。


「な、なんだって?」

「え、続けるのかよ。」

「そう、つまり狭間を真に連れて行くのは

 ロックミュージシャンのライブでも海でもない、

 料亭だ!!」

「いやそれは意味がわからんぞ。」

「黙れ小僧!」


モ○の君ばりの語気が飛び出すと、燃え盛る浩二の炎は勢いを更に増す。

全焼するまでしばしお待ちください、と志堂は心を無にした。


「高級料亭、厳かな雰囲気の中途中退席する自分。

 一人不安になる彼女、そして目の前の襖が突然開く!

 今夜の特別メニューになります、ドM男の緊縛肉体盛りでございます!

 お手元の蝋がよく垂れる赤いロウソクと女王様専用鞭で

 心行くまで目の前の肉を痛めつけて下さい!!」


「それはお前の願望じゃねぇか!!」

「出来ればア○ルを重点的にお願いします。」

「おいおい、ディナー時に肛門弄ってもらうのは衛生的に大丈夫なのか?」

「いやそこじゃねぇよ! 」

「エネマグラなら大丈夫じゃない?」

「改善案を出すんじゃねぇ。」


畳み掛けるようにツッコミで肩で息をすると

その足でドリンクバーへ向かった。

すぐさま注いだドリンクを飲み干しクールダウンを計った。

熱くなり過ぎた。全く持って身にならないのに。

落ち着きを取り戻すと再び別のドリンクをコップに流し込み席に戻った。


「で、ひーやんはどうやって口説くんだ?」


席に戻るなり志堂のターンを要求された。

生憎だった。この3人より面白い口説き方など思いつかない。

持ってきたコーヒーに口を付ける。そして口を開いた。


「学校だな。冬の放課後。ウチの校舎の5Fの踊り場から

 綺麗に月が見える時間があんだよ。

 月並みですが、今夜は月が綺麗ですね。

 恋だの、愛だの、性癖だの I LOVE YOUもいらない。

 経った数分、誰にも邪魔をされずに二人きりで月を見上げる。」


「ふんロマン野郎。しかしよくそんなこと知っていたな。

 特売のスーパーの場所や激安食堂の場所はよく知ってるのに

 娯楽施設の場所を全く知らない貴様が。」


「あーそれ分かる。志堂って理数系で国語なんて全く出来ないのに

 夏目漱石の超個人的I LOVE YOUの翻訳なんて知ってるんだ。」


「しかも5Fだぜ。あそこ教材置き場と文化部の部室しかないじゃん。 

 自分の用事のある最低限の行動範囲で生活してるひーやんに全然関係なさそうじゃん。」


「……金使わないデートスポットだろ、俺にぴったりじゃないか。

 何なら市内の公園と夜景スポットとか頭に入れてある。」


その場にいる全員なるほど、と唸る。その表情を見ると

志堂はカップの最後の一滴まで飲み干した。




「ーー待ったか?」


時刻は18時55分。最終完全下校時刻まであと5分。

ファミレスで他の3人と別れた志堂は再び学校を訪れていた。

場所は5F、踊り場。文化部は部活を終え全員下校しており

しんと静まりかえる厳かな雰囲気を身に纏う美少女が一人佇むだけだった。


「遅い。」


狭間 早百合は不満気に呟いた。

スカートから下をひざ掛けでくるみ、両手はセーターの袖に仕舞いこんでいる。

志堂はすかさず両手を自身の両手で包んだ。早百合は自然とそれを受け入れる。


「浩二と楼と朝比奈にファミレスで拉致されたてた。」


「へーなるほど。彼女を放置して遊んでいたと。」


「ああ、早百合をどうしたら口説けるかみんなで談合してた。 

 アイツら俺達が付き合ってるの知らないから遠慮無しに

 言ってきやがる。途中でぶっ飛ばしたくなった。」


「どんな遊びしてんだ、おい。

 で、因みに彼氏様はどうやって答えたの?」


志堂は抱き寄せた。


「国語が苦手な俺にお前が教えてくれただろ。

 だから黙って月を眺めるって言っといた。」

「バーカ。」


交わるはずなんてなかった。

だがふとしたことがきっかけで交差した二人は

互いに近づき、時には離れ、そして今の0距離へと重なった。

なぜ皆に言わないのか、どんな物語があったのか、

それはこの5Fから眺めるあの月までの距離ほど長い物語。

これを語るには最終下校時間を越してしまうだろう。

だからこそ今眺めるこの景色が全てだ。


「なぁ早百合。」

「ん?」

「今夜も月がきれいですね。」


二人が眺める夜空には、黄金色の満月が孤高に輝いていた。


誤字、脱字、感想、本当にあったスケベな話があれば

よろしくお願いします。


なお筆者はR18の作品を書く気はありません。

今後もR18ギリギリの作品を狙って頑張っていきます。

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