表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

第2話

 笹山(ささやま) 雪音(ゆきね)は俺の幼馴染である。

 小学校時代からの付き合いで、いまだに連絡取ってるってなかなか珍しいとは思う。

 しかしまあ、雪音が高校入学と同時にアイドル活動を始め、一気にスターダムにのし上がってからは、時々メールでやり取りをする程度。雪音の暮らしはずっと遠くに離れて、もはやベツモノだ。

 だから、いつか雪音がバラエティ番組に出た時にでも、地元の友人としてビデオ出演できればラッキー、そんな程度の間柄なのだと思っていた。


「人生わからんもんですね」

 購買の営業が終わり、俺はパン屋に戻ってきていた。

「その歳で何を悟ったふうなこと言ってんだい」

 棚にパンを並べている婆様が呆れたような声で言う。

「いや、今朝話したアイドルの幼馴染、水森に転校してきたんですよ」

「あら、そりゃ驚いた」

「でしょう?」

「挨拶してきたのかい」

「しようと思ったんですけど、本格的に通うのは明日かららしくて……」

 喋っていると店のドアベルが鳴った。

「いらっしゃい……、って雪音?」

「ひ、ひさしぶりね」

 来店したのは噂の幼馴染だった。


「ほれ、シナモンロールと紅茶はサービスだ」

 立ち話もなんなので、店内の食事スペースに座ってもらう。

「シナモンロールは俺の手作りだぜ」

 ふーん、と言ってから、一口。雪音の表情が変わった。

「おいしいじゃない。いや、ほんとおいしいわね……」

 かなりの好感触。やったね。

「いやー、にしても驚いたよ。水森通うんだって?」

「なんで知ってるのよ?」

「購買あったろ? あそこの店員俺」

「えっ、そうなの?」

「うん」

「まさか……」とか「同じ高校……」とかブツブツつぶやく雪音。どうしたんだ。

「アイドルの方も調子良さそうじゃん」

「ま、当然よね。この私がやってるんだから」

 得意げに胸を張る雪音。

「いやー実際すげえよ、雪音は」

 俺なんてパン……、はもういいや。

「……う、うん」

 雪音はなんか微妙な表情。

「……そうだ! 今度この近くでライブやるから。絶対見にきなさいよ」

「おー、行く行く」

「……」

 やはり微妙な表情。え、なんか怒らせた?


 しばらく話した後、雪音は仕事があるからと店を出て行った。

「久しぶりの再会って割に、なんか妙な感じだったね」

 婆様もレジからやりとりを見ていたらしい。

「確かになんか変な気まずさがあったというか」

 でも、ライブに招待されてチケットまで貰っちゃったし、嫌われてはいないだろう。




「で、どうだったのよ久々に会って」

 次の現場に向かう途中、車を運転するマネージャーが雪音に問いかける。

「いや、まあ、うん」

「あれ、話弾まなかった?」

「いや、そんなことないんだけど……」

「じゃあどうしたのよ」

「貴子さん、私アイドルよね」

「うん? そうだけど……」

 問いかけの意味がわからないといったふうのマネージャー。

「1年ぶりに会った女の子の幼馴染が超絶可愛いアイドルになって会いにきたら、ドキドキするわよね?」

「そりゃあ普通の男の子なら、そうなるんじゃない?」

「よね!? あいつのテンション絶対おかしいわ! 『駅で偶然会った中学時代部活同じだったやつ』ぐらいの感じで接してきたんだけど! 何あれ? ちょーモヤモヤするんですけど!」


 雪音は心底モヤついていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ