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第7話

「本当に感動しました!」

「のっけからあそこまで盛り上がるとは……」

 ライブが終わり、俺たちは今日の感想を言い合いながら、駅へ向かっていた。

「実はThrTHのライブに行くの、初めてだったんですよ」

「へえ……、っと電話だ」

 立ち止まって携帯を取り出す。婆様からだ。

「どしました?」

「もう終わったかい」

「ええ、いま駅向かってるところっす」

「もし時間があれば、明里もウチで飯食べていったらどうかと思ってね」

「おっ、いいっすね。ちょっと待っててください」

 携帯を耳から離し、明里の方へ向き直る。

「綿貫さん、婆様が『ウチで晩御飯食べていかないか』だって。どうかな?」

「ぜひ! 店長にも今日のお話しをしたいですし」

 いい子!


 婆様と俺が暮らしている家はパン屋のすぐ裏にある。平屋造りの小さな家だ。

「ただいまー」

「お、おじゃまします」

 玄関の扉を開けると、居間の方からすごくいい匂いがする。ふらふらと匂いの元へ。

「意外と早かったね」

「電車が時間がちょうどよくて。今日の献立は?」

「ビーフシチューだよ」

「うまいやつっすね!」

 婆様の十八番だ。

「その、お手伝いしましょうか」

 綿貫さんは落ち着かない様子。人の家ってそうだよな。

「じゃあ、手伝ってもらおうかねえ。まずは手、洗ってきな」

「はい!」

「じゃあ、俺はテレビ見てますね」

「あんたもだよ」

 はい。


「皿はあるかい」

「オッケーっす」

「おいしそう……」

 机に並ぶビーフシチューと手製のパンに目を輝かせる綿貫さん。

「じゃ、食べるとするかね」

 皆が席に着き、いただきますをしようとしたところで、チャイムが鳴った

「俺出ますよ」


 玄関の扉を開ける。

「はいはーい、って雪音じゃん」

「こ、こんばんわ」

 扉の前にいたのは雪音だった。

「よく家わかったなあ」

「いや、迷ったのよ、『教えてもらってもないのに、いきなりは家はちょっと怖いかな……』とか! でもお店の裏だったし! 声聞こえたし! 打ち上げ抜けてきちゃったし!」

 雪音はなんかよくわかんないことを言っている。まあいいや。

「婆様ー、雪音もビーフシチュー食いたいって言ってます」

 すぐに婆様の「かまわんよ」という声が返ってきた。

「だって。ほれ、あがってあがって」

「え、どゆこと!?」

 みんなで食べた方が美味しいもんな。


「どゆこと!?」を連呼している雪音も交え、四人全員が席に着く。

 ちなみに綿貫さんも「ゆ、雪音ちゃん!? いや、雪音さん? 雪音先輩!?」となんか見覚えのある感じでパニック状態になっているが、気にしないことにした。

「いっただきまーす」

「いただきます」

 食事の挨拶は二人分しか聞こえなかった。


 少しして、雪音と綿貫さんは落ち着きを取り戻した。

「えっと、私は綿貫 明里って言います。 水森高等学校の1年生です。 あと、ここのパン屋さんでバイトしてます」

「後輩だったのね」

「すみません、先輩。ついパニックになってしまって……」

「ふふっ、いいのよ。呼び方も雪音ちゃんでいいわ」

 なんか先輩ぶっている雪音。お前もさっきまでパニック状態だったじゃん、ということは言わないでおこう。

「ありがとうございます、ゆ、雪音ちゃん!」

 心底嬉しそうな綿貫さん。よかったね。



「店長、今日の雪音ちゃんすごかったんですよ! 入りから鳥肌もんでした!」

「へえ、流石トップアイドルだね」

「ま、まあね」

 皆、いい感じに打ち解け、食卓を穏やかな空気が包んでいた。

「って、それはとりあえずいいの。 あんたに話があったのよ!」

 雪音が急に俺の方を向く。

「どした?」

「『どした?』じゃないわよ! 今日のライブよ!」

「良いライブだったな」

「ありがとう……、じゃなくて! あんたの反応! なにあれ、どういう感情!?」

 見られていたらしい。

「……ふっ、見られちまったか」

「そういうのいいから」

「ほら、俺ら小学校時代からの付き合いでさ、一緒にバカやってきただろ?」

「バカやってたのはあんただけよ」

「でも、そんな奴がみんなに愛されてさ、夢、掴んで輝いている姿を見ると、なんつーか、こみ上げてくるもんがな……」

 俺は静かに自分の胸中を打ち明けた。

「あの涙は、そういうことだったんですね……」

 微笑む綿貫さん。やっぱいい子だ。

「なるほどね」

 婆様も目を閉じて表情を緩めるのだった。


「……いやいやいやいや、なにこの空気? 全然ピンとこないんだけど」

 マジで?

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