第14話
雪音は困っていた。
自室のベッドにあぐらをかいて、「うーん」と一人唸っている(あんましアイドルっぽくない振る舞いだが、今はプライベートだから良いのだ)。
雪音を悩ませていたのは、二日前、マネージャーの貴子に言われたことだった。
――雪音、歌作ってみない?
発端は、とある音楽系番組の企画である。
その企画とは、芸能人に自分で楽曲を制作してもらい、それを番組内で披露するというものだ。そして、その芸能人に雪音はどうかという話が浮上したのだ。
実際のところ雪音はあまり乗り気になれなかったが、受けることにした。それは貴子に対する信頼があったからである。
学生であるメンバーへの配慮から、ThrTHの仕事量は他のアイドルと比較して少ない。にもかかわらず、ThrTHがトップアイドルに上り詰めることが出来たのは、貴子の良い仕事に対する天才的な嗅覚のおかげである。
貴子の選ぶ仕事に間違いはない、雪音はそれをよく知っている。
雪音は貴子に言われた言葉を思い出す。
――本当に全部を一人で作らなくてもいいわ。要は「プロの手が入っていない」ってことが重要なの。
つまり、誰かを頼ってもいいということだ。そう思い、雪音はスマートフォンを手に取った。
「まあその、そういうわけで手伝ってほしいかなあ、なんて」
「なるほど……」
日曜日、俺は雪音の部屋に呼び出されていた。なんかいろいろあって、歌を作らないといけないらしい。
「やるからにはガチってことだな」
「いや、鼻歌レベルの大雑把なやつででいいのよ。編曲ってことでプロの人がいい感じに仕上げてくれるから」
「よし、20分待っててくれ。ちょっと家帰って、モノ取ってくる」
「話聞いてる?」
親友の頼みだ、俺も本気を出さないわけにはいくまい!
持ってきたのはアコースティックギターと五線譜ノート。
「困るんだけど……」
「大丈夫、ちゃんと消音ピックもあるから」
「困ってんのそこじゃないわよ」
雪音といまいち噛み合わない会話していると、インターホンの呼び出し音が鳴った。
「誰かしら……」
雪音がモニターを覗く。
「あの、この前、実家からメロンが送られてきて、よろしければご一緒にどうかなと思いまして!」
訪問者は綿貫さんだった。「どうすればいい?」的な目で雪音は俺を見る。そんな目されても……。
「別に歌作るの隠してるわけじゃないんだろ?」
「でも、ちょっと恥ずかしいし……」
気持ちはわかる。
「う、うん。ありがとう。上がって」
雪音は少し悩んでから、そう言った。雪音、無邪気に弱いからな。
綿貫さんは部屋に入るとすぐ、俺とギターを見て驚きの声を上げた。
「あれっ、先輩? それにそのギターは……?」
「ちょっと事情があるのよ」
雪音が今の状況について説明をする。ちなみに俺はその間、メロン切ってた。
「それで先輩が……。わかりました! 私も微力ながらお手伝いします!」
説明を聞き、拳を握る綿貫さん。
「まあ、そんなしっかりしたものじゃなくていいのよ」
「よっし! 三人でライブの定番になるような、キラーチューン生み出そう!」
「はい!」
「だから話聞いてる?」
「ま、俺と雪音は全く経験がないってわけじゃないし」
俺はそう言いながら、メロンを盛り付けた皿を机に置く。甘くてうまそう。
「えっ! そうなんですか!」
綿貫さんの言葉に俺は頷いて返した。
「中2の頃、俺ら80年代ロックにハマっててさ。自作曲を駅前で……」
「その話絶対しないで」
止められた。え、忘れ去りたい感じ?




