第25話
「オレよー、スノーダンプ買おうと思ってよー、ホームセンター行ったんだよー。わかるか、スノーダンプ? 雪かきに使う道具で、ソリみてーなヤツ」
「知ってます」
「それでよー、ホームセンターでスノーダンプ探したんだよー。そしたらよ、ねえの! スノーダンプ!」
「夏真っ盛りですし」
「で、お前……、えーっと、名前なんだ」
「ハチロクです」
「でさ、ハチロクよー、許せるか? この出来事をよ?」
「許せますけど」
「オレはよー、許せねえよ。そのホームセンターが、じゃねえぞ? 今から冬支度を始めるような、賢明な人間が報われない、この街の空気そのものが許せねえんだよ」
「はあ」
「オレ決めたよ。この街を変える」
「そうですか」
「だからよ、市議に立候補するための供託金三十万、現金でくれねえか? ハチロクよ?」
「あっ、これカツアゲだったんすね」
夏に突入した浮かれ気分が街を包む7月の終わり、俺は駅前で不良にからまれていた。真昼の炎天下、三十万という常識外れの高額カツアゲに単独でチャレンジするこの不良、実はすごい奴なのかもしれない。
エキセントリックな恫喝をやり過ごしながら、どうしたものかと考えていると、聞き覚えのある声が耳に届く。
「えっと……、何してんだお前?」
「おー、高橋。見てとおり、からまれてる」
「あ、やっぱそうなんだな」
「これ、黙って立ち去っても大丈夫なヤツだと思う?」
「大丈夫じゃねえかなあ。こうして二人で話してても、あっち、それについて何にも言ってこないし」
不良はスノーダンプと自分の決意について、ずっとリピートで演説している。怖すぎるんですけど。
覚悟を決めた俺たちは、静かにその場を後にした。
せっかくなので、ファミレスでしゃべっていくことにした。
「やっぱファミレスっていいわ」
色々食べられるし。
「そうかい」
「あーそうだ、『SUMMER WATER WAVE』って知ってる?」
「もちろん知ってるぜ。今年はThrTHも出るんだろ?」
「そうそう」
「さすが本格派って感じだよな」
本格派はよくわからないが、やっぱこのイベントに出られるのはすごいことなんだな。
「それで、高橋も行こうぜ」
貰ったチケットに加えて、もう一人くらいはねじ込めるらしい。
「今年いつやるんだっけ?」
「えーと、八月の七日」
「ちょっと待て……」
高橋は携帯を取り出して画面を見る。最近の携帯はカレンダー入っているから便利だよな。
「あー、ダメだ。合宿と被ってる」
「合宿? スポーツ吹き矢部?」
「どっからスポーツ吹き矢部が出てきたんだ。バレー部だよ」
「そうだったのか……、高橋が部活……」
「お前、俺のこと暇だと思ってるよな」
すみません。




