第21話
催しの後の片付けやら事後処理を終え、俺たちスタッフ一同は打ち上げということで、駅前のファミレスに来ていた。
俺と高橋、綿貫さんといういつものメンバーに芽野上さんを加え、四人掛けのテーブルに座る。
「ここが、ファミレス……! どうする高橋!」
「どうもしねえよ。というかなんで感動してんだよ」
「初めて来たからな」
「……マジで?」
「マジマジ、なに、高橋は来たことあんの?」
「そりゃな」
「えっ、綿貫さんは?」
「ありますよ」
「……芽野上さんは?」
「あるよー」
他のテーブルに座っている家庭科部員たちの方を見る。みんな信じられないものを見たという表情。
「最近の学生凄いな。超都会的じゃん」
「お前の半生に興味湧いてきたわ」
半生て。
「ま、全然外食しない家もあるしね」
芽野上さんのさらりとしたフォローにありがたみを感じていると、綿貫さんがハッとした様子で一言。
「先輩って山奥住みだったんですか?」
違うよ。
「おっ、ビーフシチューあるじゃん、綿貫さんも頼む?」
「店長のビーフシチューが一番おいしいと思いますよ」
そりゃあそうだが、たまには婆様以外のビーフシチューにも触れてみたいじゃない。
「明里ちゃんってハチロクくんのお店でバイトしてるんだっけ」
「はい! パンの作り方勉強したくて」
「俺と綿貫さん、あと高橋もほぼ従業員みたいなもんです」
「違うけどな」
そろそろ折れてくれてもいいのに。
「いいなあ、私もパン作りの神髄学びたーい」
芽野上さんはそう言いながら、手に持ったスプーンをふりふりしている。お行儀!
「芽野上は和食派だろ」
「レパートリー増やしたいじゃん?」
高橋、妙に芽野上さんのパーソナリティに詳しいな。
「高橋先輩、芽野上先輩って前からお知り合いなんですか?」
綿貫さんが聞くと、高橋は頭を掻きながら答えた。
「あー、芽野上とは幼稚園、小中と通いがずっと同じでさ」
「だから先輩である私に対してもため口なわけよ」
「別にいいだろ」
「まーね」
色々つながりってあるんだなあと思っていると、綿貫さんがうつむいて何かつぶやいているのが聞こえた。
「私の周りで怒涛の幼馴染ブームが……!」
「……ブーム?」
「そうですよ! ハチロク先輩に雪音ちゃん、芽野上先輩に高橋先輩!」
2例しかないじゃんというツッコミは胸の内にとどめておこう。
「えっ、笹山さんとハチロクくんって幼馴染なの?」
「意外ですよね、似てないですし」
似てたらびっくりだよ。
「……ハチロク、俺、きいてないんだけど」
「高橋には言ってなかったっけ? 言ってなかったかも。ウケる」
「ウケねえよ」
楽しい時間が終わり家に帰ると、居間で婆様が机に頬杖ついていた。帰りを待っていてくれたみたいだ。
「打ち上げ、どこ行ってきたんだい?」
「なんと、初ファミレスですよ」
「へえ」
「ビーフシチューあったので食べてきたっす」
「ほーん、どうだった?」
「あれはあれでグーですね」
かすかなジャンキー感が新鮮だった。
「ほうほう、で?」
あとは特に感想ないけど……。
「値段もお得でした」
「ほー、で?」
「……でも婆様のビーフシチューが一番です!」
「うむ。じゃ、あたしは寝る。戸締りよろしくたのむよ」
正解だったらしい。そういうことね。




