第17話
「えー皆さんお揃いのようですので、第二回定例会議を始めます」
夕方、俺は皆の意見を聞くために、急遽定例会議の場を設けた。定例会議なのに全然定例じゃないが、そこは気にしないことにする。
出席者は俺、婆様、綿貫さん、高橋の四人。
「まず最初にですね、先日のチラシ配りのおかげで、店の売り上げが伸びつつあること、改めて職員の皆様にお礼申し上げます」
皆に向かって一礼。労いは大切だからな。
「それでですね、さらなる売上拡大に向けて新商品を開発いたしましたので、それについて皆様の忌憚のない意見をお聞かせいただきたく、今回お集まりいただきました」
俺は新商品を棚から取り出そうとする。すると、高橋が手を挙げた。
「どした? 今から新商品のお披露目タイムに……」
「悪い、ちょっと訊いてもいいか?」
「おう、じゃんじゃん訊いてくれ」
「俺、今日お前に呼び出されて来たわけなんだけど、今回もこんな会議があるって知らなかったんだよ。『飯食おうぜ』って言われただけだから! お前に!」
高橋の語気がだんだん強くなる。
「え、なんなの? 何でお前は毎回真実を告げないの?」
「……まあ、俺ら友達じゃん? 気にすんなって」
「そもそも俺、職員じゃねえし」
「まあでも、友達じゃん」
「それに、この場で俺だけだよな? 無給で会議参加してんの」
「でもほら、友達じゃん?」
「やめて。友達って言葉で全て覆い隠そうとするのやめて」
すげー詰め寄ってくる。ここは何事もなかったかのように振舞って、全てをうやむやにしよう。
「……はい、ではこちらの新商品をですね」
「話聞けや! あと、その気色悪い喋り方やめろ!」
「ああ!? フォーマルな言葉遣いしてるだけだろうが!」
結局取っ組み合いになった。またかよ。
「この前、校外学習で動物公園行ったんですよ!」
「そういや私も昔、娘連れて行ったねえ」
俺たちのことはどうでもいいという感じで、綿貫さんと婆様は雑談に興じていた。
仕切り直して、新商品の紹介タイム(ちなみに高橋とは1ヶ月のパン食べ放題券で手を打った)。
俺は小瓶をいくつか机に並べた。
「これ、ジャムか?」
俺は高橋の質問に頷いて返す。
「ある人物の言葉をヒントに、『俺のパンに足りないものは何か?』ということを考えた結果、コレになった」
「パンですらねえけど……、まあ悪くないな」
「だろ?」
「にしても、結構種類作ったね」
婆様は興味ありげにジャムの入った瓶を眺めている。
「果物とか野菜とか、9種類っすね」
「はー、よくやるねえ」
何で他人事みたいな感じ?
「全部手作りですか!」
綿貫さんも興味津々みたいだ。
「うん、手間だけど結構楽しいよ」
「へえー」
そう言いながら、瓶の一つを手に取る綿貫さん。
「これは何のジャムですか?」
「バッタ」
「……へえー」
そう言いながら、瓶をそっと机に戻す綿貫さん。そんなに嫌?
「大丈夫、ちょっとバッタの粉を混ぜ込んだだけで、ベースは青リンゴだから!」
「じゃあ、普通に青リンゴのジャムでいいじゃないですか! なんでバッタ!?」
「まあ食えばわかるさ。食パン切ってくるから、みんなで食べよう」
「バッタは食べません」
頑な!
「味もいいじゃないか」
「うん、甘くてうまいな」
「桜の花びらのジャムなんか、見た目もすごい綺麗です! バッタはいりませんけど」
皆に一通り試食をしてもらったが、反応は上々だった。バッタ以外。
「よし、これなら計画の第一段階に進めそうだな」
「何だ第一段階って」
高橋は怪訝な表情である。
「三十日の土曜は学校、午前授業だろ? その日の昼に、購買で試食会・販売会をやろうと思う。パンは無料で配っちゃう!」
「あー、いいかもしれませんね。食堂も休みですし」
「そう、そこよ!」
食堂が休みなら、学校に残って昼食をとる生徒はこちらに流れるはず。
「あと、出来れば保護者も呼ぶ!」
親の影響力はでかいからな。
「それ、先生の許可いらねえの?」
「実は先月の頭に、軽く話は振っといたんだよ。そういう催しを考えてるって」
詳細は要相談だが、感触は良かったし。問題ないだろう。
「あとは準備だな。婆様と綿貫さんにはジャム作るのを手伝ってほしい。高橋はビラ作り頼むわ」
「……あっ、やっぱ俺も勘定に入ってる感じなんだ」
もちろん。