第26話
「えー、それでは、第三回緊急定例会議を始めます」
店の事務所で職員三人プラス一人による会議が開かれていた。
「緊急定例会議って日本語おかしくないですか」
綿貫さんの素朴な疑問。この店はいつも緊急事態だから。
「議題は八月七日のイベントの行動予定についてです」
「今回はオブザーバーとして笹山 雪音さんにも参加していただきます。よろしくお願いします」
雪音も今日はたまたま時間があったようなので、参加してもらうことにしたのだ。
「……別にいいんだけど、昇降口で私を待ち構える前にメール飛ばすなりしなさいよね。めちゃくちゃ恥ずかしかったんだから」
「ごめんごめん、携帯使う発想がなかった。今度からそうするわ」
「私はスルーしましたけど、そういうことだったんですね……」
見られてた!
「それはさておき始めますか」
「あのー」
綿貫さんがおずおずと手を挙げた。
「はい、綿貫さん」
「遊びの話を営業時間中にしてていいんですか?」
「ふふふ、実は遊びの話でもないんだな」
「というと?」
「高橋から聞いたんだけど、最近、隣町にパン屋ができたらしい」
隣町といっても、この店から徒歩十分程度の距離。
「あー、お菓子屋さん一緒になっているところですね」
「最近人気みたいね。クラスの友達もお気に入りとか言ってたわ」
「そう。そして、そのパン屋が今度のイベントに出店、さらには店のレシピほぼすべてを考案したという、天才パン職人もやってくるというウワサ!」
「つまり敵情視察ってやつですか!」
「いや、パンの作り方教えてもらおうかと」
「……たぶん、教えてくれないわよ」
雪音は呆れたように言い放つ。まあダメ元で……。
「それで、当日はちょっと早いけど朝九時に駅集合、十一時前にはウォーターランドに到着ね。確認だけど、ThrThの出番が翌日の午前中だから、泊りになっちゃうけど、綿貫さん大丈夫?」
「はい、お母さんもいいよって言っていたので!」
「それならよかった」
後で婆様から親御さんに連絡を入れるよう頼もう。
「それでホテルの部屋は……、あの、婆様? 知恵の輪いじくってないで話し合いに参加してもらえません?」
……ガン無視かよ。俺に任せたということだろう。そういうことにした。
「部屋は俺と婆様で一部屋、綿貫さんで一部屋ね」
「別に三人一緒でいいですよ?」
「あ、ほんと?」
それだと安く上がるのでありがたい、とか思っていたら雪音が声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って! ストップ! パリ!」
最後のは何語なんだろうか。
「明里はそれオッケーなの?」
「えーっと、はい」
「同じ部屋よ、同じ部屋!」
「そ、そうですね」
綿貫さんはわかりやすく困惑した様子だ。
「……じゃあ、明里は私のところ来なさい! 会場近いし! 一人なら全然問題ないくらいのスペースあるし!」
「いいんですか!」
「もー大歓迎よ!」
そういうわけで、綿貫さんは雪音の滞在するホテルに泊まることになった。一人にならないように気を使ってくれたのか。
「雪音、ありがとうな」
「えっ? ああ、うん」
なんでピンと来てない感じ?




