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第24話

 雪音の看病をした次の日、俺はいつものように綿貫さんと二人で店頭に立っていた。

「雪音ちゃん、調子大丈夫そうでした?」

「うん、雪音の母親も来てくれたし、もう安心だ」

「それはよかったです」

「綿貫さんたちからも連絡あったって、雪音喜んでたよ」

「ああ、アレですね! 夕菜ちゃん、奏さんと一緒に送った!」

「いつの間にか四人仲良しだなあ」

 俺がそう言うと、綿貫さんは「えへへ」とはにかむ。

「夕菜ちゃんとは前にここで会った時に仲良くなって、なんやかんやで奏さんとも仲良くさせてもらってます」

 なんやかんやが気になるが、良かったじゃない。


「ここ、雪音の幼馴染がやってるパン屋!」

「いい匂いがしますね」

 そんな感じで綿貫さんとおしゃべりしていると、話題のお二人、ThrTHメンバーの千崎さん、宇佐木さんが店にやってきた。綿貫さんが嬉しそうにして、二人に駆け寄る。

「こんにちは! 学校帰りですか?」

「そういうこと。明里ちゃんはもう夏休み?」

「今日が夏休み前最後の半日授業でした」

「じゃあウチらと一緒だ」

 見ると、千崎さんと宇佐木さんは同じ学校の制服を着ている。

「ハチロクくん、ここでお昼食べていい? パン買うからさ」

「どうそどうぞ」

 最近またお客さん減ってきたし、パンを買ってくれるなら大歓迎である。

「綿貫さんも一緒に食べてきたら?」

「いいんですか?」

「うん、制服は着替えてきて頂戴」

「わかりました。ありがとうございます!」

 これは先輩らしい行動だな、と悦に入っていると、事務所から婆様が顔を出した。

「あんたも行ってきな」

「いいんすか」

「久々にレジ打ちしたいからね」

 久々……。

 

 というわけで、俺もガールズトークに混じって昼飯の時間。

「ハチロクくん、やっぱこのパン美味しいよ!」

「それはよかった」

「やはり先輩の壁は高いですね……」

 俺の作ったパンを凝視しながら綿貫さんがそうこぼした。照れるね。

「あっ、そうだ、宇佐木さんに試していただきたいものが……」

「私に……?」

 俺は小瓶を一つ机に置く。

「ジャムですか」

「ええ、青リンゴとバッタのジャムです。俺以外に食べる人いなくて」

「まだ諦めてなかったんですか……」

 綿貫さんが責めるように見てくる。味はいいから!

「蚕とかは食べたことありますが、バッタは初めてですね」

「奏、そういうの好きだよねー」

「では、私と夕菜で試食してみましょう」

「……えっ、私も?」

「もちろん。ハチロクさん、スプーンお借りしても?」

「こちらに。パンもどうぞ」

 二人は白パンにジャムを塗り付け、口に運んだ。

「……まあ、中身知らなきゃ普通に美味しいジャムかな」

 千崎さんは何とも言えない複雑な表情で感想を述べた。

「逆に言えば虫感があまり、ですね」

「やはりそうですか……」

 さすが宇佐木さん、痛いところをついてくる。粉末にしているから昆虫食といった感が薄いのだ。

「……いや、虫感ないほうがいいんじゃない?」

「そもそも虫にこだわる必要あります……?」

 約二名の冷めた視線は受け流すことにする。

「オーストラリアのロケで蟻の成虫をそのまま使ったジャムを食べたことがあります。食べやすいですが虫感はしっかりあって美味しかったですよ」

「あったね、そんなロケ……。奏が珍しくノリノリだったやつ……」

 なるほど、バッタにこだわる必要はないのか。

「ヒントをいただき、ありがとうございます!」

「いえいえ、私も久しぶりに昆虫食への想いを取り戻せた気がします」

 宇佐木さんはそう言い残し、店を去った。かっこいい。

「……え、なんで帰るの!? 用事済んでないのに!」

 用事?

「ハイこれ、三人で来て! 明里もまたね!」

 千崎さんは俺に何かのチケットを手渡すと、「もー」とか呟きながら、宇佐木さんの後を追いかけていった。

「行っちゃいました……」

「『SUMMER MUSIC WAVE』だって。綿貫さん、知ってる?」

 貰ったチケットを見せると、綿貫さんは興奮気味に応えた。

「日本最大級の音楽イベントですよ! ThrTHも出るんですね!」

 ハイボルテージな様子から、有名な催しであることが窺える。

「へー、場所は『栄島ウォーターランド』……?」

「都内の人工島にあるテーマパークですよ。知りません?」

「……はいはいはい、あの水浸しの遊園地ね」

「ウォーターの字面から、なんとかイメージを手繰り寄せようとしたのはわかりました」

 初の都会、楽しみだ。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひたすら面白い。ゆるーい空気感から何から、全部がツボ [気になる点] なし [一言] センスしか感じないです。
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